
エビデンスがある転倒予防の運動プログラムを知りたい!

どんな運動なら転倒予防に効果があるの?
自宅での運動指導に効果的なものはある?
転倒予防プログラムや自宅での自主トレーニングメニューに悩んだことはないでしょうか。
この記事では、転倒予防の高い効果が示されている「オタゴ運動プログラム(Otago Exercise Program)」について、
効果のエビデンスや具体的な実践方法について論文やガイドをもとに解説します。
この記事の結論は以下の通りです。
- オタゴ運動プログラムは転倒予防を目的に作成された、エビデンスレベルの高い運動プログラム
- 自宅でのトレーニング、外来や入院、地域、介護施設などの広い分野で効果が示されている
- オタゴ運動プログラムによりバランス能力、歩行能力、下肢筋力を有意に改善し、健康状態が悪い高齢者の方が高い効果があるという高いエビデンスが示されている
- オタゴ運動プログラムでは介護施設やデジタル技術を用いた介入でも効果があり、広い分野で活用できる
オタゴ運動プログラムを理解して、自分の臨床で活用してみましょう。
- 転倒予防に高い効果があるオタゴ運動プログラムがわかる
- オタゴ運動プログラムの有用性や具体的なプログラムがわかる
転倒に関しては別の記事でも解説しています。
オタゴ運動プログラム(Otago Exercise Programe: OEP)の概要解説
ここでは、オタゴ運動プログラム(OEP)の概要について解説します。
結論は以下の通りです。
- オタゴ運動プログラムは高齢者の転倒予防を目的に作成、検証されたプログラム
- ウォーミングアップ、下肢の筋力トレーニング、バランストレーニング、ウォーキングの4項目から構成され、難易度を変えながら運動できる
- 自宅、病院、介護施設、地域など広い分野で活用され、世界的に効果が報告されているエビデンスの高い運動
- 自宅訪問や電話によるフォローアップで運動の継続や遵守をサポートする

オタゴ運動プログラムは、ニュージーランドの転倒予防研究グループが開発した、
高齢者の転倒を減らすことを目的としたエビデンスに基づいた運動介入プログラムです。
オタゴ運動プログラムの内容は以下の4項目から構成されています。
- ウォーミングアップ(5種目)
- 下肢筋力トレーニング(5種目)
- バランストレーニング(12種目)
- ウォーキング
下肢筋力トレーニングは5種目、バランストレーニングは12種目あり、理学療法士などのインストラクターが実施する項目や最大4段階(A~D)の難易度を個別に調整します。
オタゴ運動プログラムは、インストラクターがついて運動するだけでなく、自主トレーニングとして本人のみで運動できるように指導することが重要です。
トレーニングのプロトコルでは、1日30分程度の運動介入を、6~12ヶ月程度の実施することが多いようです1)。
実施する頻度は、下肢筋力トレーニングとバランストレーニングは少なくとも週3回、ウォーキングは少なくとも週2回としています。
ただし、研究によっては運動時間・期間・頻度は少し異なっており、対象者によって調整しても良さそうですね。
各運動プログラムの詳細な内容や運動プロトコルは次の章【オタゴ運動プログラムのプロトコル】で解説します。
オタゴ運動プログラムの強みの一つは、広い分野で活用が報告されている点です2)。
以下の分野でオタゴ運動プログラムを実施した報告があります。
- 術後患者
- 入院患者
- 外来患者
- 施設入居者
- 地域高齢者
- 個別での運動指導
- グループでの運動指導
- テレビ電話などの遠隔介入
さまざまな現場や環境でオタゴ運動プログラムの効果が報告されています。
目的や場面に応じて取り入れてみましょう。
オタゴ運動プログラムでは、運動内容や難易度を調整・指導した後、定期的にフォローアップする点も特徴です。
オタゴ運動ガイドでは、以下のようなフォローアップのスケジュールを挙げています。
- 自宅訪問:1週・2週・4週・8週・6ヶ月・それ以降は6ヶ月ごと
- 電話:3ヶ月・4ヶ月・5ヶ月・それ以降は毎月
- 運動状況の確認:毎月
- 転倒状況の確認:毎月

