
高齢者がパワートレーニングする運動強度は、どれくらいがよいの?
高強度のパワートレーニングの方が効果がある?

運動強度を簡単に推定できる方法はある?
パワートレーニングは筋力トレーニングの一種であり、
運動強度は効果に影響する重要な要素です。
この記事では、高齢者におけるパワートレーニングの適切な運動強度とその設定方法について論文や協会声明をもとに解説します。
この記事の結論は以下の通りです。
- 高齢者においてADLやパフォーマンス、安全な生活のためにパワートレーニングは重要
- パワートレーニングの適切な運動強度は低~中強度(40~60%)
- パワートレーニングは高強度で行う必要はない可能性
- 運動強度の簡単な推定には、反復回数や自覚的運動強度(ボルグスケール)を用いる方法がある
適切な運動強度は、効果的なパワートレーニングの実施や安全面の管理に役立ちます。
- パワートレーニングの適切な運動強度がわかる
- 運動強度を推定する方法がわかる
高齢者における筋パワーとパワートレーニングの重要性
ここでは、高齢者における筋パワーとパワートレーニングについて簡単に紹介します。
結果は以下の通りです。
- 筋パワーとは「筋の収縮力×速度」で定義され、「短時間でどれだけの力が発揮でいるか」
- 筋パワーは高齢者の身体機能や安全に生活するために、最大筋力よりも重要な能力
- パワートレーニングは筋パワーの向上を図るため、求心性運動をできるだけ速く運動するレジスタンストレーニングの一つ
筋パワーは、力に速さの要素が追加され「筋力×速度」で定義され、
「すばやく、どれだけ力が発揮できるか」を示します。
高齢者において筋パワーは重要な能力です。
その理由は以下が挙げられます。
- 高齢者は、加齢に伴い速筋線維であるタイプⅡ線維が選択的に衰えることが知られています1)。
- 筋パワーは最大筋力よりも、高齢者の機能制限と密に関係している2)。
- 高齢者の安全に関連する機能的タスク(交通量の多い交差点の横断や転倒防止など)は、下肢筋の十分な速度が必要
加齢によって筋パワーは低下しやすく、高齢者において筋パワーは生活やパフォーマンスに大きく関係していることが報告されています。
そのため、筋パワーを高めるパワートレーングが重要です。
パワートレーニングとは、求心性運動を「できるだけ速く」動かすレジスタンス運動の一種です。
通常のレジスタンス運動では、求心性運動時も遠心性運動時も2~3秒程度かけて反復運動を行いますが、
レジスタンス運動に「速度」の要素を取り入れて、短時間で筋を最大収縮させるトレーニングを行うことで、筋パワーの効果的な向上を図ります。
パワートレーニングの運動処方は、いくつかの論文や声明をまとめると以下の通りです。
- 求心性運動はできるだけ速く動かす
- 遠心性運動は通常のレジスタンス運動と同じ(2~3秒かける)
- 運動強度は低~中強度(40~60%1RM)
- 反復回数は6~10回
- セット数は2~4セット
- 頻度は週2~3日
パワートレーニングの運動処方を理解して積極的に取り入れましょう。
高齢者におけるパワートレーニングについては、別の記事にて運動処方や注意点・進め方について、詳しく解説しています。
パワートレーニングの適切な運動強度
ここでは、高齢者におけるパワートレーニングの適切な運動強度について、解説します。
パワートレーニングも通常のレジスタンストレーニングと同様に高強度の運動を目指した方が良いのでしょうか。
結果は以下の通りです。
- 高齢者におけるパワートレーニングでは高強度の負荷はいらない
- 高齢者のパワートレーニングにおける適切な運動強度は低~中強度(40~60%1RM)
通常のレジスタンストレーニングの運動強度は、低~中強度で運動を開始して段階的に負荷をあげて、最終的に高強度でのトレーニングを行うようになります。
一方で、パワートレーニングの運動強度は、ACSM(アメリカスポーツ医学会)や系統的レビューから以下のように挙げられています。
- ACSM:30~60%1RM 4)
- National Strength and Conditioning Associationの見解声明:低~中強度(40~60%1RM) 5)
- 地域高齢者を対象とした13RCT:40~70%1RM 6)
高齢者におけるパワートレーニングの運動処方では、軽~中強度(30~70%1RM)が推奨されているようです。
パワートレーニングの運動強度については、いくつか興味深い研究があります。
Bandeira-Guimarãesらは、高齢者を対象にパワートレーニングの運動強度別に効果を3RCTからメタ解析によって比較しました7)。
調査結果は以下の通りです。
低強度(49%1RM以下)と中強度(50~69%1RM)のパワートレーニングの効果を比較すると、レッグプレスと膝伸展の1RMやピークパワーに有意な差を認めなかった
低強度(49%1RM以下)と高強度(70%1RM以上)のパワートレーニングの効果を比較すると、膝伸展1RMのみ高強度トレーニングの方が高かったが、その他は有意な差を認めなかった


