日本人のサルコペニアの診断は、アジアの7カ国の研究者からなるアジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)によって2019年に改訂発表がありました。
その中でサルコペニアの評価方法は、”設備の整った医療施設や研究を目的とした評価”と”設備の少ない診療所や地域での評価”、の2つが発表されています。
この記事では、設備の少ない診療所や地域での評価方法に関して、平均値や指標を紹介します。
結論は以下の通りです。
- サルコペニアの簡単なスクリーニングは、下腿周径とSARC-F
- 下腿周径:男性<34cm、女性<33cmはサルコペニアの可能性
- SARC-F:4点以上はサルコペニアの可能性
診療所や地域のサルコペニア評価チャート
専門的な機器が整備されていない環境では、サルコペニアが疑われる人を”下腿周径”や”SARC-F”により抽出します。
下腿周径やSARC-Fでサルコペニアと疑われた人は、”握力”や”立ち上がりテスト”による身体機能評価をを実施しましょう。
サルコペニアの診断には筋肉量の評価が必要ですが、このチャートでは筋肉量の測定が不要になっています。
このチャートでは、筋肉量を測定する専用機器のコストが不要であり、さらに評価も短時間です。
また、下腿周径やSARC-Fは、地域の予防活動では専門の知識がなくても、検査ができるくらい簡単です。
チャートに沿ってサルコペニアの評価を簡単に実践しましょう。
下腿周径(下腿の最大周径)
下腿周径は、簡単に言うと「ふくらはぎの最も太い所の太さ(cm)」になります。
これは、下腿三頭筋の筋腹の大きさを示しており、以下のような報告もあります。
下腿の周囲長は、肥満や年齢に関係なく、DXAで測定された筋肉量と正の相関がありサルコペニアを診断するための筋肉量の正確な代理マーカーである。
Geriatr Gerontol Int. 2020. Cut-offs for calf circumference as a screening tool for low muscle mass: WASEDA’S Health Study. Ryoko Kawakami .
日本人において、ふくらはぎの太さが全身の筋肉の量と関連することが報告されています。
ちなみに新潟医療福祉大学の井上先生らの報告によると、
男性:下腿周径 <34 cmの時のサルコペニア診断は、感度85%、特異度66%。
女性:下腿周径 <33 cmでのサルコペニア診断は感度91%、特異度28%。
Arch Gerontol Geriatr. 2020. Calf circumference value for sarcopenia screening among older adults with stroke. Tatsuro Inoue.
感度はかなり高いので、スクリーニングにはとても有効ですね。
しかし、特異度が低いため、偽陽性が多い可能性には注意しましょう.
下腿周径の測定は、メジャーを用いて、ふくらはぎの一番太い所を図るだけです。
特別な訓練が必要ない点も、この評価のメリットになります。
下腿周径と筋肉量については、別の記事でも詳細に解説しています。
日本版SARC-F
SARC-F は 5 つの質問で構成された質問紙です。
5項目の合計得点が、4点以上ならサルコペニアの可能性があります.
日本人を12800人を対象としたidoらのメタアナリシスでは、以下のように報告されています。
7 つの論文の12800名のデータを統合した場合、特異度が90%,感度が21%.
J Am Med Dir Assoc. 2018. SARC-F for Screening of Sarcopenia Among Older Adults: A Meta-analysis of Screening Test Accuracy. Satoshi Ida.
下腿周径とは違い、感度が低いため検出される人は少ないかもしれません。
しかし、特異度が高い(偽陽性が少なく確定診断に向いている)ので、SARC-Fが4点以上の人ではサルコペニアの可能性が高いと考えて良いと思います。
注意点として、質問の内容は簡単でも回答する人の認知機能や性格などによる影響は多少あるかもしれません。
まとめ
- 専門機器を使用しないサルコペニアの評価チャートでは,サルコペニアの確定診断は難しいが,短い時間で,測定も比較的簡便にできる.
- 下腿周径は簡便にできるサルコペニアの評価方法で,年齢や肥満度に関係なく筋肉量の代理マーカーとなる.指標は「男性<34cm,女性<33cm」.
- SARC-Fが4点以上ではサルコペニアの可能性が高い.SARC-Fは特異度が高いため,偽陽性が少ない.
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