みなさん筋パワーとはなにか知っていますか?
筋パワートレーニングは、リハビリプログラムやスポーツトレーニングでも活用されているトレーニングです。
この記事では、
- 筋パワーとはなにか
- パワートレーニングと筋力トレーニングのどちらが有効か
- 筋パワートレーニングの具体的な運動処方
について紹介します。
結論として、
- 筋パワーは筋力とは異なり、速度の要素が含まれる
- 筋パワーは筋力よりもパフォーマンスと関連する
- 高齢者、小児青年期ともに筋パワートレーニングの方がパフォーマンスの向上に有効
- 筋パワートレーニングのプログラムは、運動速度:高速が推奨
です。
筋パワーってなに?特徴は?
筋パワー(muscle power)、は筋力(muscle strength)とは異なります。
筋パワーは、「筋力×距離/時間」で表されることが多く、筋力と速度の両方の概念が含まれています。
簡単にいうと、「短い時間ですばやく発揮できる力」を指します。
そのため、筋パワーの評価には、バイオデックスのような専門機器を用いた測定だけでなく、
ジャンプの高さや階段昇降速度、椅子からの立ち上がり速度など、様々な測定方法があります。
筋力が重要なことは、みんな知っていることですが、
日常生活やスポーツなどでは、大きな力を発揮するのと同じくらい、
すばやく力を発揮することが重要になります。
例として、
下肢筋力が強くても、つまづいた時に、素早く足がでなければ転んでしまいます。
Sayersらは、筋パワーの向上は、交差点をすばやく横断したり、転倒予防の面から高齢者の安全面に関するパフォーマンスに有効であると述べています。
また高齢者だけでなく、若年者においても筋パワーの重要性は報告があり、
Behmらは、ジャンプパフォーマンス(高く飛ぶ)において筋力よりも筋パワーの関与が大きいことを述べています。
他にも、いくつもの研究で、
筋パワーは椅子からの立ち上がり能力や階段の昇降能力、歩行速度などの
ADLやパフォーマンスに関わる重要な要素であることが示されています。
筋パワーは加齢による低下率が筋力よりも大きいという特徴があります。
これについては、複数の研究が、膝伸展筋パワーやジャンプ能力、階段昇降能力などの様々な筋パワーテストを実施した結果、
共通して報告されており、ほぼ結論づけられています。
加齢により筋パワーの低下率が大きい理由の一つが、
”筋肉量の減少”と”タイプⅡ線維の選択的減少”です。
タイプⅡ線維の減少とは、
筋線維の種類はおおまかに、タイプⅠ線維の遅筋とタイプⅡ線維の速筋に分けることができます。
速筋とはその名の通り、早く収縮することに優れた筋です。
そのため、加齢によりタイプⅡ線維が選択的に減少すると、
筋がすばやく収縮することが生理学的に不利になるということです。
タイプⅠ線維とタイプⅡ線維の変化について興味があれば、別の記事で紹介しています。
リハビリで関わることが多い高齢者では、
筋力以上に筋パワーが低下していることをふまえて
プログラムを検討する必要がありそうです。
【効果】パワートレーニングは従来の筋力トレーニングよりもパフォーマンス向上に有効
筋パワーが重要なことは分かったと思いますが、
従来の筋力強化トレーニングと筋パワーを鍛えるトレーニング(パワートレーニング)のどちらの方が効果が高いのか疑問です。
パワートレーニングと筋力トレーニングでは、どちらの方が有効か検討されています。
結論として、
- パワートレーニングは、筋力強化トレーニングよりも身体機能の向上効果がわずかに高い
- 筋力強化トレーニングよりも筋パワーやパフォーマンス、移動能力の向上にパワートレーニングは有効
です。
地域高齢者383名を対象にしたAnnopらの報告では、
従来の筋力トレーニングよりもパワートレーニングの方がSPPBなどの身体機能に対する効果が高い(SMD 0.30)
と結論付けています。
SMDとはメタアナリシスにおける標準化平均差のことで、簡単に言うと標準偏差として介入効果を示します。
SMD <0.4:小さい効果
0.4~0.7:中等度の効果
SMD >0.7:大きい効果
また、高齢者を対象とした別のメタアナリシスの報告では、
筋パワー(SMD 0.99)や立ち上がり能力などのパフォーマンス(SMD 0.43)、移動能力(SMD 0.36)は、
従来の筋力トレーニングよりもパワートレーニングで効果が高いと報告しています。
高齢者においては、筋パワーや身体機能、移動能力はパワートレーニングが有効ですね。
高齢者だけでなく、小児期青年期を対象に筋パワーのトレーニング効果も検討されています。
Davidらはメタアナリシスの結果から、
ジャンプパフォーマンスには、筋力トレーニング(SMD 0.52)よりもパワートレーニング(SMD 0.69)が有効だが、
スプリント(短距離走)パフォーマンスには、パワートレーニング(SMD 0.38)よりも筋力トレーニング(SMD 0.48)が有効である
と報告しています。
ただし、「両方のトレーニングはSMDにて中等度の効果があるため、どちらの絶対的優位性を示しているわけではない。」
と考察しており、
小児期青年期において筋力トレーニングもパワートレーニングも有効性が示されています。
また、最大筋力に対する運動効果としては、
パワートレーニングより筋力トレーニングが有効です。
そのため、重要なことは、
最大筋力の向上を目的に筋力トレーニングを実施し、
パフォーマンスの向上を目的にパワートレーニングを実施する図ることです。
Davidらも、筋力トレーニングの後に、パワートレーニングを組み込むことが有効であると述べています。
リハビリプログラムで筋力トレーニングだけで終わることはないと思いますが、
