加齢と廃用による筋線維タイプ変化の特徴とアプローチ~速筋と遅筋の構成割合~

運動療法
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高齢者が増えており加齢性の筋力低下や治療時の安静臥床による廃用(不活動)性の筋力低下は、術後直後の急性期病院から長期療養型の施設まで幅広い分野で問題になってます。

みなさんは、加齢に伴い筋力低下した方も、廃用によって筋力低下した方も、同じ考え方でプログラムを組み立てていませんか?

実は、加齢に伴う筋力低下と廃用に伴う筋力低下では、筋に生じる変化が異なり、アプローチの際の考え方も異なります。

知っている人は知っていますが、知る機会がない人も多いと思います。

この記事では、筋に着目して加齢性変化と廃用性変化の特徴をまとめ、それぞれの運動療法ポイントを紹介します。

結論として、

加齢性変化では速筋線維が優位に筋委縮するため、速い動作が苦手となったり、バランス能力が低下する。

アプローチとして、運動速度に着目したパワートレーニングを取り入れる。

廃用性変化では、遅筋線維が優位に筋委縮するため、長く起きていることが大変となり臥床傾向になりやすい。

アプローチとして、活動量を増やすことが重要だが、そのためのポイントが5つある。

この記事を読むメリット
  • 筋線維の加齢性変化と廃用性変化の特徴がわかる
  • 加齢性の筋力低下と廃用性の筋力低下それぞれのアプローチポイントがわかる

筋線維の運動生理学

最初に、簡単に筋線維のTypeと機能を紹介します。

筋線維は生化学的な性質の違いや代謝、機能の違いによって分類され、

ミオシンATPアーゼの観点から、収縮が遅い遅筋線維と呼ばれるTypeⅠ収縮が速い速筋線維であるTypeⅡaⅡb線維の3つにわかれます。

(厳密にはさらに細かく分類もありますが、今回は割愛させていただきます。)

筋線維タイプ
  • 遅筋(TypeⅠ線維)は、疲労耐性は高い。収縮速度が遅い。筋線維径は細い。酸素運搬能に関わるミオグロビン含有量が多いため、赤く見える。
  • 速筋(TypeⅡb線維)は、疲労耐性が低い。収縮速度が速い。筋線維径は太い。ミオグロビン含有量が少なく、白く見える。
  • 速筋(TypeⅡa線維)は、TypeⅠ線維とTypeⅡb線維の中間的な機能を有する。

骨格筋はこの3種類の筋線維が混在しており、筋によって各筋線維タイプの構成割合が異なります。

例えば、瞬発的な発揮張力が要求される腓腹筋ではTypeⅡb線維が多く、持久性が要求されるヒラメ筋ではTypeⅠ線維が多くなる。

また、TypeⅡ線維はTypeⅠ線維よりも筋線維径が太いため、最大筋力を発揮する際にも、TypeⅡ線維の割合が多い筋が有利とされています。

ちなみに、COPDや循環器疾患、糖尿病では、速筋線維減も少しますが、遅筋線維での減少が顕著になります。

その結果、健常者に比べて遅筋線維の割合が低下し、有酸素エネルギー代謝能力が低下します。疾患によって筋性タイプの構成割合が変化することもあります。

加齢による筋変化は速筋線維が優位に筋委縮する

加齢による筋変化の特徴は、速筋線維が選択的に優位に筋委縮するが、遅筋線維は比較的影響を受けにくいことです。

加齢に伴い、筋線維は全体的に萎縮するイメージがあるかもしれませんが、全身の骨格筋量が同じように萎縮するわけではないということです。

萎縮しやすい筋として、比較的表層にある抗重力筋であると報告があります1)2)

加齢で萎縮しやすい筋

・頸部筋群・僧帽筋・広背筋・腹筋群・中殿筋・大殿筋・腸腰筋・大腿四頭筋

速筋線維が優位に筋委縮するため、遅筋線維比率は相対的に高くなります。

その結果、最大筋力の低下は顕著だけど、持久力の低下は比較的緩やかです。

加齢性変化のもう一つの特徴は、力発揮率(RFD)が低下することです。3)

