
家に退院できたから安心?

病院ではADL自立したから大丈夫?
「退院=家で生活できる」と考えてはいませんか?
実は、入院から退院した直後を【混乱期】と表現し、自宅に帰った後にADLが低下する患者さんがいます。
この記事では、退院後に生じるADL低下について論文をもとにエビデンスを解説します。
- 約30~50%の患者で退院後にADLが低下している可能性
- 退院後にADL低下しやすい人のチェックリスト:高齢、脳卒中、入院中にADL障害、退院時の低ADL、認知機能障害、フレイル
- 退院後にADL低下を防ぐ3つのアプローチ:課題指向型トレーニング、介護者への指導、訪問リハビリや訪問看護
退院後にADL低下が起きやすい人の特徴や解決策も解説しているので、臨床でも活用してください。
退院後の活動範囲についても別記事で解説しています。

退院後30~50%程度がADL低下している可能性
リハビリ室や病棟でADLが自立していれば、大丈夫だと思っていませんか。
退院前にADLが良好でも、退院後にADL低下が生じる患者さんがいます。
- 入院前にADL良好でも、33%の患者で退院後3ヶ月にADLが不良
- 入院中にADL障害が発生した53%の患者で退院後1ヶ月にADLが低下
- 病院や施設のような構造化された環境に比べ、家庭環境ではADLが著しく低下する

急性疾患により入院しリハビリを実施した618名の高齢患者を対象に、入院2週間前から退院後3ヶ月後のADLとIADLを追跡調査した研究1)によると
- 入院2週間前はADLが良好でも、退院後3ヶ月で低下(悪化群)した割合は33%
- 入院2週間前はIADLが良好でも、退院後3ヶ月で低下(悪化群)した割合は23%

約3人に1人が、入院前にADL良好でも退院後3ヶ月ではADLが低下していました。
また、アメリカの三次医療機関病院に急性疾患で入院した高齢者を対象に、退院後1ヶ月のADL障害を調査した大規模研究2)では
「新たなADL障害がなく退院した患者」は13.5%がADL低下していたが、「新たなADL障害が発生した患者」では53.0%で転帰が悪かった
入院中にADL障害が発生した患者では、退院後もADLが低下しやすいことが明らかとなりました。
さらに、2024年に50歳以上の脳卒中患者57名(66.1±8.2歳)を対象に、退院前のリハビリ施設と退院後の自宅ADLを比較し、退院直後のADL変化を調査した研究3)によると
- 全てのADL活動で退院時より退院後の自宅の方が障害スコアは有意に高く,自宅でのADL障害が大きかった
- l入浴・更衣(下)・トイレの移乗で30%以上の患者が退院時より自宅で障害レベルが重症化した
- シャワー/浴槽への移動、歩行、階段の上り下りで40%以上の患者が退院時より自宅で障害レベルが重症化した


退院時と比べて、退院後の自宅では明らかなADL能力の低下を認めました。
この要因について、Somervilleらは以下のように考察しています。
臨床リハビリテーション環境と家庭環境とでは、設計やアクセス性の点で本質的にばらつきが大きい。
建築様式の違い、スペースの制約、安全対策の変更などの影響は、個人のADL能力に大きな影響を与える可能性がある。
対象疾患が、脳卒中患者に限定されていますが、
リハビリ施設のような構造化された環境に比べ、家庭環境では著しくADL低下すると示されています。
多くの調査から、退院時にADL能力が高くても、退院後では低下する可能性が示されています。
「家に帰れたら安心」「リハビリや病室で自立できているから大丈夫」は危険です。
ただし、すべての患者で退院直後にADL能力が低下するわけではありません。
入院前にADLが自立していた三次医療機関の内科疾患の患者403名を対象に、入院時から退院後6か月までのBArthel Indexを追跡した調査4)によると
- 退院時Barthel Index 51.7点から退院後1ヶ月で73.9点まで改善した
- 退院時から退院後1月までは急速に回復するが、以降は回復速度が鈍化し、退院後3~6か月では明らかな変化は見られなかった

内科疾患に限定した調査ですが、退院~退院後1ヶ月の時期が最もADL能力が回復しました。
必ずしも、すべての患者が退院後にADLが低下するわけではないようです。
退院後ADLの変化には、疾患や環境、身体機能などの多くの要因が影響します。
次章では、退院後にADLが低下しやすい人の特徴をチェックリストにまとめたので、退院前の評価に活用しましょう。
退院後にADLが低下しやすい人のチェックリスト
ここでは、退院後にADLが低下しやすい人の特徴を解説します。
チェックリストとして、退院時に確認しましょう。
- 高齢者(65歳以上)
- 脳卒中患者
- 入院中にADL障害が発生
- 退院時ADLの低下
- 認知機能の低下
- フレイル

