筋肉量低下を簡単に評価できる下腿周径のカットオフ値と感度特異度

評価
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入院患者さんや地域の高齢者を見たときに、「この人、筋肉がやせすぎてないか?」と疑問に思うことはないですか。

筋肉量は40~50歳を超えると加齢とともに低下するいわれています。

筋肉量がどの程度あるのかを評価することは、運動プログラム作成や栄養サポートケアの検討において重要です。

しかし、筋肉量の測定するにはDXAなどの専門機器が必要であり、臨床で測定しない人も多いかもしれません。

この記事では、簡単に実施できる筋肉量を推察する評価方法と基準値を紹介します。

「瘦せてるから、たぶん筋肉量も衰えているだろう。」とか根拠なく考えてしまう人は、今回の内容を知って根拠をもって頂けると幸いです。

この記事の結論として、

  • 下腿の最大周径を測定することで肥満や年齢の影響を受けず全身の筋肉量を推測できる。
  • 下腿の最大周径が、男性で34~36cm女性で33~34cmを下回る人は、低筋肉量の可能性あり。

この記事を読むと、下腿周径による筋肉量の予測について知ることができます。

下腿周径は低栄養のスクリーニングにも役立ちます。興味があればこちらで紹介しています。

下腿周径の測定方法

下腿周径は、メジャーを用いて下腿の最大膨隆部の周径を測定する、人体測定の1つです。

リハビリでは知らない人はいないくらい有名な評価ですね。

下腿の最大膨隆部は、主に下腿三頭筋の筋膨隆を評価することになります。

慣れると1分でできる簡単な評価なので、普段やらない人も取り入れましょう。

体位は立位、座位、背臥位と、研究による報告では様々な体位がありますが、

理学療法の養成校では、背臥位にて膝軽度屈曲位1)で測定する方法が一般的です。

今回、参考にさせていただいた研究では、背臥位のほかに、椅子座位や立位での測定する場合もあるようです。

ただし、下腿の最大膨隆部で測定している点は共通してました。

測定方法2)
  1. 原則として非麻痺側もしくは非利き手で測定
  2. 測定は3回実施し、平均値を測定値とする(養成校では2回と習うことも)
  3. 浮腫がある場合は、その旨を記録する

肥満や年齢の影響を受けにくい筋肉量の推定

下腿周径と筋肉量の関係について紹介します。

1239人の日本の地域住民を対象とした早稲田大学の健康調査3)では、

下腿周径はDXA法とBIA法の両方で測定された筋肉量(ASM/身長²)と正の相関を認めました。

  • DXA法:男性r=0.81、女性r=0.73
  • BIA法:男性r=0.78、女性r=0.78

男女とも下腿周径と筋肉量は高い相関関係を認める⇒下腿周径が小さい人は筋肉量も小さい

  • DEX法は、X線を使う制度の高い筋肉量を測定する方法。病院など専門施設でしか測定できず、お金や時間が必要になります。
  • BIA法は、身体に電気を流し測定する方法。体重計の形で家庭でも広く使われていますが、電気を用いるためペースメーカーを入れている人は使用できません。また、DXA法に比べて誤差が大きいといわれています。

この研究の興味深いところは、サブ解析として

①肥満群(体脂肪率% 男性25%以上、女性30%以上)と非肥満群

②若年群(60歳未満)と高齢群(60歳以上)

と肥満と年齢の特徴を分類して、下腿周径と筋肉量に関係があるか調査しています。

その結果は以下の通りです。

  • 男性 肥満群r=0.84、非肥満群r=0.77
  • 女性 肥満群r=0.78、非肥満群r=0.74

  • 男性 若年群r=0.80、高齢群r=0.74
  • 女性 若年群r=0.78、高齢群r=0.68

肥満群と非肥満群、若年群と高齢群ともに、下腿周径と筋肉量に正の相関を認めました。

肥満の有無、若年高齢に関係なく、下腿周径が小さい人は筋肉量が低い

このことから、

下腿周囲長は、肥満度や年齢に関係なく筋肉量を予測できるツールといえます。

ただし、地域で生活している人対象としているので、

例えば、入院が必要となる超高度な肥満の人などは、検討時に注意が必要です。

下腿周径における筋肉量低下のカットオフ値

筋肉量低下に関する下腿周径のカットオフ値は、

  • 男性34~36cm未満
  • 女性33~34cm未満

です。

低筋肉量はAWGSのサルコペニア診断基準を参考にしてことが多く、

今回紹介する調査においても、

男性DXA法<7.0kg/㎡もしくはBIA法<7.0kg/㎡女性DXA法<5.4kg/㎡もしくはBIA法<5.7kg/㎡を低筋肉量を定義しています。

日本の地域在住高齢者を対象としたKawakamiらは、 2015年では下腿最大周径が男性34cm未満、女性33cm未満が筋肉量低下の目安4)と報告しました。

しかし、2020年にDXA法とBIA法において、それぞれ低筋肉量低下のカットオフ値を報告しています3)。

調査の結果として、

DXA法での低筋肉量の判定:男性36cm(感度81.7%、特異度80.4%)・女性34cm(感度84.9%、特異度72.4%)

