リハビリにおいて、筋力トレーニングは頻繁に実施する運動療法の1つです。
効果的な筋力トレーニングを行うには、運動強度の設定が大切になります。

測定の道具がない。測定に時間をかけたくない。

筋力の負荷を設定する方法がわからない…
しかし色々な要因によって、運動強度を設定することが難しい場合もあります。
この記事では、高齢者における簡便・短時間で実施できる筋力トレーニングの強度設定を2つ紹介します。
論文やガイドラインを参考にまとめました。
この記事の結論は、以下の通りです。
- 反復可能な運動回数から%1RMを推測できる
- 高強度は5回程度、中強度は10~15回程度、低強度は20回以上の反復回数が目安
- 自覚的運動強度Borg Scaleを用いて%1RMを推測できる
- 高強度(70~90%1RM)はボルグスケール14~17、中強度(50~70%1RM)はボルグスケール11~13、低強度(40%以下)はボルグスケール8~10が目安
2つの評価方法は専用の機器が必要なく、短時間で簡単に実践できるメリットがあります。
ただし、簡易的な評価のため、単一の評価だけで解釈しないように注意しましょう。
- 筋力トレーニングの強度設定に役立つ”反復回数”がわかる
- 筋力トレーニングの強度設定に役立つ”ボルグスケール”がわかる
筋力トレーニング強度で用いる1RMと%1RM
筋力トレーニングで、負荷量(強度)を決める際に用いるのが“%1RM”です。
1RM:1回だけ全可動域の範囲で関節を動かすことが可能な最大重量(負荷量)
%1RM:1RMを100%とした場合における負荷強度の割合
例えば、
バーベルを持ち上げる運動において、1回だけ上げられた重量が100kgならば、1RMは100kgとなります。
仮に、60~70%1RM(中等度)の負荷をかけたい場合、100kg×0.6~0.7=60~70kgのバーベルでトレーニングすることになります。
運動強度%1RMを推定する”反復回数”
ここでは、運動強度%1RMを設定するために、
負荷量と反復回数の関係について解説します。
以下、結論です。
- 反復可能な運動回数から負荷量を推定できる
- 特別な機器や複雑な説明がいらず、短時間で行えて安全面のメリットもある
- 高強度(80%1RM以上)は5回程度、中強度(60~70%1RM)は10~15回程度、低強度(50%1RM以下)は20回以上の反復回数が目安
山本は、筋力トレーニングの強度を設定する方法として、
負荷をかけた状態で反復運動の回数から%1RMを推定する方法を紹介しています。1)
反復回数と負荷の関係は以下の通りです。

例えば、以下のようになります。
- 60kgのバーベルをギリギリ1回持ち上げられるなら、60kgがその人100%1RM
- 60kgのバーベルをギリギリ11~15回持ち上げるのなら、60kgがその人の60%1RM
ちなみに、高齢者では中等度以上の強度(60~70%1RM)が推奨されており、その際の反復運動回数は10~15回です。
また、NSCA(National Strength and Conditioning Association:ストレングス&コンディショニング協会)も、
反復運動による負荷量(%1RM)を推定する方法を述べられています12)。
- 87%1RMでは5回
- 75%1RMでは10回
- 65%1RMでは15回

NSCAも運動負荷から反復回数を推定できると述べています。
さらに、2024年にNuzzoらは、さまざまな%1RMで完了できる反復回数をメタ解析およびモデレーター分析で調査しました13)。
結果は以下の通りでした。
- 性別、年齢、トレーニング状況は、%1RMと反復回数の関係に影響しなかった
- 80%1RMの完了できる反復回数は推定で9.8±2.5回
- 60%1RMの完了できる反復回数は推定で19.5±4.4回

負荷量と実施できる反復回数は関係しており、性別や年齢の影響を受けないことを明らかにしています。
そして、高強度(80%1RM)では10回程度、中強度(60%1RM)では20回程度が目安になりそうです。
また、Nuzzoらは同論文にて、上肢を鍛えるベンチプレスと下肢を鍛えるレッグプレスを分けて、負荷量と推定回数の関係を明らかにしています。