RFDとは、一定の時間でどれだけの筋力が発揮できるかとういもの。

つまり、高齢者は「力を入れようとしても、すぐには大きな力は出せなくなる」ということです。

これが患者さんのパフォーマンスにどんな影響がでるかというと、

パフォーマンスへの影響
  • ふらつきや転倒しそうになった時に、踏ん張るなどのリカバリーが難しくなり、転倒のリスクが高まる。
  • 姿勢制御能力が低下し、バランス能力が低下する。
  • 急いで立てない、速く歩けない、急に止まれない。(電話や人に呼ばれる、横断歩道を渡る時など)

などのネガティブなパフォーマンスの原因となります。

この問題に対して有効なアプローチの一つが“筋パワートレーニング”

日常生活動作は、最大筋力よりも、筋力と速度の要素を併せ持った”筋パワー”が深く関係します。4)

最大筋力も重要ですが、加齢に伴い速く収縮する能力が低下することは、大きな問題となります。

具体的なアプローチは、運動療法の選定でお話します。

廃用による筋変化は遅筋線維が優位に筋萎縮する

廃用(不活動)による筋変化の特徴は、速筋線維よりも遅筋線維が優位に筋委縮するということです。加齢性変化とは逆ですね。

寝たきり生活や長時間の座位生活がイメージしやすいと思います。

不活動は、立位や歩行など重力にあらがう機会が減るため、姿勢保持に用いられる抗重力筋の筋活動は低下します。

そのため持久性に優れた遅筋線維の割合が多い、抗重力筋は優位に筋委縮します。

廃用で萎縮しやすい筋

・脊柱起立筋・腹筋群・大殿筋・中殿筋・大腿四頭筋・下腿三頭筋

もう一つの廃用による筋線維の変化の特徴は、遅筋線維が速筋線維へ変化することです。

つまり、遅筋線維の速筋化が起こります。

これは、重力にあらがう機会がなくなった抗重力筋は、長時間活動できるという遅筋線維の役割がなくなります。

そのため、別の役割を担おうと速筋線維へ変化して役割を持とうと変化するといわれています。5)

遅筋線維の選択的な筋委縮と、遅筋線維の速筋化によって、疲労耐性が低くなります。

その結果、疲れやすい、長く立ったり座っていられない、歩くのが大変、活動時間が少なくなる状態になります。

これによって、臥床している時間が長くなると廃用性筋力低下がさらに加速するといった、ネガティブなループを繰り返すことになります。

このループを止めることもセラピストの重要な役割だと思います。

加齢変化に対する運動:パワートレーニング(運動速度に着目)

加齢による筋変化の特徴は速筋が選択的に筋委縮するため、瞬発的に大きな力を発揮することが苦手になります。

これに対するアプローチのポイントは、最大筋力を向上させるだけでなく、素早く筋収縮ができるように運動速度にも着目することです。

具体的には、パワートレーニングを取り入れます。

パワートレーニング
  • Tschoppらは、「中等度の負荷を用いて、エクササイズの全周期あるいは少なくとも求心性収縮時だけは、できる限り速い運動を行うトレーニング」と定義。6)

  • 筋力トレーニングのみの場合よりも神経機能の強化によって筋力を大幅に高め、バランス能力などの機能改善にも優れていることが示唆。7)

  • 神経機能の強化だけではなく、高齢者の筋肥大にも効果的であり、従来のトレーニングと同様の効果が得られるとシステマティックレビューで結論。8)

具体的なパワートレーニングの設定は、American College of Sports Medicine(ACSM)より以下を提言。9)

  • 強度:30~60%1RMの軽~中等度の強度
  • 回数:6~10回
  • 収縮速度:1~3セット

重要なポイントは、高強度を避けた負荷で速い反復運動を行うこと。

普段のトレーニングに速く収縮する練習も取り入れてみましょう。

運動強度の設定に関して興味がある方はこちらもみてください。

ちなみに速筋線維は、速い求心性収縮と遅い遠心性収縮で動員される。10)

例を挙げると、

・スクワット運動で大腿四頭筋を鍛えたい時は、膝関節屈曲運動時(遠心性収縮)はゆっくりと曲げ、膝関節伸展運動時(求心性収縮)は速く伸ばす。

・ヒールレイズでは、速く持ち上げ(求心性収縮)、ヒールドロップではゆっくり下す(遠心性収縮)。

ただし、遠心性収縮のトレーニングは求心性収縮のトレーニングよりも遅発性筋肉痛DOMSを引き起こしやすくなります。

遅発性筋肉痛DOMSは、筋節の断裂や周辺線維の損傷によって筋性の疼痛が発生し、24~72 時間でピークとなる場合が多いです。11)