高齢者の筋パワーの向上には、低~中強度パワートレーニングでも高強度パワートレーニングと同等の効果を示すことが明らかとなっています。
ただし、この調査では対象研究が3件と少ないため、今後の調査が期待されます。
また、高齢者のための筋力トレーニング:全米ストレングス&コンディショニング協会による見解表明にて、筋パワーの運動強度は以下のように述べられています5)。
- 下肢の筋パワーにおいてはトレーニング強度の影響は観察されない
- 運動強度が低~中強度(40~60%1RM)で求心性収縮時に高速度の動作によるパワートレーニング(高速レジスタンス運動)は高齢者の最大筋力,筋出力,筋肉量,機能的能力の増加を示すエビデンスがある

筋パワーにトレーニング強度が影響しない可能性があり、低~中強度のトレーニングで十分に効果が見込めることが述べられています。
しかし、まだデータは不足しており運動の種類や頻度など、今後の調査が必要な状態です。
高齢者におけるパワートレーニングでは高強度のトレーニングは必要なく、
軽~中強度の運動強度で十分に効果が得られるようです。
それでは、なぜパワートレーニングでは高強度のトレーニングでなくても効果が得られるのでしょうか?
Bandeira-Guimarãesらは、パワートレーニングに運動強度が影響しない理由を以下のように考察しています7)。
- 運動単位が動員される筋の閾値は、筋の収縮速度が速いほど閾値が低下する特徴がある。
- そのため、低~中強度の運動強度でも、求心性運動を高速で行うことで速筋(タイプⅡ線維)の運動単位が動員される
- 速筋(タイプⅡ線維)の運動単位の動員は最大筋力の向上に重要のため、低強度と高強度で最大筋力の向上に差が生じない可能性

パワートレーニングによって最大筋力の向上に運動強度が影響しなかった要因について、運動単位の動員が大きく影響しているとしています。
また、全米ストレングス&コンディショニング協会の見解表明は、
強度別のパワートレーニングで高齢者の神経筋・機能的向上が同程度であった要因を以下のように述べています5)。
- 高速で筋肉を動かすと、速筋(タイプII筋線維)を構成する“高閾値運動単位”が動員される
- 力は「移動した質量×加速度」のため、中強度でも速い反復運動で負荷が大幅に増加する

