小学生・中学生で柔軟性は必要?
ケガ予防に役立つ?
柔軟性をトレーニングする適正時期っていつ?
柔軟性はスポーツをするために重要な要素です。
この記事では、小学生・中学生の体作りとしての柔軟トレーニングについて以下の項目を解説します。
- スポーツにおける柔軟性の重要性
- 身長の成長が柔軟性に及ぼす影響
- 柔軟トレーニングを強化する適正時期
論文によるエビデンスを基にまとめています。
この記事の結論は以下の通りです。
- 柔軟性はスポーツによるケガ予防に重要
- 身長が急激に伸びる時期(男子:10~14歳頃、女子:8~11歳頃)は柔軟性が低下しやすく、柔軟トレーニングが特に重要
- 柔軟性の最適なトレーニング時期は、男子10~14歳、女子9.5~12.5歳との報告もある
効果的なストレッチのプログラムについては別の記事で解説しています。
柔軟性はスポーツのケガ予防に重要
ここでは、スポーツによるケガの要因やケガ予防のために柔軟性の体作りについて解説します。
結論は以下の通りです。
- スポーツにおけるケガの要因は、内的要因と外的要因が複数関わっている
- ケガ予防のために大切なことは、筋力の向上、柔軟性の向上、疲労状態の改善
- ケガ予防のプログラムとして、柔軟トレーニングはケガリスクを低下させる
田中は、スポーツによるケガの要因を内的要因に分けて、以下のようにまとめています¹⁾。
スポーツによるケガの内的要因
- 年齢
- 性別
- 体組成(体重、BMI)
- 健康状態、既往歴
- 筋力、可動域、VO2max(持久力)
- 形態的特徴、アライメント
- 技術、競技特性
- 精神心理状態
スポーツによる外的要因
- 種目因子(ルール、コーチングなど)
- 保護具(ヘルメット、脛当てなど)
- 用具(シューズ、スパイク、スキー板など)
- 環境(気候、整備状況など)
ケガ予防として、筋力、可動域(柔軟性)、持久力が体作りの要因として挙げられています。
また、柔軟性がスポーツのケガやパフォーマンスに影響することは系統的レビューでも報告があります²⁾。
ストレッチや柔軟性は以下のような、ロジックモデルでケガやパフォーマンスに影響するようです。
スポーツにおいて柔軟性は、ケガやパフォーマンスに関わる重要な要素であることを理解しておきましょう。
さらに、実際にどんな運動プログラムがスポーツのケガ予防に効果的か調査論文もあります。
Robles-Palazónらは、10~17.8歳の多種多様なスポーツの調査をメタ解析して、障害リスクを低下する予防プログラムを報告しています³⁾。
結果は以下の通りです。
筋力・柔軟性・安定性のトレーニングが、スポーツによるケガの発生率を下げるために重要であった
- 筋力+安定性トレーニング IRR 0.26 95%CI 0.15~0.46
- 筋力トレーニング IRR 0.30 95%CI 0.10~0.93
- 柔軟トレーニング IRR 0.49 95%CI 0.36~0.68
青少年におけるスポーツのケガリスクを軽減するトレーニングとして、柔軟トレーニングの効果が明らかとなっています。
柔軟トレーニングは主に、ストレッチによって鍛えることができます。
運動前のウォームアップだけでなく、日々の体作りのトレーニングとしてストレッチは積極的に取り入れることが重要です。
身長の成長のため小学生・中学生は柔軟トレーニングが重要な時期
ここでは、小学生・中学生でなぜ柔軟トレーニングが重要か解説します。
以下が結論です。
- 小学生・中学生の身長が伸びる時期は柔軟性が低下する
- 日本人の身長が急激に伸びる時期は、男子10~14歳頃・女子8~12歳頃
- 身長の成長を加味した柔軟性の体作りとして、男子10~17歳頃・女子8~16歳頃が重要
まず、身長の成長と柔軟性との関係について解説です。
身長が伸びる際、先に骨が伸びて、その後に筋肉が成長します。
そのため、小学生・中学生の急激に身長が伸びる時期は、相対的に柔軟性が低下します。
身長の発達時期に関しては、いくつか目安となる報告があります。
田原らは、身長の標準化成長速度について以下のように述べています⁴⁾。
- 身長が急激に伸び始める年齢take off ageは、男子10.7歳、女子8.8歳
- 身長の最大発育を示す年齢PHVは、男子13.4歳、女子10.8歳
- 身長の伸びが落ち着く年齢FHAは、男子17.1歳、女子15.4歳
用語紹介
- take off age:身長の伸び率が大きく落ちた後に大きく伸び始める年齢
- PHV (Peak Height Velocity Age):年間の身長増加がピークとなる年齢,身長最大発育年齢
- FHA (Final Height Velocity Age):身長増加が1cm未満/年になる年齢,最終身長時年齢
また、Yoshiiらは1万人を超える対象から、身長の最大発育を示す年齢(PHV)を以下のように報告しています⁵⁾。
日本の子どもの身長成長ピークは、男子11~14歳、女子9~12歳
身長の成長時期や伸びる程度は、個人差が大きく一概には言えません。
しかし、標準化された一つの目安として、男子10~14歳頃、女子8~12歳頃は身長の成長に大事な時期です。
身長と柔軟性について、身長が急激に伸びる時期に柔軟性が低下しやすいと研究報告があります。
大高らは、小学生・中学生に学年別に柔軟性を調査しました⁶⁾。
その結果は以下の通りです。
- しゃがみ込みができない割合は、小学校4年生で急激に増加
- 前屈ができない割合は、小学校5年生で急激に増加する
この調査から、小学校高学年(10~11歳頃)で柔軟性が低下すること明らかとなりました。
ただし、この調査の小学生は全員男子という点は注意です。
また、中澤らは中学生男子サッカー部員を対象に成長速度と柔軟性を調査しました⁷⁾。
その結果は以下の通りです。
- take off age~PHAまでの時期と比べて、PHA~FHAまでの期間は下肢筋群の柔軟性が有意に低下していた
- PHA~FHAの柔軟性は、take off age~PHAの時期に低下したものが継続していた可能性もある