患者さんに不安を与えないために、あらかじめインフォームドコンセントを行ったり、低めの負荷量から始めるなどの対応も大切です。

廃用変化に対する運動:5つのポイント

廃用による筋変化の特徴は遅筋線維が優位に萎縮、遅筋線維が速筋化する。

その結果、疲れやすい、横になっている時間が長くなる。これにより廃用性変化が加速するというネガティブループ。

廃用による筋力低下は、

  • ギプス固定による研究では、1日の安静で1~4%の筋力低下が起こり、3~5週間で約50%に低下する。12)

  • 不動は筋への刺激がなくなるだけでなく、「動かない」こと自体が積極的に筋を減少させるスイッチである。13)

つまり、できるだけ、早期から“動く”ことが重要です。

そのため、アプローチは、活動量を増やし、抗重力筋に筋活動を促すことです。

簡単なアプローチに思えるかもしれませんが、安静にして病状が悪化する場合よりも、動かして病状が悪化した場合の方が患者さんや他病院スタッフとトラブルになる可能性があります。

しっかりとポイントをおさえることが重要です。

段階的な離床

寝ている状態から起こされることは、離床は循環動態や運動器への負荷の他に、心理的な負担もかかります。

術後早期の患者さんや長期間の寝たきりの患者さん、重症患者さんでは、なおさら。

そのため、段階的に活動量を上げていくことが重要です。

段階的な離床:背臥位→ヘッドアップ→端坐位・車椅子座位→立位→歩行

段階を踏むことで、循環動態への重力負荷の軽減や患者さんの不安も少なく、全身の疲労度にも合わせた離床ができます。

段階的な離床の順番で活動レベルが上昇し、動員される筋が増えます。

座位保持では脊柱起立筋群、腹筋群が収縮しますが、大殿筋・中殿筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋は働いていません

下肢の筋を働かせるために立位や歩行での活動を増やす必要があります。

時間を取り入れたバイタルサインと疲労度をチェック

座位や立位姿勢は、臥床していた人にとって、姿勢を保持するだけで運動です。

特に、術後や長期臥床後の初回離床時や呼吸循環器疾患の患者さん、超高齢者ではバイタルサインの異常や疲労を訴えることがあります。

そのため、バイタルサインのチェックや疲労度のチェックを行うことは重要です。

大事なポイントは、 “どの姿勢”で”どのくらいの時間”かをチェックすること。

「座位ではバイタルが変動しないが立位をとったら変動した。」、「5分なら座っていられるが、10分では疲労が出現した。車椅子なら疲れないのか。」などをみましょう。

「〇〇分の車椅子座位なら、バイタルも変動せず、疲労度もないな!食事を座位姿勢で開始しようか。」など、リハビリ以外での活動量を検討する際に重要な情報となります。

廃用筋は負荷量と収縮様式の許容範囲が狭い

活動量を上げたアプローチをしてから、「足が痛くて寝れなかった。」、「腰が痛くて今日は動きたくない。」など患者さんから言われた経験はないでしょうか。

灰田は、廃用筋に対して

  • 廃用による筋変化は、筋の脆弱性がすでに生じており、筋損傷や遅発性筋肉痛が生じやすい

  • 動量が増加するにしたがって、筋線維の損傷が発生する頻度も増加した。

  • 廃用性筋委縮筋では、筋の負荷量と筋の収縮様式の許容性が狭いことが示唆された。

と述べています。14)

一般的な日常生活動作を実施するだけでも高負荷となっているケースがあるため、患者さんの生活での負担を踏まえて、負荷量を調整しましょう。

廃用による筋変化によって、筋が脆く、損傷しやすいので注意です。

可能な範囲から筋収縮を行う

医学的治療のため安静臥床が必要とされる場合は、離床による活動量を増やすというアプローチはできません。

体を起こすことも制限されている患者さんでは、全ての抗重力筋が活動を制限されます。その際には、ベッド上での筋力強化練習がアプローチの手法として挙がってきます。

Müllerらは、

ギプス固定による研究にて最大筋力の20~30%の筋収縮を続ければ筋力は維持され、30%以上の筋収縮を行えば筋力は増加する。

最大収縮を1日1回行うことで、最大筋力の75%までは、週12%程度の増加率で筋力は増加する。

Müller EA : Influence of training and of inactivity on muscle strength. Arch Phys Med Rehabil. 1970.