自宅訪問や電話によってフォローアップすることで、運動を継続・遵守しやすくなります。
オタゴ運動プログラムは遵守率が高く、運動開始から1年後でも参加者の35%以上が週3回実施しているようです3)。
運動指導だけでなく、その後の運動や転倒状況をフォローアップすることも大切ですね。
最後にオタゴ運動プログラムで用意する道具について紹介します。
以下の道具を用意しましょう。
- 実施する運動内容を書いた冊子(プリント)
- 運動状況や転倒状況を記録する用紙(カレンダーや日記)
- 足首に巻ける重錘(下肢筋力トレーニングで使用)
オタゴ運動プログラムは、対象者が自分で継続することが大切です。
そのため、運動プログラムを遵守し、モチベーションを保つために、冊子や記録用紙を準備しましょう。
また、下肢筋力トレーニングでは、足首に重錘をつけて、少しずつ負荷を上げます。
一般的には1kgから開始するため、重さの異なる重錘がいくつか用意しましょう。
オタゴ運動プログラムは、高齢者の転倒予防を目的に作成された運動であり、広い分野で活用できます。
自分の活躍する領域で取り入れてみましょう。
オタゴ運動プログラムの実践:ウォームアップ・下肢筋力トレーニング・バランストレーニング・ウォーキング
ここではオタゴ運動プログラムをすぐに実践できるように、
ウォーミングアップ、下肢筋力トレーニング、バランストレーニング、ウォーキングの運動内容や回数、頻度、時間について解説します4)。
内容をまとめると以下の通りです。
- ウォーミングアップは5種目の軽負荷自動運動を5分程度
- 下肢筋力トレーニングは5種目の運動を中強度で10回1~2セット、少なくとも週3回
- バランストレーニングは12種目の中から選択した運動を中強度で1~2セット、少なくとも週3回
- ウォーキングは通常の歩行速度で30分程度(分けてもよい)、少なくとも週2回
ウォーミングアップ
ここでは、オタゴ運動プログラムのウォーミングアップを解説します。
ウォーミングアップのプログラムは以下の通りです。
- 内容:5種目の自動運動
- 回数:5~10回
- 強度:軽強度
- 時間:5分

ウォーミングアップでは、以下の5種目の運動があります。
- 頭部の運動:背筋を伸ばして立って、ゆっくり左右を向く。左右5回
- 頸部の運動:背筋を伸ばして前を向く。顎に手を添えて、首が真っすぐになるように誘導する。5回
- 背部の運動:足を肩幅に広げて、背筋を伸ばして立つ。腰に手を置き、優しく腰を反らす。5回
- 体幹の運動:腰に手を当てて、背中を伸ばして立つ。腰が動かないように、楽にできる範囲で左右に回す。左右5回
- 足部の運動:立っても座ってもよい。足を上下に動かす。10回

ウォーミングアップの時間は5分程度が目安です。
オタゴ運動プログラムを用いた研究をみると、ウォーミングアップを実施しなかった調査もありました。
ウォーミングアップに関しては、対象者の身体状況などによっては、省いてしまってもよいかもしれませんね。
下肢筋力トレーニング
ここでは、下肢筋力トレーニングについて解説します。
下肢筋力トレーニングのプログラムは以下の通りです。
- 内容:5種目の下肢筋力トレーニング
- 回数:10回
- セット:1~2セットから開始して増やす
- 頻度:少なくとも週3回 (間に休息日を設ける)
- 強度:中強度、過度に疲れない範囲で重錘やセット数を調整
- 速度:低速(上げる運動で2~3秒、下す運動で4~5秒)
- 難易度を上げるタイミング:電話や対面でセラピストが判断

下肢筋力トレーニングの内容は、以下の5種目です。
- 膝伸ばし運動:座位にて膝関節伸展の自動運動
- 膝曲げ運動:立位にて膝関節屈曲の自動運動
- 足開き運動:立位にて股関節外転の自動運動
- 踵上げ運動:立位にて足関節底屈の自動運動
- つま先上げ運動:立位にて足関節背屈の自動運動

