みなさんはストレッチをすると関節の可動域が広がると思いますか.
ストレッチは理学療法に限らず,スポーツや健康体操でも広く使われている手技になります.
誰でも気軽にできる,最も身近な運動の一つかもしれません.
しかし,実際にストレッチの効果をはっきりと理解しているでしょうか.
意外とよくわからず,”なんとなく”でストレッチをしている,もしくは指導していることはないでしょうか.
ストレッチはスタンダードな手技名だけあって様々な報告がでています.
今回は,ストレッチが関節の可動域にどれくらい効果があるのか,まとめます.
ストレッチによる関節の可動域に関する研究報告
病院の患者さんを対象としたランダム化比較試験(RCT)を紹介します.
一部の論文ではありますが,エビデンスレベルの高いRCTでも,ストレッチにより関節の可動域が改善するかは賛否両論あり,一定の見解は得られていません.
しかし,2017年にコクランレビューに掲載されたHarveyらのシステマティックレビューによると,
ストレッチは,神経学的状態の有無にかかわらず,関節の可動域に関して,臨床的に重要な効果を及ぼさなかったという高いエビデンスがあった.
またQOLや痛みに関して,それぞれ臨床的に重要な短期的な効果を及ぼさなかったというエビデンスがあった.
と,報告されています.
つまり,ストレッチは関節の可動域,QOL,疼痛に関してはあまり効果がないことが高いエビデンスで証明されたという事です.
ストレッチは当たり前に,広く使われている手技だったので,驚きの報告でした.
関節拘縮の原因
コクランレビューの報告では,ストレッチが関節可動域に効果がないとありましたが,個人的には有効な面もあるのではないかと考えています.
その理由として,後天的な関節拘縮の原因として,Hoffa分類によると皮膚,結合組織,筋,神経,関節の5種類があります.
Hoffa分類の中で,皮膚,筋が原因で関節拘縮が生じている場合は,ストレッチによる改善の余地があると考えています.
ただ,関節拘縮の一般的な原因は,一つだけではなく複数が重なり合っているため,やはりストレッチのみで改善するというのは難しいのかもしれません.
しかし,臨床で取り組む際には,Hoffa分類のどれが”今”の問題かを考え,必要なアプローチを選択することが大切だと思います.
ストレッチより関節を動かす方が効果的
関節の可動域に関しては,ストレッチをするよりも関節の固定(不動)を解除することが有効であるとされています.
中田らのラットを用いた研究では,持続的なストレッチを20分以上行うと,関節の拘縮予防ができると報告しています.
この研究の興味深いのは,関節可動域は,ストレッチを30分も行っても固定をしていない対照群には及ばないという事です.
関節を固定(不動)すると,”組織の血流量低下”や”痛みが感じやすくなる(痛覚閾値の低下)”が生じます.
この状態になると,無意識に痛くならないように関節周辺組織の緊張亢進させ,筋肉を持続的に収縮させます.
すると,筋肉の収縮により,さらに血流量の低下や痛覚閾値の低下を引き起こします.
こうなってしまっては負のスパイラルになってしまい,関節はより動かず,痛みも増すばかりです.
痛くて動かせない人も,寝たきりで動けない人も,“動かないor動けない(不動)”が生じているという点では共通しています.
臨床の場では30分もひたすらストレッチだけをすることは,難しいです.
よって,不動を解除する方法を検討し,負のスパイラルを断ち切ることがリハビリでは最優先で重要なことだと思っています.
例えば,痛くて動かせない人では,痛くない範囲や方向を一緒に練習して自分で痛くなく動かせる範囲を知ってもらう.患者指導により,自分で可能な範囲で動かしてもらう,可能なら生活レベルで動かしてもらうようにするなどです.
まとめ
- コクランレビューでは,ストレッチは関節の可動域,QOL,痛みに関しては有効でない可能性がある
- 関節拘縮の原因によってはストレッチも有効と考える
- 不動を解除することが関節の可動域には重要であり,最優先事項の一つ
引用文献
Aust J Physiother. 2003. Randomised trial of the effects of four weeks of daily stretch on extensibility of hamstring muscles in people with spinal cord injuries. Lisa A Harvey.
Phys Ther. 2004. Passive versus active stretching of hip flexor muscles in subjects with limited hip extension: a randomized clinical trial. Michael V Winters.
Aust J Physiother. 2007. Four weeks of daily stretch has little or no effect on wrist contracture after stroke: a randomised controlled trial. Sally A Horsley.
Spinal Cord. 2009. Effects of 6 months of regular passive movements on ankle joint mobility in people with spinal cord injury: a randomized controlled trial. L A Harvey
J Physiother. 2017. Stretch for the treatment and prevention of contracture: an abridged republication of a Cochrane Systematic Review. Lisa A Harvey.
理学療法学.2002.持続的伸張運動の実施時間の違いが関節拘縮の進行抑制効果におよぼす影響-マウスにおける実験的研究.中田彩.
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