高速の収縮運動によって、速筋の運動単位が動員されること、加速度によって負荷が増加することで、
高強度の運動でなくても十分に高いトレーニング効果が得られると考えられます。
ただし現段階でも、パワートレーニングで高強度を必要としない要因については、不明な点もあり、今後の調査が楽しみな分野です。
運動強度を推定する2種類の方法:反復回数と自覚的運動強度
ここでは、パワートレーニングの運動強度を推定する方法を2つ紹介します。
パワートレーニングはレジスタンス運動の一種のため、同じ方法で運動強度を推定できます。
最も科学的に正確な方法は、1RMを専用機器にて測定する方法ですが、
専用機器は高価のため一般の病院や施設では設置されていません。
そのため、特別な機械を用いずに、簡単かつ誰でも実施できる方法を解説します。
結論は以下の通りです。
- 反復回数から%1RMを推定できる
- 中強度の負荷は15~20回の反復運動ができる運動強度
- 自覚的運動強度(ボルグスケール)から%1RMを推定できる
- 低~中強度の負荷はボルグスケール8~13程度の運動強度
詳細を解説していきます。
反復回数から運動強度を推定する
ここでは反復運動回数によって運動強度を推定する方法について解説します。
結論は以下の通りです。
- 反復回数から%1RMを推定できる
- 中強度の負荷は15~20回の反復運動ができる運動強度
2024年にNuzzoらは、さまざまな%1RMで完遂できる反復運動回数をメタ解析およびモデレーター分析にて調査しました8)。
結果は以下の通りでした。
- 80%1RMの完遂可能反復回数は10回程度、60%1RMの完遂可能反復回数は20回程度、45%1RMの完遂可能反復回数は30回程度
- 性別、年齢、トレーニング状況は、%1RMと反復回数の関係に影響しなかった
- 推定値は負荷のデータが限られているため、低い%1RM 値では精度が低い

さらに、同論文内で下肢を鍛えるレッグプレスと上肢を鍛えるベンチプレスで、それぞれ負荷量と反復回数の関係も解析しました。


この結果から、年齢や性別を考慮せず完遂可能な反復回数から運動強度を推定できることが明らかとなりました。
ただし、データ量の不足により低負荷量では精度が低い点は注意しましょう。
ちなみに、低強度では反復回数35回程度、中強度では反復回数20回程度、高強度では反復回数5~10回程度となります。
また、書籍においても運動強度と反復回数の関係が記されています。
山本は「測定と評価 現場に活かすコンディショニング科学」にて負荷量と反復回数の関係を紹介しています9)。
負荷量と反復回数の関係は以下の通りです。

高齢者に推奨されることが多い中等度(60%1RM)の運動強度は、15 回程度の反復運動レベルです。
ちなみに、山本は反復回数と負荷量の関係を推定するメリットを以下のように述べています。
1RMテストは、1回持ち上げられる最大重量を測るテストであり、負担が大きく危険性がある。
反復回数と負荷量の関係から運動強度を推定する方法は、負担が少なく安全である。
反復回数を用いる方法は、一度にかかる負荷が小さく、安全面のメリットもあります。
高齢者や疾患がある人が多い病院や施設では、リスク管理がしやすい点も重要です。
またNSCA(ストレングス&コンディショニング協会)では、負荷量と反復回数の関係を以下のように述べています。

10回実施できる負荷量は75%1RM、15回実施できる負荷量は65%1RMとしています。
多くの論文や著書から、運動強度(%1RM)は反復回数と負荷量の関係から推定できることが報告されています。
パワートレーニングでは低~中強度(40~60%)が推奨されているため、
20~35回程度の反復運動ができる負荷が目安となります。
簡単で専用の機器を必要としないため、臨床でも活用してみましょう。
自覚的運動強度(ボルグスケール)から運動強度を推定する
ここでは自覚的運動強度(ボルグスケール)によって運動強度を推定する方法について解説します。
結論は以下の通りです。
- 自覚的運動強度(ボルグスケール)から%1RMを推定できる
- 低~中強度の負荷はボルグスケール8~13程度の運動強度
自覚的運動強度(rating of perceived exertion: RPE)とは、運動時もしくは運動後の身体的負担度を自覚的に判断する方法です。
自覚的運動強度の評価スケールの代表例は、ボルグスケール(Borg Scale)です。