比較してみると、同じ完遂できる回数でも下肢の方が上肢よりも大きい負荷量となるようです。
トレーニングの種類や特性によって、負荷量と反復回数はやや異なる可能性はあるのかもしれません。
これらの報告から、反復回数を用いることで筋力トレーニングの負荷量を推定することができると考えられます。
- 高強度は5回程度の反復回数が目安
- 中強度は10~15回程度の反復回数が目安
- 低強度は20回以上の反復回数が目安
反復回数と負荷量の関係から%1RMを推定する方法は、多くのメリットがあるため、臨床でおススメです。
メリットは以下があります。
- 専用の機器を必要としない
- 負荷が少ないので安全に測定できる
- 測定がシンプルのため被験者が理解しやすい
また、山本も反復回数から負荷量を設定する方法に関して以下のように述べています1)。
1RMテストは、被験者が最大筋力を破棄する必要があり、高齢者や疾患がある方には、筋骨格系や循環器の負担が大きく危険を伴う。
反復回数を用いる方法は、運動回数を見ながら負荷を設定できるため危険が少ない。
反復回数を用いる方法は、簡便さだけでなく、安全面でのメリットが多いです。
また、測定に慣れていない場合は、ケガや測定不良などの問題が生じるかもしれません。
反復できる運動回数を見ながら負荷を検討できるため、高齢者や疾患がある方を対象とする病院や施設でも活用しやすい方法です。
%1RMと反復回数で得られる運動効果が異なる
筋力トレーニングの強度と反復回数によって得られる運動効果は異なる可能性が報告されています。2)
強度と運動回数・運動効果の関係を知っていると、運動処方にも有益です。
以下、結論です。
- 高負荷(80%1RM以上)で低反復回数(1~5回)は神経系の向上
- 中等度負荷(60~70%1RM以上)で中程度の反復回数(15~20回)は筋肥大の促進
- 低負荷(30%1RM)で高い反復回数(20回以上)は筋持久力の向上

神経系の向上とは、中枢神経系の閾値低下や運動単位の変化、α運動神経の発火頻度の向上などを指します。
筋力トレーニング開始初期の筋力向上は、神経系の機能向上が関わっていると報告もあります。
負荷を高くし、反復回数を減らすことで神経系の機能向上が図れるようです。
逆に、負荷を低くして、反復回数を多くすることで筋持久力の向上が図れるといわれています。
調べられた範囲では、他の資料で負荷量や回数による筋力トレーニング効果について述べられていなかったので、信頼性が高い報告ではないかもしれません。
ただ、筋力トレーニングの目的に応じて負荷量と回数の調整が必要かもしれないことを抑えておきましょう。
運動強度%1RMを推定する”自覚的運動強度ボルグスケール”
ここでは、自覚的運動強度を測定するボルグスケールによる、運動強度を推定する方法を解説します。
自覚的運動強度rate of perceived exertion(RPE)
- 運動時の主観的負担度を数字で表したもの
- 全身運動のように、一定の強度の定常状態を数分以上持続した時点での自覚的な感覚を数量化するのに適用
- 持久力トレーニングや有酸素運動に用いることが多く、呼吸器疾患や循環器疾患のリハビリでも用いられている
- 筋力トレーニングのような身体の部分的運動や短時間運動には適用されにくい
自覚的運動強度は、専門機器を必要とせず、簡単かつ短時間で実施できるメリットがあります。
リハビリでよく見かける自覚的運動強度は、ボルススケール(Borg Scale)が多いようです。
原則として、自覚的運動強度は筋力トレーニングに適応されにくいですが、臨床で活用しようとした調査がいくつかあります。
ここではボルグスケールを用いて筋力トレーニングの負荷設定を調査した研究をまとめます。
ボルグスケール(Borg Scale)の説明
- ボルグスケールは、6~20までの15段階にスコアリングされている
- %最大酸素摂取量と高い関連が報告されており、持久力トレーニングなどの有酸素運動の負荷をチェックする際に用いる