当てはまる項目が多いほど、退院後にADLが低下するリスクが高いと考えられます。
退院後6ヶ月でADL自立(Barthel Index100点)を予測する要因を調査した研究4)では、
多変量解析にて以下の4項目が有意な関連を認めました。
- 退院時ADL(Barthel Index) OR 1.03、95%CI 1.02~1.05
- 年齢(65歳) OR 0.27、95%CI 0.12~0.60
- 退院先 OR 0.39、95%CI 0.17~0.88
- 認知機能 OR 1.69、95%CI 1.07~2.65

退院後6ヶ月のADLは自立しやすい要因は、65歳未満、自宅退院、退院時のADLや認知機能の高さでした。
ADL能力が予後に及ぼす影響については、Boydらも報告しており
入院中に新規のADL障害は発生した患者は退院後にADLが低下する患者の割合が多かったです2)。
また、急性疾患により老年リハビリ病棟に入院した患者におけるADL機能の回復に影響を与える因子は、以下の2項目でした1)。
- 認知機能障害
- 臨床虚弱尺度(フレイルスコア)

認知障害やフレイルは、高齢入院患者の退院後ADLは低下に関わる要因です。
さらに、疾患による影響をみる、脳卒中患者では退院後にADLが低下したと報告3)がある一方で、内科疾患患者では退院後のADLは改善していました4)。
脳卒中のような機能障害が残存しやすい疾患では、退院後にADLが低下しやすいと考えられます。
以上のことから、退院後のADL低下をチェックする項目として以下が挙げられます。
| 退院後ADL低下しやすい人のチェックリスト |
| 年齢:65歳以上か |
| 疾患:脳卒中か(機能残存しやすい疾患) |
| 入院中にADL障害が発生したか |
| 退院時ADLは低下しているか |
| 認知機能の低下があるか |
| フレイルか |
退院前のリスク評価に活用してみましょう。
退院後にADL低下を防ぐ3つのアプローチ
退院後のADL低下を防ぐための方法を3つ紹介します。
入院中・退院時・退院後の時期に分けて解説するので、臨床でも取り入れてみましょう。
入院中のリハビリ:課題指向型アプローチによるADL練習
退院時の介護者への説明:家庭環境での生活や必要な介助などを説明
退院後のフォローアップ:訪問リハビリ、訪問看護の導入
入院中のリハビリ:課題指向型アプローチ
退院後にADL能力が低下する要因の一つは、
病院に比べて自宅は動作が難しい環境がであるです。
そのため、課題指向型アプローチによって環境に適した動作を獲得することで、退院後のADL低下を防ぐことができます。
実際の環境または近い環境で課題(動作)を練習することで特定の機能回復を図る介入。
個体・環境を結び付ける課題から構成され、問題解決を基盤とする介入理論。


課題指向型アプローチを簡単に表現すると、
「生活で使う(環境に適応する)能力を鍛えるために、実際に近い環境で練習する」トレーニングになります(厳密にはやや異なります)。
脳卒中患者を対象に入院中のリハビリ施設と退院後の自宅でADL能力を比較した調査では、
リハビリ施設と自宅で以下のような特徴を認めました3)。
- 入浴・更衣(下)・トイレの移乗の項目で30%以上の患者が、施設では「障害なし~軽度」の障害だったのに対して、自宅では「中等度~完全な障害」まで悪化した
- シャワー/浴槽の移乗・歩行・階段昇降で40%以上の患者が、施設では「障害なし~軽度」の障害だったのに対して、自宅では「中等度~完全な障害」まで悪化した

特にトイレや浴室への移動、歩行や階段昇降の項目で、自宅ADLは大きな障害を認めました。
この理由として、Somervilleらは以下のように考察しています。
階段やシャワー室は、施設環境と家庭環境で設計やアクセス性の点で大きく異なる。
建築様式の違い、スペースの制約、安全対策の変更などの影響は、個人の日常生活動作能力に大きな影響を与える可能性がある。
各個人の家庭環境がもたらす特有の課題に対処するために介入することが重要である。
リハビリ施設のような整えられた環境に比べ、自宅環境ではADL能力は低下しやすいようです。
そのため、リハビリでは自宅環境がもたらす課題を解決することが重要であり、
環境適応を図る課題指向型アプローチによって、退院後の環境変化による影響を少なくしましょう。
ここからは、課題指向型アプローチのポイントや例を紹介します。
- スキルを獲得、再獲得する意図を持って実生活で行う課題をトレーニングする
- 課題は挑戦的であり、漸進的に調整され、自立的な関わりを伴う
簡単に言うと、
「(課題(ADLやIADLなど)の獲得を目的に、やや難しい難易度に調整して、実生活で行う課題をトレーニングしましょう」ということです。
また、自宅での生活や環境を病院で再現できるように、患者さんや家族から情報収集も重要になります。
課題指向型アプローチでは、挑戦的に課題に取り組むことで、心身や精神機能を含めたパフォーマンスの向上を図ります。
難易度は以下のポイントに着目して調整しましょう。
- 物品操作のあり/なし
- 予測可能/不可能な環境
- 身体移動あり/なし