と述べている。12)

最大収縮が難しい場面も多いですが、最大筋力の20~30%の筋収縮を一つの目安に収縮を促すことが重要です。

筋力トレーニングの負荷設定についてはこちらも見てください。

ただし、心疾患や術後早期の患者さんでは循環動態や治療状況をよく加味する必要があるため、まずは全身状態のアセスメントの結果、運動が可能か検討する必要があります。

また、長期臥床していても収縮運動により、タンパクの合成や増える。筋は血流や神経の影響がなくても、収縮により筋肥大が生じるます。

臨床的には意識障害や神経麻痺があっても、EMS(Electric Muscle Stimulation)などを用いて、筋収縮を促し筋委縮の予防を図るという報告が急性期を中心に増えています。施設に設備があるならアプローチの一つとして検討するのも良いですね。

動くことを患者さんやスタッフと共有する

早期離床が言われている現在でも安静が根拠のない常識となっていることがあります。これは、患者さんだけでなく医療スタッフも同様です。

安静にして病状が悪化する場合には気にしなくても、動かして病状が悪化した場合はクレームやトラブルになる場合があります。場合によっては、「リハビリのせいで悪くなった!」と言われることすらあります。

そのために重要なことは担当医を中心に他スタッフと“どの程度、安静にするのか”、“安静による目的”など病態に応じた「何のための安静」か確認すること。

そして、「どこまで活動量をあげるのか。」を患者さんやスタッフ間で共有することが重要。認識のズレがトラブルの原因になります。

また、リハビリ以外での活動につながるので重要です。

まとめ

  • 加齢による筋変化の特徴は速筋が選択的に筋委縮するため、瞬発的に大きな力を発揮することが苦手になる。その結果、速く動けない、転倒しやすいといったネガティブな事象につながる。

  • 筋の加齢性変化に対して、パワートレーニング(高強度を避けた負荷で速い反復運動を行う)を取り入れると効果的。

  • 廃用による筋変化の特徴は遅筋線維が優位に筋萎縮する、さらに遅筋線維が速筋化する。そのため、疲れやすく横になっている時間が長くなる。これにより、さらに廃用性変化が起こるというネガティブループ。

  • 筋の廃用性変化に対して、活動時間を増やし抗重力筋を働かせることが効果的。ただし、負荷を調整して段階的に進めること、そして、患者さんやスタッフと動くことを共有することが大切。

参考資料

  1. J. T. VIITASALO, et al. Muscular strength profiles and anthropometry in random samples of men aged 31–35, 51–55 and 71–75 years. Ergonomics. 1985. 
  2. 吉田剛 監修,山田実 編集.理学療法実践レクチャー栄養・嚥下理学療法.医歯薬出版,2018.
  3. Giorgio Varesco, et al.  Rate of force development and rapid muscle activation characteristics of knee extensors in very old men. Exp Gerontol. 2019.
  4. 市橋則明. 筋を科学する-筋の基礎知識とレーニングー.理学療法学.2014.
  5. 編著曷川元.実践!早期離床完全マニュアル.慧文社.2007.
  6. Tschopp M, Sattelmayer MK, et al.: Is power training or conventional resistance training better for function in elderly persons? A meta-analysis. Age and ageing. 2011.
  7. Michelle M Porter. Power training for older adults. Appl Physiol Nutr Metab. 2006.
  8. Lucas B R Orssatto, et al. Is power training effective to produce muscle hypertrophy in older adults? A systematic review and meta-analysis. Appl Physiol Nutr Metab. 2020.
  9. Kraemer WJ, et al. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2002.
  10. A Nardone, et al. Selective recruitment of high-threshold human motor units during voluntary isotonic lengthening of active muscles. J Physiol. 1989.
  11. 原著Donald A Neumann.監訳島田智明,有馬慶美.筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版.2012.
  12. Müller EA : Influence of training and of inactivity on muscle strength. Arch Phys Med Rehabil. 1970.
  13. Yu Hirata, et al. A Piezo1/KLF15/IL-6 axis mediates immobilization-induced muscle atrophy. JCI. 2022.
  14. 灰田信英.廃用性筋委縮の基礎科学.理学療法学.1994.

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