以下、結論です。
- 高強度(70~90%1RM)でボルグスケール14~17、中強度(50~70%1RM)でボルグスケール11~13、低強度(40%以下)でボルグスケール8~10が目安
- 虚弱高齢者や運動経験が少ない高齢者はBorg Scale8~10から開始が推奨
- 筋力トレーニングはBorg Scale13程度(推定中等度の負荷量)を目安に負荷をかける
- 運動に慣れた身体機能が良好な高齢者はBorg Scale15~17まで上げることも検討
- 筋力トレーニングの負荷設定に自覚的運動強度を用いることはエビデンスが不十分
ボルグスケールと%1RMの関係を示した論文を紹介します。
Rowらは、筋力トレーニング時の%1RMをボルグスケールによって予測できるか調査しました。6)
対象者は筋力トレーニング経験のある高齢者、機器はレッグプレスマシーンを使用しています。
調査の結果は以下の通りです。
- レッグプレストレーニングにおける各負荷量の平均Borg Scaleと平均%1RMは強く関連した(R2=99.5%、p<0.001)
- Borg Scale11~13は約50~70%1RMの負荷に相当
- Borg Scale14~16は約70~90%1RMの負荷に相当

レッグプレストレーニングにおいてBorg Scaleが%1RMを予測できることを示唆しています。
また、上肢トレーニングにおいてもBorg Scaleは%1RMを予測できるか調査しました。6)
対象はトレーニング経験のある高齢者、使用機器はチェストプレスマシーンです。
結果は以下になります。
- チェストプレストレーニングにおける各負荷量の平均Borg Scaleと平均%1RMは強く関連した(R2=97.6%、p<0.001)
- Borg Scale11~13は約50~70%1RMの負荷に相当
- Borg Scale14~17は約70~90%1RMの負荷に相当

チェストプレストレーニングにおいても、Borg Scaleは%1RMが予測できることを報告しています。
ボルグスケールによって%1RMを予測できるため、臨床応用が期待できそうです。
ただし、これらの調査はいくつか限界も述べられています。
- レッグプレスやチェストプレス以外のエクササイズマシンでは不明。
- トレーニング期間全体の強度を調整するのに役立つかは不明。
- ケガや疾患、フレイルの高齢者では異なる可能性もある。
いくつか注意点を踏まえた上で、Borg Scaleと%1RMの関係を抑えておきましょう。
また、ボルグスケールを負荷設定に用いた筋力トレーニングの効果についてRCT報告があります。
Tiggemannらは、高齢女性を対象にBorg Scaleと%1RMの評価による負荷を用いたトレーニング効果を調査しました。7)
方法として、1RMテストで負荷決定した群(G%群)とボルグスケールで負荷設定した群(GPE群)に分け、
2週間ごとに負荷が増加するように12週間トレーニングをしています。
結果は以下の通りでした。
- G%群とGPE群はともに有意に筋力と筋持久力の向上を認めた(p<0.001)が、2群間で有意差は認めなかった(p<0.05)。
- ボルグスケール13は約50%1RM、ボルグスケール17は約70%1RMに相当した。


高齢女性において、ボルグスケールと%1RMを用いた負荷設定による筋力トレーニングは、同等の効果がありました。
また、ボルグスケールは筋力トレーニング負荷の設定に役立つ可能性を示唆しています。
他にもボルグスケールを用いた高齢者の負荷設定について述べている資料があります。
高齢者の運動強度を低強度(ボルグスケール8~10)~中等度強度(ボルグスケール11~13) 8)

地域健常高齢者の筋力増強、筋肥大に効果的な負荷はボルグスケール15~17を推奨 9)