例えば、「洗濯物を持ち、足元が見えにくい状態で階段を上がる」などは、とても難易度が高い課題になります。
ここからは、課題指向型アプローチによるADL練習の例を挙げます。
山田の経験が多く含まれるので、あくまでも参考程度にしてください。
トイレ動作
低難易度:手すりを把持して、片手ずつズボンを下ろして、座面の高い便器に座る(→手すりを把持して立ち上がり、ズボンを戻す)
中難易度:手すりをできるだけ使わないように、ズボンを下ろして、便器に座る
高難易度:手すりは使わない、ゴムがきつめのズボンやベルトのあるズボンを履いて行う、便器の座面は自宅と同じもしくは少し低く設定する
浴槽への移動
低難易度:手すりの把持もしくは、お尻でのまたぎ動作を経由しない浴槽への移動を紹介
中難易度:壁や手すり、浴槽をできるだけ把持する、浴槽の高さを低くしてまたぎ動作で浴槽に移動する
高難易度:壁や手すり、浴槽の把持は最小限、床面を滑りやすい素材や濡らす、浴槽の高さを自宅と同じもしくは少し高く設定する
課題指向型アプローチでは、患者さんの能力だけでなく、自宅環境や「どのように生活したいか」が大切になります。
患者さんに合わせた課題と練習方法を考えて、プログラムに取り入れてみましょう。
退院時の介護者への説明:家庭環境での生活や必要な介助など
退院前から本人や介護者への説明・指導は、患者さんが安全に退院生活を送るために重要な要因です。
しかし、具体的に何を伝えるか、あいまいな人も多いのではないでしょうか。
ここでは、介護者へ説明・指導の内容や効果について、論文などのエビデンスを解説します。
アメリカ医療研究品質機構(AHRQ)は、患者と家族を中心とした退院支援としてIDEAL (Include,Discuss,Educate,Asses,Listen)退院計画というアプローチを提唱しています。
- IDEAL退院計画:病院が患者や家族と協力し、医療の質と安全性向上ためのエビデンスに基づいたアプローチ
- 病院から自宅への退院には、有害事象を減らし、再入院を防ぐために、医療従事者から患者と家族への情報の円滑な伝達が不可欠です
- 患者と家族を退院計画に参加させ、病院と自宅の移行を安全かつ効果的に行い、退院後の有害事象や再入院を予防するアプローチ
IDEAL退院計画は、患者さんと家族が退院後に安全に生活をするためのエビデンスのある支援です。
IDEAL退院計画では、退院後における自宅での問題を防ぐために話し合う5項目を紹介しています。
- 自宅での生活はどのようになるか説明
- 薬の見直し
- 注意すべき兆候や症状の説明
- 検査結果の説明
- フォローアップの予約

IDEALでは主に医師や看護師が伝えますが、「自宅での生活はどのようになるか説明」はリハビリが最もよく把握している分野です。
自宅での生活について、具体的には以下の項目は伝えます。
- 家庭環境での生活
- 必要な支援
- すべき活動
- 避ける活動
他にもリハビリや病院生活を通して気がついた点は話し、患者と介護者が家での生活をイメージできるように説明しましょう。
山田の臨床ですが、以下の点を説明するようにしています。
- 道具の使用や環境調整が必要か
- 介助する量と介助方法
- 動作のスピードや疼痛・疲労の有無
例)トイレ動作について:自宅に設置してある手すりを使えば、立ち座りもできます。動きはゆっくりですが、一人でズボンの上げ下ろしやお尻を拭けるので、手助けはいらないです。時々、ズボンの上げ下ろしの際に、ふらつくことがあるので、退院後の最初だけ見守ってもらえると安心です。
患者本人や介護者がわかりやすい言葉で、繰り返し説明しましょう。
実は、介護者への説明は、病院スタッフが思っているよりも不十分である可能性が報告されています。
Tophamらは、退院準備に関わる介護者の認識を事例インタビュー形式で調査しました8)。
その結果4人に3人の介護者が、自宅での問題としてケア方法や移動、服薬管理、ドレーンケア、睡眠などの知識不足を訴えました。
介護者への説明は、理解の状態を確認しつつ、丁寧に伝えましょう。
退院後のフォローアップ:訪問リハビリと訪問看護
退院後の良好な健康状態やADLの維持向上には、訪問リハビリや退院後フォローアップが有効です。
ここでは、訪問リハビリやフォローアップによる効果や介入について論文から解説します。
- 運動と看護師によるフォローアップを組み合わせた介入は、退院後28日以内の再入院が有意に減少
- 退院後1ヶ月以内から開始した訪問リハビリによって、3ヶ月後・6ヶ月後のADL自立性が維持・向上