膝伸ばし運動、膝曲げ運動、足開き運動は足首に重錘を装着しますが、
踵上げ運動とつま先上げ運動では、重錘を使用しません。
そのため負荷量の調整は以下のようになります。
- 膝伸ばし運動、膝曲げ運動、足開き運動では、重錘の重さとセット数によって調整
- 踵上げ運動とつま先上げ運動では重錘を使用しないため、難易度(支持物の有無)とセット数によって負荷量を調整
重錘の使用は、80歳代以上の高齢者でも、1~2kgから開始したという報告もありましたが、疲労なく8~10回運動できる範囲の重さから始めましょう。
下肢筋力トレーニングの推奨強度は、中強度~高強度です。
しかし、運動開始時は筋肉痛や運動に対してネガティブな気持ちになりやすいため、開始時は軽負荷の方が良いかもしれません。
対象者の身体機能やメンタル面も考慮したうえで、負荷量を選択しましょう。
また、下肢筋力トレーニングの頻度は少なくとも週3回です。
疲労や痛みによっては連日での運動を避けて、回復のために休息日を設けることも推奨しています。
運動を実施する頻度も着目してプログラムを検討しましょう。
バランストレーニング
ここでは、バランストレーニングについて解説します。
オタゴ運動プログラムは転倒予防を目的に作られているため、バランストレーニングは特に大切です。
バランストレーニングのプログラムは以下のようになります。
- 内容:4段階の難易度で12種類のバランストレーニング
- 回数:トレーニングの種類ごとに異なる
- セット:1~2セット以上
- 頻度:少なくとも週3回
- 強度:中強度(難易度で調整)
- レベルを上げるタイミング:電話や対面でセラピストが判断

バランストレーニングの12種目は以下の通りです。
- スクワット
- 横歩き
- 8の字歩き
- 横歩き
- タンデム立位
- タンデム歩行
- 片脚立位
- 踵歩き
- つま先歩き
- タンデム後歩き
- 椅子からの立ち上がり
- 階段
バランストレーニングでは、種目ごとに回数やセット数が異なります。
また、種目によって難易度(レベル)の範囲も異なるので、以下の表で確認しましょう。

バランストレーニングで実施する種目は、対象者の状態に合わせて理学療法士などのインストラクターが種目を選択します。
全部を実施しても良いですが、身体機能や体力、モチベーションなどを評価して、プログラムを選択することも重要です。
また、バランス能力が高い人では必ずしも簡単な難易度から開始する必要はありません。
中強度の運動強度を目指して、種目や難易度を選択しましょう。
バランストレーニングを実施する前に、トレーニング中にバランスが崩れてもステップや手を着くなどで転倒しないか評価することが重要です。
バランスが崩れた際に、自分で姿勢を制御できない人やステップが出ない人は転倒リスクが高いと予想されます。
その場合は、「支持物あり」の運動や難易度の低い運動を中心にプログラムを立てましょう。
一人でバランストレーニングを実施しても、比較的安全に実施できるプログラムや難易度を選択することが大切です。
ウォーキング
ここでは、ウォーキングについて解説します。
ウォーキングのプログラムは以下の通りです。
- 内容:ウォーキング
- 時間:30分 (連続でなくて良い)
- 頻度:少なくとも週2回
- 強度:通常の歩行速度で普段の歩行補助具を使用