目安となるボルグスケールは、少し異なりますが高齢者のトレーニングに活用できます。
ボルグスケールは1RMテストの代用として、筋力トレーニングの負荷設定に有用です。
筋力トレーニングにおけるボルグスケール13~17程度は、筋力向上で推奨される強度60~80%1RM程度の負荷であると推定されます。
ただし、自覚的運動強度を筋力トレーニングに用いる際には、注意点が多くあります。
ACSM(アメリカスポーツ医学会)のポジションスタンドは以下のように述べています。10)
運動の快さ/不快さの測定値は、心肺運動中の乳酸閾値を超える推移を正確に特定できるため、運動強度を調整および監視する手段として有望。
しかし、運動処方の主な方法として使用することにはエビデンスが不十分。
Carol Ewing Garber, et al. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Med Sci Sports Exerc. 2011.
また、Morishitaら自覚的運動強度とレジスタンストレーニングの負荷強度の関係について論文を分析して、以下の内容を述べています。11)
全体的な調査結果として、自覚的運動強度と負荷強度の増加は関係するが、%1RMと一貫した一致を判断することはまだ困難。
Shinichiro Morishita, et al. Relationship between the rating of perceived exertion scale and the load intensity of resistance training. Strength Cond J. 2018.
自覚的運動強度による筋力トレーニングの負荷設定には、まだエビデンスが不十分であり、単一の指標のみで判断をすることは適さないかもしれません。
しかし、ボルグスケールなど自覚的運動強度は、専門機器を必要とせず、簡便かつ短時間で実施できるメリットがあります。
これは、臨床や地域活動など広い場面で活用しやすいです。
対象者の健康状態や既往歴、トレーニング歴なども加味して負荷量を検討することが重要ですね。
まとめ
今回、筋力トレーニングを実施するために重要な運動負荷設定の方法について2つ紹介しました。
反復回数テストとボルグスケールは、簡便かつ短時間で評価可能であり臨床で活用しやすい方法です。
ただし、いくつか気をつける必要もあるため、一つの指標だけを頼りにするのはやめましょう。
以下は今回のまとめです。
- 反復可能な運動回数と負荷から%1RMを推定できる
- 高強度(80%1RM以上)は5回程度、中強度(60~70%1RM)は10~15回程度、低強度(50%1RM以下)は20回以上の反復回数が目安
- 中等度負荷(60~70%1RM以上)で中程度の反復回数(15~20回)は筋肥大の促進に有効
- 自覚的運動強度を評価するボルグスケールで%1RMを推定できる
- 高強度(70~90%1RM)でボルグスケール14~17、中強度(50~70%1RM)でボルグスケール11~13、低強度(40%以下)でボルグスケール8~10が目安
- 一つの指標だけを頼りに運動負荷を決定せず、全身状態などを踏まえて検討する
参考資料
- 測定と評価 現場に活かすコンディショニングの科学.山本利春.2007.
- 運動療法学 障害別アプローチの理論と実際.市橋則明.2008.
- 基礎運動学 第6版.医歯薬出版.2003.
- ビジュアル実践リハ呼吸・心臓リハビリテーション改訂2版,2015.
- Brandi S Row, et al. Regulating explosive resistance training intensity using the rating of perceived exertion. J Strength Cond Res. 2012.
- Brandi S Row Lazzarini, et al. Upper-Extremity Explosive Resistance Training With Older Adults Can Be Regulated Using the Rating of Perceived Exertion. J Strength Cond Res. 2017.
- Carlos Leandro Tiggemann, et al. Rating of Perceived Exertion as a Method to Determine Training Loads in Strength Training in Elderly Women: A Randomized Controlled Study. Int J Environ Res Public Health. 2021.
- 下和弘,他.高齢者の疼痛管理と緩和ケア 4.高齢者の疼痛予防運動(レベルに合わせた運動療法.日老医誌.2020.
- 池添冬芽.理学療法ガイドライン第2版ー地域理学療法ガイドラインを中心にー.地域理学療法学.2022.
- Carol Ewing Garber, et al. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Med Sci Sports Exerc. 2011.
- Shinichiro Morishita, et al. Relationship between the rating of perceived exertion scale and the load intensity of resistance training. Strength Cond J. 2018.
- Sheppard JM, Triplett NT. Program design for resistance training. In: Haff GG, Triplett NT, editors. Essentials of strength training and conditioning. 4. Champaign: National Strength and Conditioning Association; 2016.
- James L Nuzzo, et al. Maximal Number of Repetitions at Percentages of the One Repetition Maximum: A Meta-Regression and Moderator Analysis of Sex, Age, Training Status, and Exercise. Sports Med. 2024.
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