みなさんは運動器疾患の疼痛をみる際に、
疼痛の誘発している原因を臨床推論していますか?
疼痛が発生する機序を知ることは、
アプローチの効果を高めるだけでなく、さらなる疼痛予防にも重要です。
今回は、股関節前部の疼痛について、
腸腰筋をピックアップしてまとめました。
他にも、内転筋群や機能障害をピックアップした股関節前部痛をまとめているので、ご興味があればどうぞ。
この記事の結論は、
腸腰筋関連の疼痛は、
- 腸腰筋の筋緊張亢進・伸張性低下
- 股関節動的安定性の低下:腸腰筋と深層外旋六筋の筋力低下
- 骨盤後傾
が原因です。
腸腰筋の筋緊張亢進・伸張性低下
変形性股関節症や大腿骨骨折後は安静時でも股関節屈筋群の筋緊張が亢進します。
さらに、腸腰筋は股関節を求心位にとるために、
インナーマッスルとして、姿勢を制御する。
そのため、姿勢不良などにより腸腰筋の過用誤用が生じると、筋緊張が亢進します。
そして腸腰筋の筋緊張亢進は、複数の疼痛を誘発することも知っておきましょう。
- 筋スパズムによる圧痛や収縮時痛
- 股関節屈曲による筋内圧の上昇による圧縮ストレスの疼痛
- 腸腰筋の伸張性低下により、股関節伸展運動による伸張痛
さらに、腸腰筋の筋緊張亢進は、疼痛だけでなく、
体幹屈筋、股関節伸展筋、股関節外転筋の低緊張を誘発します。
疼痛評価と一緒にチェックするようにしましょう。
そして、注意しなければいけないのが、
腸腰筋の筋緊張亢進は、神経障害を引き起こす可能性があるということです。
解剖学的に、
スカルパ三角を構成する鼡径靭帯の深層を腸腰筋と大腿神経、大腿静脈が通過。
スカルパ三角はもともと狭い構造ですが、
腸腰筋の筋緊張が亢進し伸張性が低下
⇒大腿神経は鼡径靭帯との間で圧迫
⇒大腿神経の絞扼性神経障害
という流れで神経障害が誘発されます。
大腿神経の具体的な症状は、
- 腸腰筋・恥骨筋・縫工筋・大腿四頭筋の筋力低下
- 大腿前面の疼痛
です。
疼痛に加えて、筋力低下を認める場合は、
神経障害も同時に疑えると評価の精度が高まります。
股関節動的安定性の低下:腸腰筋と深層外旋六筋の筋力低下
股関節は複数の強靭な靭帯に包まれており、静的安定化機構はしっかりしています。
しかし、
動作時は骨盤に対して大腿骨頭を求心位に保つため、
股関節周囲筋による動的安定化機構が重要。
肩関節の回旋筋腱板と同じ役割です。
股関節の動的安定化機構に関わる筋は、
- 腸腰筋
- 深層外旋六筋
- 小殿筋
- 恥骨筋や短内転筋などの近位内転筋群
など。
筋力低下や筋緊張亢進などにより正常な収縮ができなくなると動的安定性は低下します。
動的安定性が低下すると、疼痛やパフォーマンス低下を引き起こします。
股関節動的安定性の低下
⇒股関節の運動軸が安定しない
⇒効率的な運動が行えない
⇒疼痛やパフォーマンスの低下を誘発
Lewisらの報告でも、
腸腰筋の機能低下により、疼痛の誘発や他部位への負担増加することが述べられています。
股関節屈曲運動時に腸腰筋のパワーが低下すると、股関節前部の負荷が増加した。
さらに縫工筋、長内転筋、大腿筋膜張筋のパワー(負荷)が増加した。
Cara L Lewis, et al. Anterior hip joint force increases with hip extension, decreased gluteal force, or decreased iliopsoas force. J Biomech. 2007.
股関節動的安定性の評価は、
股関節屈曲運動の自動・他動運動時の異常運動から原因を推察する方法があります。
筋力としてMMTを用いる方法もありますが、異常運動も参考にするとよいですね。
その他にも、動的安定性に関わる筋の収縮練習や促通により改善した場合は、
動的安定性に問題があったと判断できます。
骨盤後傾
骨盤後傾姿勢は、高齢者では多い姿勢ですが、
疼痛を誘発する要因となります。
骨盤後傾
⇒腸腰筋、大腿直筋、大腿神経、股関節内転筋群が持続的に伸張
⇒各部位に伸張痛を誘発する可能性
骨盤後傾では立位や歩行時、常に伸張ストレスがかかっている状態となるため、姿勢改善は重要です。
骨盤が後傾する要因は、
- 内腹斜筋の筋力低下
- 大殿筋の筋力低下
- 多裂筋の筋力低下
が挙げられます。
内腹斜筋による腹圧の維持、大殿筋や多裂筋による骨盤保持能力が重要。
骨盤後傾の評価方法は、
立位姿勢でのASISとPSISが2横指以下=骨盤後傾姿勢
というのがあります。
短時間かつ簡単な評価なので、活用してみましょう。
まとめ
股関節前部痛の疼痛に関して、腸腰筋に着目してまとめた。
腸腰筋の疼痛は、
- 腸腰筋の筋緊張亢進・伸張性低下
- 股関節の動的安定性の低下:深層外旋六筋と腸腰筋の筋力低下
- 骨盤後傾
の3つが原因。
詳細な評価と適切な運動療法により疼痛を改善できる可能性が高くなります。
ここまで読んできただき、ありがとうございます。
何かのお役に立てますと幸いです。
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