ウォーキングの運動時間は30分程度が目安です。
時間が確保できない人や疲労などで難しい人は、10分を3回に分けるなど工夫しても良いとされます。
生活習慣や疲労などの状況に応じて調整しても良さそうですね。
オタゴ運動プログラムでは、普段の歩行補助具を使用して、普段のスピードで歩きます。
早歩きをしたり、ノルディックポールなどウォーキング用の杖を使う必要はありません。
いつも通りの歩き方で良い点も説明しましょう。
また、ウォーキングの頻度は週2回以上です。
下肢筋力トレーニングやバランストレーニングよりも頻度は少なく設定されています。
ただし、ウォーキング頻度は多くても問題はないため、運動習慣や体力の向上に応じて頻度を増やしましょう。
オタゴ運動プログラムの身体機能の効果に関するエビデンス
ここからは、オタゴ運動プログラムによる身体機能への効果についてエビデンスを解説します。
結論は以下の通りです。
- オタゴ運動プログラムは高齢者のバランス能力、歩行能力、下肢筋力を有意に改善するという高いエビデンスがある
- オタゴ運動プログラムは、健康状態が悪い高齢者の方が効果は高い
Wangらは、2025年に15RCTを対象に高齢者全体・健康な高齢者・健康状態が悪い高齢者でオタゴ運動プログラムの有効性を系統的レビューとメタ解析で調査しました5)。
対象は1278名、60~92歳で、オタゴ運動プログラムによる介入と通常ケアとの効果を比較しています。
高齢者を分類した基準は以下の通りです。
- 高齢者全体:健康な高齢者と健康状態が悪い高齢者
- 健康な高齢者:慢性疾患、運動機能障害、認知機能障害がない(MMSE≥24)
- 健康状態が悪い高齢者:転倒歴がある、認知機能障害がある(MMSE<24)、筋骨格系疾患、フレイル症候群の1つ以上を有する
オタゴ運動プログラムによるバランス能力(Barg Balance Scale)への効果は以下の通りでした。
- 高齢者全体(WMD2.14)、健康な高齢者(WMD0.61)、健康状態が悪い高齢者(WMD4.35)で、Barg Balance Scaleによるバランス能力は有意な改善を認めた
- 健康な高齢者よりも健康状態が悪い高齢者の方がバランス能力はより改善した

WMD(Weighted Mean Difference): 加重平均差,各研究に応じて重み付けをして算出した平均の差
WMDの95%CIが0をまたぐ場合は、統計的な有意差を認めない
高齢者のBarg Balance Scaleによるバランス能力は、オタゴ運動プログラムの介入によって有意に向上しました。
また、加重平均差(WMD)で比較しても、健康状態が悪い高齢者の方が改善の幅は大きいようです。
さらにサブ解析として、オタゴ運動プログラムの介入期間と1セッションの運動時間がバランス能力に影響しているか解析しています。
介入期間と1セッションの運動時間の影響は以下の通りでした。
- 介入期間2~3ヶ月と4ヶ月において有意な効果を認めたが、6ヶ月では効果を認めなかった
- 介入期間4ヶ月では比較的異質性が低く最もバランス能力に安定した効果を示したが、2~3ヶ月と6ヶ月では高い異質性を認めた
- 運動時間は45分で有意な効果を認めたが、運動時間30分では有意な効果を認めなかった

介入期間に関しては、2~3ヶ月でも有意な効果(WMD 1.32)を認めたが、異質性が高いため、4ヶ月が最も安定した効果を示したと述べています。
また、運動時間に関しては、運動時間30分では有意な効果を認めなかったのに対して、45分では有意な効果を認めています。
そのため、オタゴ運動プログラムによるバランス能力向上の効果は、30分を超える運動を有効であることが示唆されました。
続いて、オタゴ運動プログラムによる歩行能力(6分間歩行テスト)への効果は以下の通りでした。
- 高齢者全体(WMD2.14)、健康な高齢者(WMD0.61)、健康状態が悪い高齢者(WMD4.35)で6分間歩行テストによる歩行能力は有意な改善を認めた
- 健康な高齢者よりも健康状態が悪い高齢者の方が歩行能力はより改善した

高齢者の6分間歩行テストによる歩行能力は、オタゴ運動プログラムの介入によって有意に向上しました。
また、バランス能力と同様に、健康状態が悪い高齢者の方が効果は大きいようです。
歩行能力に関しても、介入期間や運動時間についてサブ解析を実施しています。
結果は以下の通りでした。
- 2~3ヶ月の介入ではWMD0.52、6ヶ月の介入ではWMD1.17。介入期間が長い(6ヶ月)ほど歩行の改善に効果的な可能性が示唆された
- 運動時間30分では統計的に有意な効果は認めず、45分では効果を認めた