2024年にリハビリ病棟や包括ケア病棟を退院し、退院後1ヶ月以内に訪問リハビリを実施した患者を対象に、
退院直後の訪問リハビリの効果を調査した結果8)
- FIMは開始時105点、3ヶ月後108点、6ヶ月後109点
- ADL能力は開始時に比べて、3ヶ月後と6ヶ月後で有意に増加した

入院リハビリをしていても、退院直後からの訪問リハビリによって3ヶ月以降のADLが維持向上することが明らかになりました。
この要因について、Satoらは以下のように考察しています。
看護用ベッド、シャワーチェア、着替え用チェア、階段やドア付近の手すりの設置、歩行補助具の評価と提案、部屋の段差や敷居の減少などの環境調整は、入院リハビリだけでは達成できない訪問リハビリの特徴である。
したがって、訪問リハビリ介入は、入院リハビリを受けた患者においても、機能回復を促進する傾向がある。
自宅の環境調整や環境に合わせたリハビリが実施できる点は、訪問リハビリの強みであり、ADL向上に関わる重要なポイントですね。
また、退院後からの運動と看護師によるフォローアップは、再入院のリスクを減少させる効果があります。
退院後の移行期ケアにて4つのアプローチが再入院リスクに及ぼす影響を調査した研究によると9)
- 退院後のケアにおける「運動のみ」や「看護師による家庭訪問と電話によるフォローアップ」では、再入院リスクと有意な関連は認めなかった
- 「運動と看護師による家庭訪問と電話によるフォローアップ」は退院後28日以内の再入院リスクを有意に減少した(HR 0.28, 95%CI 0.09~0.88,p 0.029)

安全に退院後の生活を送るためには、運動と看護師によるフォローアップが重要でした。
これらの調査結果から、退院後における訪問リハビリや訪問看護の介入効果は高いことがわかります。
ただし、訪問リハビリや訪問看護は社会的なコストから、気軽に導入することが難しいです。
そのため、退院後にADLが低下しやすい人のチェックリストを活用して、リスクが高いか評価し、多職種で退院支援を検討しましょう。
まとめ
ここまで、退院後にADLが低下しやすい患者さんのチェックリストやADL低下を防ぐ方法について解説しました。
- 退院後に30%の患者が自宅でADL低下している可能性がある
- 病院や施設のような構造化された環境に比べ、家庭環境ではADLが著しく低下しやすい
- 退院後にADLが低下しやすい人のチェックリスト:年齢・脳卒中・入院中に発生したADL障害・退院時ADL・認知機能の低下・フレイル
- 退院後のADL低下を防ぐアプローチ:課題指向型アプローチ・退院時の介護者へ自宅生活を説明・訪問リハビリや訪問看護によるフォローアップ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
皆さんの臨床に活用できる内容であれば幸いです。
参考資料
- Cheng Hwee Soh, et al. Trajectories of functional performance recovery after inpatient geriatric rehabilitation: an observational study. Med J Aust. 2021.
- Cynthia M Boyd, et al. Recovery of activities of daily living in older adults after hospitalization for acute medical illness. J Am Geriatr Soc. 2008.
- Emily Somerville, et al. Differences in Daily Activity Performance Between Inpatient Rehabilitation Facility and Home Among Stroke Survivors. Neurorehabil Neural Repair. 2024.
- Xiuyue Li, et al. ADL recovery trajectory after discharge and its predictors among baseline-independent older inpatients. BMC Geriatr. 2020.
- 藤田博暁,他.中枢神経系に対する理学療法アプローチー課題指向型アプローチからMotor Relearning Programへー.理学療法科学.2007.
- 諸橋勇.脳卒中患者に対する課題指向型アプローチー課題指向型アプローチと運動学習に基づいた介入の考え方ー.理学療法学.2018.
- Emily Wahlquist Topham, et al. Caregiver Inclusion in IDEAL Discharge Teaching: Implications for Transitions From Hospital to Home. Prof Case Manag. 2022.
- Kenji Sato, et al. Investigating the effects of home-based rehabilitation after intensive inpatient rehabilitation on motor function, activities of daily living, and caregiver burden. PLoS One. 2024.
- Kathleen Finlayson, et al. Transitional care interventions reduce unplanned hospital readmissions in high-risk older adults. BMC Health Serv Res. 2018.


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