5回立ち上がりテストの測定方法について紹介しましたが,
今回はもう少し深く話を掘り下げて,転倒・ADL・QOLの評価にも5回立ち上がりテストが役立つというお話です.
論文からカットオフ値も紹介するので,リスク評価や目標設定などで参考にしやすいと思います.
転倒リスクのカットオフ値
5回立ち上がりテストは転倒リスクを評価するツールとして活用できます.
結論として,
転倒リスクを判定する5回立ち上がりテストは15秒以上
2017年にLusardiらは65歳以上の地域在住高齢者を対象に転倒リスクをシステマティックレビューとメタアナリシスにより調査した研究では,
56の研究から,バーグバランススケール≤50ポイント,TUG≥12sec,そして5回立ち上がりテスト≥12secが転倒のカットオフ値として明らかとなりました.
しかし、2021年に発表された転倒リスク評価の系統的レビューでは、
5回立ち上がりテスト≥15秒は転倒リスクがあるカットオフ値
と報告されています。
最新のレビューであることも踏まえて、15秒以上が目安になると考えられます。
また,Buatoisらは65歳以上の地域高齢者1618名を対象に再転倒のリスクを評価しました.
その結果,片脚立位バランスやTUGは再転倒のリスクと関連しませんでしたが,5回立ち上がりテストでは関連を認めました.
そして,5回立ち上がりテスト≥15secは15sec未満の人と比べ,2倍も転倒のリスクが高くなっていました.
つまり,転倒歴がある人では5回立ち上がりテスト≥15secは再転倒リスクの指標となる可能性があると報告しています.
外来や訪問の患者さんが「この前,転んじゃったんだよね~.」と言ったら,5回立ち上がりテストが必要かもしれません.
これらの報告からも5回立ち上がりテストは転倒と関連して,転倒のリスク評価や予防のために重要だと思います.
ADLとの関係
立ち上がり動作は基本動作の1つとして重要なので,ADL動作との関連は高いと予想されます.
ですが,5回立ち上がりテストとADL動作との関係を調査した報告は意外と少ないみたいです.
Wangらは筋力筋量,身体機能がADLに関与しているかをメタアナリシスで調査した際にも立ち上がりテストとADLに関連する論文は3つ,IADLに関連する論文は2つでした.
Wangらの結果は立ち上がりテストが遅いことはADLの悪化と関連した(OR=1.90, 95%CL: 1.63-2.21, p<0.01)と述べています.
ちなみに,IADLとは関連を認めませんでした(OR=2.10, 95%CI: 0.80-5.48, p=0.13).
IADLは複雑で認知機能など必要な能力が多岐にわたるからかなって思っています.
想像の通り,5回立ち上がりテストとADLに関係を認めました.
一つの指標として立ち上がり能力の把握することもADL能力の維持向上のためには重要かと思います.
QOLとの関係
5回立ち上がりテストはQOLとも関係し,QOLの低下をきたすカットオフ値も報告されています.
阪本らは山梨県にて介護予防事業に参加した高齢者を対象にQOLと5回立ち上がりテストの関係を調査しました.
その結果,65~74歳の前期高齢者において,5回立ち上がりテストで10secを超えるとEQ-5Dの”移動の程度”,”普段の活動”の悪化を認めました.
この研究の前期高齢者は32名とやや少ないため,一概に言えないかもしれませんが,5回立ち上がりテスト10secのカットオフ値はQOL項目が有効と判断できる可能性があります.
介護予防事業やリハビリ実施などのさまざま分野で,目標設定や効果判定の1つとして用いりやすいかなと思います.
この研究は,地域住民を対象としているので,僕らが普段対象としている患者さんに当てはめる際には注意が必要かもと思います.
おわり
今回は,5回立ち上がりテストと転倒やADL,QOLの関係について書きました.
効果判定や目標設定の目安のためにも5回立ち上がりテストのカットオフ値を知っておくと便利だと思います.
特に転倒やQOLに関しては,外来や入院患者さんだけでなく地域での健康予防活動なd広い範囲で活用ができるのでおススメです.
ここまで読んで頂いてありがとうございました.何かの役に立てて頂けたら幸いです.
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