基本的には筋力トレーニングでは適用されない自覚的運動強度ボルグスケールですが、
筋力トレーニングの運動強度を設定するために活用できることがいくつか報告されています。
Tiggemannらは、2021年にランダム化比較試験(RCT)にて、1RMテストとボルグスケールで運動強度を設定し筋力トレーニング効果を比較した調査を行いました11)。
結果は以下の通りです。
- 1RMとボルグスケールで処方した運動強度は同程度の筋力向上の効果があった
- %1RMとボルグスケールの関係として、13 (ややきつい) は50%1RM程度、15(きつい)は65%1RM程度、17(非常にきつい)は70%1RM程度の負荷に相当した


ボルグスケールを用いた運動強度を設定する方法でも、1RMテストと同等の効果があり、
ボルグスケールの有効性が示されています。
ボルグスケールと%1RMの関係では、ボルグスケール13(ややきつい)で中強度の負荷に相当するようです。
また、下和弘は2020年の日本老年医学会誌にて、高齢者の筋力トレーニング強度をボルグスケールによって、以下のように設定しています12)。
頻度:週2~3回
期間:6週間以上の継続
強度:40~60%1RMの低強度(ボルグスケール 8-10)~60~70%1RMの中等度(ボルグスケール 11-13)
回数:15-20回で1-2セット

低~中強度の筋力トレーニングでは、ボルグスケール8~13程度であることが示されています。
これらを参考にすると、パワートレーニングにおける低~中強度はボルグスケール8~13の範囲であると考えられます。
ボルグスケールは短時間かつ被験者も簡単に行えるメリットがあります。
臨床でも活用してみましょう。
高齢者における運動強度の設定は、別記事にて詳細に解説しています。
まとめ
ここまで、パワートレーニングの運動強度について、適切な運動強度や設定方法について解説しました。
- 高齢者はADLや身体機能、安全な生活のためにパワートレーニングが重要
- パワートレーニングの運動強度は低~中強度(40~60%1RM)が推奨される
- パワートレーニングでは低~中強度のトレーニングで十分な効果が見込めるため、高強度のトレーニングは不要の可能性
- 低~中強度のパワートレーニングで十分な効果が得られる要因として、①速い求心性運動によって運動単位の動員が増加する、②加速度によって負荷が増加することが考えられる
- 運動強度の簡単な推定は、反復回数から推測する方法とボルグスケールを活用する方法がある
- 中強度の負荷は15~20回の反復運動ができる運動強度
- 低~中強度の負荷はボルグスケール8~13程度の運動強度
参考資料
- Gregory J Grosicki, et al. Single muscle fibre contractile function with ageing. J Physiol. 2022.
- Maren S Fragala, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019.
- Stephen P. Sayers, et al. High-speed power training in older adults: A shift of the external resistance at which peak power is produced. J Strength Cond Res. 2015.
- Kraemer WJ, et al. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2002.
- Maren S Fragala, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019.
- Anoop T Balachandran, et al. Comparison of Power Training vs Traditional Strength Training on Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2022.
- Marcelo Bandeira-Guimarães, et al. Chronic Effects of Different Intensities of Power Training on Neuromuscular Parameters in Older People: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Med Open. 2023.
- James L Nuzzo, et al. Maximal Number of Repetitions at Percentages of the One Repetition Maximum: A Meta-Regression and Moderator Analysis of Sex, Age, Training Status, and Exercise. Sports Med. 2024.
- 測定と評価 現場に活かすコンディショニングの科学.山本利春.2007.
- Sheppard JM, Triplett NT. Program design for resistance training. In: Haff GG, Triplett NT, editors. Essentials of strength training and conditioning. 4. Champaign: National Strength and Conditioning Association; 2016.
- Carlos Leandro Tiggemann, et al. Rating of Perceived Exertion as a Method to Determine Training Loads in Strength Training in Elderly Women: A Randomized Controlled Study. Int J Environ Res Public Health. 2021.
- 下和弘,他.高齢者の疼痛管理と緩和ケア 4.高齢者の疼痛予防運動(レベルに合わせた運動療法).日老医誌.2020.
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