【QOL】高齢者の主観的幸福感を評価するPCGモラールスケールを解説【PCG-MS】

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主観的幸福感やQOLの評価ってどんな方法があるの?

モラールスケールって?

改訂版PCGモラールスケールって?

高齢者を対象とした主観的幸福感を評価する方法として、”PCGモラールスケール”が代表的な評価の一つです。

この記事では、主観的幸福感を評価するPCGモラースケールについて、測定方法や活用について解説します。

結論は以下の通りです。

  • PCGモラールスケールは、高齢者の主観的幸福感やQOLの評価にも活用される質問紙
  • PCGモラールスケールは、地域高齢者や介護サービス利用者を対象に活用されており、平均得点は10点程度
  • PCGモラールスケールはADLと関連しないが、趣味活動や活動範囲との関連が報告されている

PCGモラールスケールを理解することで、高齢者の主観的幸福感やQOLの評価に役立ちます。

この記事を読むメリット
  • 高齢者のモラールや自覚的幸福感の評価がわかる
  • PCGモラールスケールの評価方法や活用がわかる

モラール・主観的幸福感ってなに

最初に、モラールについて解説します。

結論は以下の通りです。

  • モラールとは「満足感,楽天的思考,および開かれた生活展望の有無を反映した生活や生活上の諸問題に対する反応」≒主観的幸福感
  • モラールが高い状態=満足感がある」「自分の居場所がある」「受容ができる」
  • 改訂版PCGモラールスケールは、高齢者のモラールや主観的幸福感、QOLを評価できる質問紙

モラール(Moralle)は、成人期の士気や道徳を表す概念でしたが、現在は以下のように解釈されています。

(高齢者の)満足感,楽天的思考,および開かれた生活展望の有無を反映した生活や生活上の諸問題に対する反応の連続体1)

意味を捉えづらいですが、Lowtonは高齢者におけるモラールが高い状態を以下のように示しています。

モラールが高い状態とは「自分自身についての基本的な満足感がある」「環境の中に自分の居場所があるという感じている」「動かしえない事実を受容できている」etc.

つまり、モラールが高いことは、心身を含めて良い生活状態です。

良い生活状態(Well-Being)の観点からも、モラールは重要になります。

また、モラールは生活に対する満足感を評価することで、副次的に“主観的幸福感”を示す場合があります2)。

高齢者の主観的幸福度やQOLを調査するために、モラールを用いた研究は多く、“改訂版PGCモラール・スケール”がよく活用されます。

改訂版PCGモラールスケールの評価方法

ここでは、モラールを評価する改訂版PCGモラールスケールについて解説します。

結論は以下の通りです。

  • 改訂版PCGモラールスケールは17項目の自己回答式の質問紙
  • [はい]/[いいえ]の2択で回答して、スコアリングをつける
  • 下位項目で、心理的動揺、老いに対する態度、孤独感・不満足感の3つを評価できる
  • PCGモラール17項目では、平均10点前後の報告が多い

PCG-モラールスケールは、Lawtonによって作成され、改訂されたものを前田らによって翻訳されました3)。

PCGモラールスケールの測定手順は以下の通りです。

  1. 質問紙を渡して、17項目の質問に[はい]か[いいえ]で回答をしてもらう。
  2. 1項目の質問ごとに、0点か1点が振り分けられており、合計点を記録する。

改訂版PCGモラールスケールは、最大17点で最小は0点です。

得点が高いほど、モラールが高く、主観的幸福感が高い状態を示します。

面談形式で聞き取りを行う際は、測定者が誘導をしないように注意しましょう。

また、改訂版PCG-モラールスケールは下位項目によって、以下の項目も評価できます。

第1因子:心理的動揺(質問項目4・7・12・13・16・17の合計得点)

第2因子:老いに対する態度(質問項目1・2・6・8・10の合計得点)

第3因子:孤独感・不満足感(質問項目3・5・9・11・14・15の合計得点)