BIA法での低筋肉量の判定:男性35cm(感度91.2%、特異度83.5%)・女性33cm(感度81.5%、特異度83.6%)

男女ともに感度・特異度が高いため、

男性35~36cm未満、女性33~34cm未満が低筋肉量の指標として、臨床でも信用できるカットオフ値だと思います。

  • 感度:疾患がある人を検査で陽性と判断できる割合

感度が高いほど検出率が高く、予防活動などで有用。

  • 特異度:病気がない人を陰性と判断できる割合

特異度が高いほど疾患でないことが明らかとなるため、確定診断に有用。

ちなみに、他の国のカットオフ値は、

ブラジルでは、男性34cm(感度76.2%、特異度67.7%、正診率71.1%)、女性33cm(感度73.3%、特異度89.2%、正診率71.1%)

韓国では、男性35 cm(感度92%、特異度59%、AUC0.51)、女性33cm(感度83%、特異度50%、AUC0.34)。

日本人の報告とほぼ同様の結果でした。

下腿最大周径が 男性34~36cm未満女性33~34cm未満

を下回る場合、筋肉量低下を示している可能性があります。

リハビリ介入時に評価し、筋肉量の低下を検討する情報の一つにしましょう。

下腿周囲長はサルコペニアのスクリーニングに最も優秀

2019年にAWGSより、

サルコペニアのスクリーニングが明確に発表されました5)

具体的には、3つのスクリーニングが挙げられています。

  1. 下腿周径
  2. 質問紙であるSARC-F
  3. 下腿周径+SARC-CalF

Itoらは、日本人を対象に3つのスクリーニングツールがサルコペニアを特定するのに有用か調査しています6)

対象者は139名、平均年齢76.6±6.6歳の介護予防事業に参加している地域在住高齢者です。

サルコペニアを検出するテストの有用性

下腿最大周径:感度83.3、特異度62.8、AUC 0.60

SARC-F:感度11.1、特異度91.7、AUC 0.50

SARC-CalF:感度66.7、特異度81.8、AUC 0.53

下腿最大周径は最も感度が高いので、

サルコペニアが疑わしい人を発見するのに最も適している評価といえます。

また、AUCも3つの評価の中で最も高いので、3つのスクリーニングの中では優れた評価と判断できると思います。

AUC(Area Under the Curve):0~1の範囲で、複数の検査を比べた時にAUCが大きいほど優れた検査といえる

下腿周径は短時間かつ簡単にできる評価なので、

多くの対象者に活動する地域予防の分野などに適しています。

この内容を知り、サルコペニアの早期発見に役立てて頂けると幸いです。

サルコペニアに関しては、こちらでも紹介しています。

まとめ

筋肉量は男女ともに40~50歳から顕著に低下します。

筋肉量の低下を評価することは、運動プログラムの作成や栄養サポートなど介入を検討する上で重要です。

ですが、筋肉量の評価は患者さんの負担が大きかったり、時間がかかるので臨床現場では評価されることは稀です。

そこで、短時間かつ簡単に評価できる下腿周囲長がおすすめです。

日本人では男性34~36cm、女性33~34cmを下回ると筋肉量低下の指標になります。

しかも、下腿周囲長は肥満や加齢の影響を受けずらいことも報告されているので、

広い範囲の人に使用することができます。

また腿周囲長はサルコペニアをスクリーニングする方法としても高い感度のため優秀な評価であることが報告されています。

いままで、下腿周囲長を着目していなかった人も、この機会に測定してみてください。

筋肉量やサルコペニアの視点を臨床で取り入れることで、

多職種との連携や運動以外の栄養サポートもスムーズになります。

この記事がなにかのお役に立てれば幸いです。

参考資料

  1. 理学療法検査・測定ガイド第2版.編集 奈良勲,内山靖.文光堂.2009年.
  2. 望月弘彦.総論 身体計測の方法.日本静脈経腸栄養学会雑誌.2017.
  3. Ryoko Kawakami, et al. Cut‐offs for calf circumference as a screening tool for low muscle mass: WASEDA’S Health Study. Geriatr Gerontol Int. 2020.
  4. Ryoko Kawakami, et al. Calf circumference as a surrogate marker of muscle mass for diagnosing sarcopenia in Japanese men and women. Geriatr Gerontol Int. 2015.
  5. Liang-Kung Chen, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020.
  6. Akihiro Ito, et al. Changes in the screening efficacy of lower calf circumference, SARC-F score, and SARC-CalF score following update from AWGS 2014 to 2019 sarcopenia diagnostic criteria in community-dwelling older adults. J Phys Ther Sci. 2021.


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