筋力強化には適切な負荷量と反復した回数が必要です.
ですが,高齢者や入院患者さんに対して,有害事象を怖がり,負荷を過剰に軽くしすぎる場合があります.
これは,負荷設定の方法や適切な負荷量がわからないことが原因です.
この記事では,
筋力強化トレーニングの負荷を設定するのに用いる%1RMを推定する方法と呼吸器疾患,循環器疾患の方に対する負荷量を紹介します.
結論として,%1RMは運動回数やボルグスケールから推定することが可能であり,臨床上のリスクが少なく評価できます.
筋力強化トレーニングの負荷は,
呼吸器や循環器疾患では軽~高強度が推奨されます.
この記事を読むことで,
効果的な筋力強化トレーニングの運動処方ができるようになります.
有酸素運動の負荷設定に関しては別の記事にて紹介しているので,よければそちらもご覧ください.
高齢者の筋力トレーニングの負荷設定については別の記事で紹介しています。
反復運動の回数から1RMを推測できる
筋力強化トレーニングを目的とした際に,負荷量を決定するために最も用いられているのが“1RMテスト”です.
1RMテスト:1回だけ全可動域の範囲で関節を動かすことが可能な最大重量を測るテスト
例えば,バーベルを持ち上げる運動でテストをした際に,100kgの重量を1回しか持ち上げられなければ,1RMは100kgとなります.
この1RMを指標に運動負荷を検討します.
例えば,中等度の負荷をかけたい場合は,
1RMの60~70%の負荷をかけるため,100kg×0.6~0.7(60~70%)=60~70kgのバーベルで運動する.
ただし,運動時の負荷量は重量だけでなく,運動回数も大切です.
重量が大きいほど,運動回数が少なくて良いですが,重量が小さいほど運動回数が多く必要となります.
先ほどの1RMが100kgの方であれば,100kgのものを持つ運動なら回数は1回でも十分な運動となりますが,
60~70%1RMの60~70kgのものをもつ,運動回数が10~15回ほど必要となります.
1RMテストは簡単に最大筋力を測定できますが,デメリットもあります.
自分の力の最大を発揮するため,高齢者や病気がある方では危険性が高いこと.
特に呼吸器や循環器の患者さんでは,心肺機能に多大な負担をかける可能性があります.
安全面を考えるなら,
重量と運動回数から1RMの値を推定する方法がおススメです.
どうやって行うかというと,
下の図をもとに,実施可能な運動回数から負荷重量を推定します.
高齢者の怪我や入院中の有害事象を起こさないために,
実施できる運動回数から%1RMを推定する方法はかなり有効です.
%1RMと反復回数により運動効果が異なる
筋力強化トレーニングは負荷量(%1RM)と反復回数により得られる効果が異なります.
例えば,90~100%1RMの負荷で1~5回くらいの少ない反復運動を行う場合,
大脳の興奮水準の向上や運動単位の参加数増加など神経系の向上が期待できます.
筋肥大の効果を求めるのなら60~70%1RMの負荷で反復回数12~20回くらいが目安.
負荷量を30%1RM程度まで下げて,反復回数を多くすると筋持久力向上の効果があります.
目標により負荷量と回数を調整する必要があるので,是非知っておいて欲しい点です.
筋力トレーニングは低負荷から開始して中等度~高負荷を目指す
高齢者はもちろんですが,呼吸器疾患,循環器疾患でも筋力強化トレーニングはADL・QOLを維持向上するためにも必要です.
ただし,呼吸循環機能が不安定のため,負荷量は慎重に検討が必要です.
Hettingerらは,
- 筋力維持には20~30%1RM以上の負荷が必要
- 筋力増強には40~50%1RM以上の負荷が必要
と述べています3).
また,アメリカスポーツ医学ガイドラインの高齢者に対する筋力強化トレーニングは,
最初は軽い強度(40~50%1RM)から開始して,中等度の強度(60~70%1RM)まで負荷を上げることを推奨しています6).
高齢者では40~70%1RMの軽~中等度負荷
呼吸器疾患では30~90%1RMの低~高負荷でトレーニング
COPDなどの慢性呼吸器疾患では,
- 最大筋力の増強は60~90%1RMの負荷
- 筋持久力の増強は30~50%1RMの負荷
が必要とされます.
呼吸器疾患での運動時の注意点として,
上肢のトレーニングは呼吸補助筋の疲労が呼吸困難感を助長するため,
より低い負荷で検討する必要があります.
できるだけ軽い負荷量から開始し,運動回数やボルグスケールを見ながら%1RMを推定しましょう.
循環器疾患では30~70%1RMの低~中等度負荷でトレーニング
循環器疾患では30~70%1RMの低~中等度負荷で筋力トレーニングを行うことが推奨されています。
ただし、不安定な時期や急性増悪時は基本的には適応外なので注意しましょう.
状態が安定していても,担当医師に確認しておいた方が良いです.
運動強度として,上肢では30~40%1RM,下肢は40~50%1RMから開始.
心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2007年改訂版では,
状態に合わせて,
- 低負荷:20~30%1RM
- 中等度負荷:40~60%1RM
- 高負荷:80%1RM
の3段階で推奨されている.
注意点としては息を止めたり力まないように運動します(バルサルバ効果で血圧が上がってしまうため).
また,ストレッチや軽い運動などの準備運動と整理運動を取り入れることも大切です.
循環器疾患では20~80%1RMの軽~高負荷
臨床では全身の状態をモニタリングしつつ,負荷を調整してみてください.
まとめ
筋力トレーニングの負荷設定と高齢者や呼吸・循環器疾患の適切な負荷を紹介しました.
負荷設定に必要な%1RMは実施可能な運動回数から推定でき,臨床上のリスクも低いため臨床でも有用です.
高齢者や呼吸器疾患,循環器疾患は若年者よりも心肺機能の不安定性があり,負荷量には注意が必要.
- 高齢者:40~70%1RM
- 呼吸器疾患:30~90%1RM
- 循環器疾患:20~80%1RM
高齢者や疾患を有している方は若年者よりも,慎重に運動を行う必要があります.
だけど,過剰に怖がって低強度の負荷ばかりになるのも良くないかなと思います.
負荷設定を理解し,安全で効果的な筋力強化トレーニングを処方しましょう.
ここまで読んで頂きありがとうございました.
この記事が安全かつ効果的な運動プログラム作成に役立てば幸いです.
参考資料
- 基礎運動学第6版.医歯薬出版.2003.
- ビジュアル実践リハ呼吸・心臓リハビリテーション改訂2版.居村茂幸.2015.
- 運動療法学 障害別アプローチの理論と実際.市橋則明.2008.
- リハビリテーション運動生理学.玉木彰.2016.
- Hettinger T 著,猪飼道夫,松井秀治 訳:アイソメト リックトレーニング―筋力トレーニングの理論と実 際.大修館書店,1970.
- ACSM Guidelines for Exercise Testing & Prescription, 9th ed. 2014.
- Brad J Schoenfeld, et al. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017.
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