改訂版PCGモラールスケールの評価では、総合得点だけでなく、下位項目から詳細な情報を得ることも重要です。

改訂版PCGモラールスケールは、カットオフ値や基準値は設定されてなく、「何点以上で正常」「何点以上で幸福」などの判断はできません。

ただし、改訂版PCGモラールスケールを用いた研究から、対象者の平均点をみると以下の特徴がありました。

  • 介護サービス利用者を対象とした平均得点は10点前後
  • 地域在住高齢者を対象とした平均得点は11~12点

改訂版PCGモラールスケールのスコアに大きな差はないですが、

介護サービスを利用している方でスコアが低い傾向はあるようです。

改訂版PCGモラールスケールの調査でわかっていること

ここでは、PCGモラールスケールを用いて主観的幸福感やQOLを調査した研究を紹介します。

興味深い点は以下の通りです。

  • 介護サービス利用者では改訂版PCGモラールスケールとADLに関連は少ない可能性
  • 訪問リハビリ利用者ではADLや活動範囲の向上に伴い改訂版PCGモラールスケールのスコアも向上する可能性
  • 地域高齢者では、趣味活動や食事、友人の存在は改訂版PCGモラールスケールに関連

中村らは、要支援や介護度が軽度な肩を対象に、改訂版PCGモラールスケールに関わる生活機能について調査をしました4)。

その結果は以下の通りです。

PCGモラールスケールとの関連因子

  • JST活動能力指標の社会参加 (0.26, 95%CI 0.14-0.38)
  • JST活動能力指標の生活マネジメント (0.23, 95%CI 0.09-0.37)
  • 趣味活動の有無 (0.20, 95%CI 0.09-0.32)

要支援・軽度要介護高齢者において,社会参加・生活マネジメント・趣味の有無が主観的QOLに関わる可能性が示されています。

また、菱井は通所リハビリ利用者を対象にADLの自立度と改訂版PCGモラールスケールとの関係を調査しました5)。

その結果は以下の通りです。

  • FIM認知項目30点未満の非自立群と自立群の比較で、スコアに有意差なし
  • FIM運動項目78点未満の非自立群と自立群の比較で、スコアに有意差なし
  • 改訂版PCGモラールスケールとFIMに相関関係なし

菱井の報告をみると、ADLの自立度と幸福度は関連しない可能性が考えられます。

介護サービス利用者の報告について、松平らは介護老人福祉施設の入所者を対象に主観的幸福感に関わる要因を調査しています6)。

結果は以下の通りです。

改訂版PCGモラールスケールを従属変数とした重回帰分析の結果

  • 気になる病気の有無 (β=-0.27, p=0.005)
  • 自分の意志で決定している項目数 (β=0.18, p=0.035)
  • 外出しているか (β=0.20, p=0.016)
  • 職員の笑顔を感じるか (β=0.31, p<0.001)
  • 体の痛みの有無 (β=-0.22, p=0.017)
  • 腎臓や泌尿器疾患の有無 (β=-0.21, p=0.01)

ただし、年齢やADLには関連を認めなかった

興味深いことに、施設入所者の主観的幸福感には、意思決定や外出、職員の笑顔も関連しているようです。

そして、施設入所者もADLと主観的幸福感は関連していませんでした。

しかし、訪問リハビリ利用者ではADLの変化と主観的幸福感が関係していることが報告されています。

武らは、整形疾患を有する訪問リハビリ利用者を対象に主観的幸福感を調査しました7)。

その結果は以下の通りです。

  • FIM運動項目は訪問リハビリ開始3ヶ月と6ヶ月,Hb-LSAは6ヵ月後で有意に改善した
  • PCGモラールスケールは訪問リハビリ開始6ヶ月後で有意に改善した
  • ADLや生活空間の改善に伴い,主観的幸福感が改善する可能性が示された