中学生男子のみの調査ですが、PHA~FHAでも柔軟性が有意に低下していることが示されています。
柔軟性は身長の成長と深い関係があります。
そのため、身長が伸び始めるtake off age~身長の伸びが落ち着くFHAまでの期間は特に柔軟トレーニングが重要です。
男子10~17歳頃・女子8~16歳頃は、体作りとして柔軟トレーニングを積極的に取り入れましょう。
柔軟性を鍛える適正時期
柔軟性を鍛える適正時期について解説します。
上記で述べたように、身長が急激に成長するタイミングは柔軟トレーニングの適正時期です。
ただし、ここでは身長とは別に、柔軟性が向上しやい時期を調査した研究を紹介します。
以下、結論。
- 柔軟性のトレーニング最適時期は、男子10~14歳・女性9.5~12.5歳
- 小児期(6~11歳)と青年期(12~18歳)では、ストレッチによる柔軟性向上の効果に明らかな差は認めない
大澤は、文部科学省の新体力テストを活用して10年分のデータから、身体機能の最大発達年齢(最も発達する時期)を調査しました⁸⁾。
その結果は、以下の通りです。
種目ごとのトレーニング最大発達年齢
- 筋力:男子10.6~14.9歳・女子7.7~13.6歳
- 持久性:男子最大値11.4歳・女子最大値10.5歳
- 敏捷性:男子10~13歳・女子5~6歳以降
- 柔軟性:男子10~14歳・女子9.5~12.5歳
柔軟性トレーニングの最適時期は、男子10~14歳、女子9.5~12.5歳と報告されています。
男女ともの身長が急激に伸びるtake of age ~ PHVの時期と重なっており、この時期に柔軟トレーニングが重要だと考えられます。
ただし、大澤の結果は身長が伸びる時期も柔軟性が向上しやすいと述べており、身長の急成長は柔軟性が低下しやすい報告と矛盾しました。
この調査では、身長の成長や運動歴などを検討していないため、今後のさまざまな要因を含めた調査が期待されます。
また、ストレッチの効果的な時期を調査するため、小児期と青年期で比較した研究があります。
Dontiらは、28研究によるメタ解析から、小児期(6~11歳)と青年期(12~18歳)の柔軟性に対するストレッチ効果を調査しました。
その結果は以下の通りです。
- 小児期と青年期ともにストレッチによって有意に関節可動域の増加を認めた
- 関節可動域の増加に関して、小児期と青年期で有意な差は認めなかった(p=0.32)
小児期と青年期でストレッチが柔軟性に有効であり、得られる効果は同じ程度であったと報告しています。
年齢別に比較してないため、最適な年齢は検討できませんが、ストレッチによる柔軟性の向上は18歳まで同じ程度の効果が得られると考えられます。
まとめ
小学生・中学生における柔軟性の重要性や柔軟トレーニングの適正時期ついて解説しました。
- スポーツによるケガやパフォーマンスには柔軟性が重要
- 柔軟トレーニングはスポーツによるケガのリスクを減少させる
- 標準化された目安として、身長が急激に伸びる時期は、男子10~14歳頃・女子8~11歳頃
- 身長の成長を考えると、男子10~17歳頃・女子8~16歳頃まで体作りとして柔軟トレーニングが重要
- ストレッチの最適時期は男子10~14歳、女子9.5~12.5歳と報告もあるが、青年期(18歳まで)でもストレッチ効果は十分に期待できる
ウォームアップだけでなく、体作りとして日々のストレッチは重要です。
特に小学生・中学生では成長やスポーツの影響を受けるため、積極的に運動として行いましょう。
参考資料
- 田中直樹.スポーツ分野における理学療法士の予防的な関わりースポーツ障害と向き合う上で考えておきたいことー.理学療法の歩み.2021.
- Stephen B Thacker, et al. The impact of stretching on sports injury risk: a systematic review of the literature. Med Sci Sports Exerc. 2004.
- Francisco Javier Robles-Palazón, et al. A systematic review and network meta-analysis on the effectiveness of exercise-based interventions for reducing the injury incidence in youth team-sport players. Part 1: an analysis by classical training components. Ann Med. 2024.
- 田原佳子,他.身長の標準化成長速度曲線とその臨床応用.東京女子医大誌.1987.
- Keisuke Yoshii, et al. Establishment of a longitudinal growth chart corresponding to pubertal timing. Clin Pediatr Endocrinol. 2018.
- 大高麻衣子,他.小中学生のスポーツ健診の取り組み-運動器障害と柔軟性の評価-.秋田大学保健学専攻紀要.2017.
- 中澤理恵,他.中学生サッカー選手における身長成長速度曲線と下肢筋柔軟性との関係.理学療法科学.2007.
- 大澤清二.最適な体力トレーニングの開始年齢:文部科学省新体力テストデータの解析から.発育発達研究.2015.
- Olyvia Donti, et al. Is There a “Window of Opportunity” for Flexibility Development in Youth? A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Med Open. 2022.
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