歩行能力に関しては6ヶ月と長期的な介入の方が、高い効果が得られやすいようです。
また、運動時間に関しても45分と長い方が有効な可能性が示されています。
ただし、運動時間に関して、Wangらは考察にて「対象研究の数が少ないため今後の調査が必要」と述べており、解釈には注意しましょう。
続いて、30秒立ち上がりテストによる下肢筋力に対する効果について結果は以下の通りでした。
- 高齢者全体(WMD1.30)、健康な高齢者(WMD0.84)、健康状態が悪い高齢者(WMD2.24)で30秒立ち上がりテストによる下肢筋力は有意な改善を認めた
- ・健康な高齢者よりも、健康状態が悪い高齢者の方が下肢筋力はより改善した

高齢者の30秒立ち上がりテストによる下肢筋力においても、オタゴ運動プログラムの介入によって有意に向上しました。
また、健康状態が悪い高齢者の方が大きな効果が得られるようです。
さらに、下肢筋力の介入期間や運動時間についてのサブ解析結果は以下の通りでした。
- 介入12ヶ月のみ統計的に有意な効果は認めず、3ヶ月と6ヶ月の比較的短期間の介入で統計的に有意な効果を認めた
- 3ヶ月の介入ではWMD1.66、6ヶ月の介入では0.84であり、介入期間が短い方が下肢筋力の改善に効果的な可能性が示唆された
- 運動時間30分のみ有意な効果を認め、45分や60分といった長時間の運動時間では有意な効果は認めなかった

下肢筋力に関しては、バランス能力や歩行能力の場合と異なり、3ヶ月という短い介入期間の方が効果は大きいという結果でした。
その理由について、Wangらは以下のように考察しています。
下肢筋力については、短期介入では結果が早く出現し、長期介入では改善の定着に役立つ可能性がある。
つまり、オタゴプログラムを開始した短期では下肢筋力が向上するが、長期的に筋力が向上し続けるわけではなく、向上した筋力が維持されるということです。
また、運動時間も30分という短い時間のみ有意な効果を認めており、バランス能力や歩行能力とは異なる結果でした。
その要因として、以下のように考察されています。
30分の短い運動時間は、疲労を回避できるため、運動の効果が最大化されたと考えられる。
これは、オタゴ運動プログラムが運動時間30分など、特定の条件によって効果的であることを示すが、最適な運動時間は参加者の特性や研究条件によって異なる可能性がある。
疲労を考えると、下肢筋力の向上には比較的短時間の方が有効な可能性が述べられています。
ただし、対象者によって適切な運動時間や条件は異なる可能性もあるようです。
次は、SPPBによる身体機能への効果についてです。
SPPBは3項目の運動テストからなるパフォーマンスバッテリー。
SPPBについては別記事にて解説していますので、ご興味があれば。
オタゴ運動プログラムによるSPPBから評価した身体機能への効果は以下の通りでした。
高齢者全体(WMD0.11、95%CI-0.30~0.51)、健康な高齢者(WMD0.15、95%-0.05~0.35)、健康状態が悪い高齢者(WMD0.00、95%CI-1.54~1.54)でSPPBによる身体機能への有意な改善は認めなかった

SPPBは、歩行能力、立ち上がり能力、立位バランス能力の3項目から成るテストですが、オタゴ運動プログラムによる介入では有意な改善は認めませんでした。
Wangらは、サンプルサイズや対象者の多様性を高めて、さらに検証する必要があると述べています。
また、握力を指標とした上肢筋力に関してもオタゴ運動プログラムは有効性がない可能性が示されています。
- 高齢者全体(WMD0.17、95%CI-0.06~0.41)、健康な高齢者(WMD0.24、95%-0.22~0.50)、健康状態が悪い高齢者(WMD-0.14、95%CI-0.70~-0.42)で右握力による上肢筋力への有意な改善は認めなかった