身体パフォーマンスを意識してパワートレーニングを組み合わせることが、
運動効果を高めるために重要となります。
【運動処方】パワートレーニングの設定は軽中負荷で速く運動
ここでは、具体的にパワートレーニングの強度や回数など説明します。
パワートレーニングの処方について以下、結論です。
軽~中等度の運動強度で、できるだけ速く運動すること
American College of Sports Medicine (ACSM)は、健康な高齢者の筋パワー増加には、
- 強度:40~60%1RMの軽~中等度
- 回数:6~10回
- セット数:1~3セット
- 運動速度:高速
と提唱しています。
また、13のRCT、383名の地域高齢者を対象とした論文では、
- 強度:40~70%1RMの軽~中等度
- 回数:8~10回
- セット数:2~4セット
- 運動速度:求心性運動はできるだけ速く,遠心性運動は2~3秒かける
- 期間:週1~3回で12週間
と設定した報告が多かった述べています。
また、メタアナリシスで報告しているTschoppは、パワートレーニングを、
中等度の負荷を用い、エクササイズの全周期あるいは、少なくとも求心性収縮時だけは、できる限り速い運動を行うトレーニング
Marielle Tschopp, et al. Is power training or conventional resistance training better for function in elderly persons? A meta-analysis. Age Ageing. 2011.
と定義しています。
共通して重要な点としては、
強度は軽~中等度負荷でよいこと、そして求心性運動はできるだけ速く運動することです。
この2つはしっかりと覚えておいた方が良いですね。
次に、具体的なプログラム内容ですが、
パワートレーニングについて報告している論文では、
座位での膝伸展運動のようなOKCやベンチプレスを用いたキッキングのようなCKC、台からの跳躍運動、椅子からの立ち座り運動、階段昇降運動など、
多種多様なトレーニングが実施されています。
結論としては、特異性の原則に基づいてトレーニング内容を決定します。
念のため、”特異性の原則”とは、
トレーニング効果はトレーニングしたように高まるという原則のことです。
つまり、ジャンプパフォーマンス向上には跳躍運動が適しており、
立ち上がり能力向上には立ち座り運動が適しているということです。
能力向上を図りたいパフォーマンスと同じ、もしくは似た運動でトレーニングを行いましょう。
まとめ
- 筋パワーとは、最大筋力ではなく、筋力と速度が重要
- 筋パワーは日常生活やパフォーマンスと関係が大きく、加齢により筋力よりも低下しやすい
- パワートレーニングは筋力トレーニングよりも身体機能の向上に有効である可能性
- パワートレーニングは軽~中等度の強度、求心性運動は高速で運動
- パワートレーニングの内容は特異性の原則に基づき選択する
参考資料
- Stephen P. Sayers, et al. High-speed power training in older adults: A shift of the external resistance at which peak power is produced. J Strength Cond Res. 2015.
- David G Behm, et al. Effectiveness of Traditional Strength vs. Power Training on Muscle Strength, Power and Speed with Youth: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Physiol. 2017.
- Kieran F Reid, et al. Skeletal muscle power: a critical determinant of physical functioning in older adults. Exerc Sport Sci Rev. 2012.
- Bret H Goodpaster, et al. The loss of skeletal muscle strength, mass, and quality in older adults: the health, aging and body composition study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2006.
- Anoop T Balachandran, et al. Comparison of Power Training vs Traditional Strength Training on Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2022.
- Mohamed El Hadouchi, et al. Effectiveness of power training compared to strength training in older adults: a systematic review and meta-analysis. Eur Rev Aging Phys Act. 2022.
- Kraemer WJ, et al. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2002.
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