ADLや活動範囲の向上に伴い、主観的幸福感も上がる可能性が示唆されています。

ADLや活動範囲の変化が主観的幸福感に関わる可能性はあるようです。

改訂版PCGモラールスケールを用いた調査は、地域在住高齢者を対象にも行われています。

その結果、地域高齢者の主観的幸福感に関わる因子として以下が報告されました8)。

性別でのモラールと関わる因子

男性:経済状態、通院状況、体力自己評価、健康度自己評価、睡眠状況、食事の規則性、ボランティアの参加状況、親友の数

女性:年齢、家族構成、経済状況、通院状況、体力自己評価、健康度自己評価、睡眠状況、食事の規則性、外出状況、今後の計画、ボランティアの参加状況、親友の数

出村らの調査では、特に食事の規則性・ボランティアの参加・親友の存在が主観的幸福感に関係する重要な要因であることが明らかとなりました。

また、別の調査では地域高齢者の趣味活動と主観的幸福感について調査がされています9)。

その結果は以下の通りでした。

  • 楽しいと思う活動として、入浴、食事、テレビ、隣人との会話、庭や畑の世話の頻度が多かった
  • 単回帰分析の結果:「食事」(β=0.67, p=0.01)と「入浴」(β=0.53, p=0.023)を楽しむ場合は有意に改訂版PCGモラールスケールのスコアが高値となり,「パチンコや麻雀などの賭けごと」(-0.72, p=0.002)を楽しむ場合は低値であった

趣味活動として、男性では釣りや麻雀などの頻度が高く、女性では手芸や料理、散歩などの頻度が高いようです。

また、食事や入浴を楽しむことで主観的幸福感が高くなり、パチンコなどの賭け事を楽しむと低くなる傾向を認めました。

地域高齢者では、趣味活動やボランティア、家族や友人との関わりが主観的幸福感に影響するようです。

おまけ:改訂版PCGモラールスケールの簡易版

改訂版PCGモラールスケールは17項目ですが、項目を少なくした簡易版が開発されています。

簡易版のPCGモラールスケールは11項目です。

11項目でも下位項目の測定は可能であり、以下の質問項目の合計得点で算出できます。

第1因子:心理的動揺(質問項目3・5・10・11の合計得点)

第2因子:老いに対する態度(質問項目2・4・7・9の合計得点)

第3因子:孤独感・不満足感(質問項目1・6・8の合計得点)

質問項目が少ないことで、被検者や測定者の負担が減っています。

ただし、研究などでの活用はまだ少ないようです。

まとめ

ここまで、モラールと主観的幸福感、改訂版PCGモラールスケールの測定や活用について解説しました。

  • モラールとは「満足感,楽天的思考,および開かれた生活展望の有無を反映した生活や生活上の諸問題に対する反応」≒主観的幸福感
  • 改訂版PCGモラールスケールは、高齢者のモラールや主観的幸福感、QOLを評価できる質問紙
  • 介護サービス利用者における改訂版PCGモラールスケールの平均得点は10点前後
  • 地域在住高齢者における改訂版PCGモラールスケールの平均得点は11~12点程度
  • 改訂版モラールスケールに主観的幸福感とADLは関連しない
  • ADLや活動範囲の向上は主観的幸福感の増加と関連する可能性
  • 地域高齢者における趣味活動や食事、入浴、友人との関係は主観的幸福感と関連する

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

臨床でのお役に立てば幸いです。

参考資料

  1. 工藤禎子.高齢者のWell-Beingに関する指標とその活用.日本地域看護学会誌.2019.
  2. 古谷野垣.社会老年学におけるQOL研究の現状と課題.J. Natl. Inst. Public Health.2004.
  3. 前田泰作,他.老人の主観的幸福感の研究:モラール・スケールによる測定の試み.社会老年学.1979.
  4. 中村勝喜,他.要支援・軽度要介護高齢者の主観的QOLと高次生活機能の関連要因の検討.日老医誌.2018.
  5. 菱井修平.在宅要介護高齢者における機能的自立度と幸福度の関係.川崎医療福祉学会誌.2015.
  6. 松平裕佳,他.介護老人福祉施設入所者の主観的幸福感に関連する要因.日本公衆衛生誌.2010.
  7. 武瞳,他.整形外科疾患を有する訪問リハ利用者の生活空間とQOLの変化-屋内セ一括空間と主観的幸福感に着目して-.理学療法科学.2021.
  8. 出村慎一,他.地方都市在住の在宅高齢者のモラールの特徴-性と生活要因の観点から-.日衛誌.2002.
  9. 大西丈二,他.農村地域に居住する高齢者の幸福感に寄与する活動.日農医誌.2004.

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