オタゴ運動プログラムでは上肢の運動はないため、これは当然の結果かもしれませんね。
Wangらによる、オタゴ運動プログラムの効果に関する系統的レビューとメタ解析の結果をまとめると以下のことがわかります。
- オタゴ運動プログラムの介入によって、高齢者のバランス能力、下肢筋力、歩行能力は有意に向上する
- オタゴ運動プログラムは健康な高齢者に比べて、健康状態が悪い高齢者の方が高い
- オタゴ運動プログラムの介入は、SPPBによる身体機能や握力による上肢筋力には有意な効果は認めない
オタゴ運動プログラムはバランス能力を下肢を中心とした機能の向上について、高いエビデンスが示されています。
また、健康状態が悪い高齢者の方が効果が大きいため、リハビリが関わる分野では積極的に取り入れたいですね。
高齢者施設におけるタゴ運動プログラムの介入効果
オタゴ運動プログラムは施設での介入も有効です。
ここでは、高齢者施設における集団介入での効果について解説します。
結論は以下の通りです。
介護施設に入居している高齢者への集団介入でも移動性、下肢筋力、虚弱性、健康状態、バランスは有意に改善する
Pengらは、介護施設に入居している高齢者に対してグループでのオタゴ運動プログラムを実施したRCT12研究を対象に系統的レビューとメタ解析を実施しました6)。
調査における評価アウトカムは以下の通りです。
- 移動性:TUG
- 下肢筋力:椅子立ち上がりテスト、5回立ち上がりテスト、30秒立ち上がりテスト
- 虚弱性:EFSスコア、Fried phenotype(フレイル(frailty)を身体的な側面から評価する表現型モデルのこと)
- 健康状態:SF-12、Barthel Index ・バランス:Barg Balance test
介護施設における集団でのオタゴ運動プログラムの効果は以下の結果でした。
- 移動性(SMD-0.64)、下肢筋力(SMD-1.09)、虚弱性(SMD-0.73)、健康状態(SMD0.47)で有意な改善を認めた
- バランス能力(MD4.72)で有意な改善を認めた
SMD:標準偏差、介入効果を表す、0.2:小さい効果,0.5:中等度の効果,0.8:大きい効果
MD:平均偏差、平均の差を表す
この結果から、オタゴ運動プログラムは個別指導だけでなく、
介護施設に入居している高齢者を対象とした集団への介入も効果があることが高いエビデンスで示されました。
通所リハビリテーションなど介護分野でもオタゴ運動プログラムは有用ですね。
デジタル技術におけるオタゴ運動プログラムの介入効果
近年では、対面による介入だけでなく、ビデオ通話などを活用した遠隔での介入が注目されています。
オタゴ運動プログラムは、デジタル技術を遠隔での介入にも有効です2)。
ここでは、デジタル技術を用いたオタゴ運動プログラムの介入効果について解説します。
- オンライン通話や録画ビデオを活用したデジタル技術でのオタゴ運動プログラムでもバランス能力、筋力、転倒恐怖感は有意に向上する
- デジタル技術による介入では、期間12週間以上、頻度週3回以上、1回の運動時間30~45分がバランス能力、筋力、転倒恐怖感の向上に有効
Heらは2025年にデジタル技術の介入によるオタゴ運動プログラムの効果について12研究を対象に系統的レビューとメタ解析を実施しました7)。
デジタル技術介入とは以下の通りです。
- オンライン介入(Zoom、WeChat)
- 録画ビデオ(PC、TV、DVDを経由)
- ウェアラブル技術(モーションセンサー、VRシステム)
デジタル技術によるオタゴ運動プログラムの介入効果は以下の通りでした。
- 静的バランス(SMD 0.86)と動的バランス(SMD 1.07)、転倒恐怖感(SMD -0.70)では有意に大きい効果を認めた
- 筋力(SMD 0.43)は中等度の効果を認めた

デジタル技術を活用したオタゴ運動プログラムの介入でも、
対面の介入と同様に高齢者のバランス能力、筋力、転倒恐怖感を改善することが示されました。
また、Heらの調査ではサブ解析として、介入期間・頻度・1回の運動時間の影響についても解析しています。
結果は以下の通りです。
- 介入期間は12週間未満に比べて、12週間以上の方がバランス能力、筋力、転倒恐怖感が大きく改善した
- 頻度は週3回未満に比べて、3回以上の方がバランス能力、筋力、転倒恐怖感が大きく改善した
- 1回の運動時間は45分以上に比べて、45分未満の方がバランス能力、筋力、転倒恐怖感が大きく改善した

サブ解析の結果から、デジタル技術によるオタゴ運動プログラムの介入は、
少なくとも12週間、週3回以上、30~45分の介入が効果的である可能性が示されました。
介入の期間や頻度、運動時間に関しては対象となった集団によって異なる可能性もありますが、介入を実施する一つの目安にはなると思います。
今後、感染対策や移動費用の負担など多くの要因によってデジタル技術の介入は増えるかもしれません。
運動プログラムの一つとして、オタゴ運動プログラムはデジタル技術との相性も良いため導入しやすいようです。
遠隔リハビリに関しては、別の記事でも解説しています。
まとめ
ここまで、オタゴ運動プログラムの具体的な内容や実践方法、効果について解説しました。
- オタゴ運動プログラムは、ウォーミングアップ、下肢の筋力トレーニング、バランストレーニング、ウォーキングの4項目から構成され、難易度を変えながら運動ができる
- 自宅、病院、介護施設、地域など多くの分野で活用され、世界的に運動効果が報告されているエビデンスの高い運動プログラム
- プログラム内容は、約30分のプログラム(1日の中で分割してもよい)で、筋力やバランストレーニングは少なくとも週3回、ウォーキングは少なくとも週2回実施する
- オタゴ運動プログラムは実施する内容と難易度を調整して指導し、自宅訪問や電話でフォローアップすることで運動の継続や遵守をサポートする
- オタゴ運動プログラムは高齢者のバランス能力、歩行能力、下肢筋力を有意に改善という高いエビデンスが示されている
- オタゴ運動プログラムは、健康状態が悪い高齢者の方が効果は高い
- バランス能力の改善には、介入期間4ヶ月、1回の運動時間は30分を超える方が有効かもしれない
- 身体機能(SPPB)や上肢筋力(握力)には有意な改善を認めない
- 介護に入居している高齢者にグループで介入しても移動性、下肢筋力、虚弱性、健康状態、バランスの有意な改善を認める
- デジタル技術との相性が良く、オンライン通話や録画ビデオを活用したオタゴ運動プログラムでもバランス能力、筋力、転倒恐怖感は有意に向上する(高いエビデンス)
- デジタル技術による介入では、期間12週間以上、頻度週3回以上、1回の運動時間30~45分がバランス能力、筋力、転倒恐怖感の向上に有効
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
転倒予防のプログラムや自主トレーニング指導などに役立てば幸いです。
参考資料
- Zihao He, et al. The effectiveness of digital technology-based Otago Exercise Program on balance ability, muscle strength and fall efficacy in the elderly: a systematic review and meta-analysis. BMC Public Health. 2025.
- Yi Yang, et al. The impact of Otago exercise programme on the prevention of falls in older adult: A systematic review. Front Public Health. 2022.
- Chenyu Wang, et al. The Otago Exercise Program’s effect on fall prevention: a systematic review and meta-analysis. Front Public Health. 2025.
- Otago Exercise Programme to prevent falls in older adults A home-based, individually tailored strength and balance retraining programme https://www.livestronger.org.nz/assets/Uploads/acc1162-otago-exercise-manual.pdf
- Chenyu Wang, et al. The Otago Exercise Program’s effect on fall prevention: a systematic review and meta-analysis. Front Public Health. 2025.
- Yu Peng, et al. The effectiveness of a group-based Otago exercise program on physical function, frailty and health status in older nursing home residents: A systematic review and meta-analysis. Geriatr Nurs. 2023.
- Zihao He, et al. The effectiveness of digital technology-based Otago Exercise Program on balance ability, muscle strength and fall efficacy in the elderly: a systematic review and meta-analysis. BMC Public Health. 2025.






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