サルコペニアという言葉はだいぶ一般的になってきましたが,皆さんは具体的にどういうものか,どれくらい危険な状態か説明できますか?
サルコペニアについて知ることで,地域での健康寿命の延伸や病院での治療に役立てることができます.
今回のテーマはこんな人におすすめです.
- サルコペニアをよく知らない人
- 予防活動をしている人
- 高齢者と関わる機会が多い人
サルコペニアのイメージ
サルコペニアとは・・・
サルコペニアは,身体的な障害やQOL低下,および死亡などの有害な転帰のリスクを伴うもので,進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群.
Delmonico MJ, et al. 2007. Alternative definitions of sarcopenia, lower extremity performance, and functional impairment with aging in older men and women. J Am Geriatr Soc.
簡単にいうと,
加齢を基盤として,栄養や生活習慣,慢性疾患の影響により筋肉量・筋力が減少している状態です.
その結果,QOLの低下,介護や死亡のリスクが増加します.
サルコペニアとロコモとフレイル
サルコペニアと似た概念には,ロコモやフレイルといった健康寿命に関連する概念があります.
ロコモについては以前に紹介したので今回は省きます.ご興味のある方はこちらからお願いします.
フレイル(虚弱)とは,身体的・精神的・社会的な機能低下を示す広い概念です.
それに対してサルコペニアは筋肉に特化した考えで,身体的フレイルと同じ意味があります.
サルコペニアの有病率
サルコペニアの有病率に関して,東京大学の吉村先生らの研究が有名です.
この研究は,60歳以上の1099人を対象に4年間追跡した大型コホートスタディです.
75歳から急激にサルコペニアになる人が増加していることがわかります.
谷本らは日本人の4003人の地域住民を対象に筋肉量を各年代で比較しました.
筋肉量は男性では40歳代から,女性では50歳代から低下していくことを報告しました.
また,筋力に関する研究では,握力と等尺性膝伸展筋力は男女とも60歳~70歳代にかけて急激に低下することが報告されています.
サルコペニアの有病率は,筋肉量や筋力の加齢変化が影響していることが分かります.
逆に言うと,予防をするのであれば筋肉量や筋力の低下が始まる70歳代よりも前から対策を始める必要があります.
予防事業に関わる方は,加齢変化を意識することも大切だと思います.
サルコペニアの入院率と死亡率
サルコペニアは入院,死亡のリスクが増加することが報告されています.
平均年齢77.1±5.5歳の地域在住高齢者538名を対象としたイタリアのコホート研究ですが,
観察期間は55カ月,年齢や性別,BMIなどを調整した結果,
入院率は,非サルコペニアに比べ,ハザード比1.57 (95%CI 1.03-2.41)であった.
死亡率は,非サルコペニアに比べ,ハザード比1.88 (95%CI 0.91-3.91)であり,約2倍死亡する可能性が高い.
Lara Bianchi, et al. 2016. The Predictive Value of the EWGSOP Definition of Sarcopenia: Results From the InCHIANTI Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci..
また,死亡率のみに着目すると
アメリカの4425人の高齢者を対象とした研究では,サルコペニアは男女とも死亡率が有意に高かった.
また,心血管関連の死亡に関して,女性ではサルコペニアの人が明らかに死亡率が高かった.
と,多くの報告があります.
サルコペニアになると,すぐに体の不調を訴えることはありませんが,入院や死亡に繋がるため早期から注意することが大切になります.
まとめ
- サルコペニアとは,年齢を基盤に筋肉量や筋力が低下して,死亡や入院,介護が必要になりやすい状態のこと.
- 筋肉量や筋力は50代,60代から低下し始めるため,早期から予防的に対策することが大切.
- サルコペニアは,すぐに不調を訴えることが少ないが,入院や死亡のリスクが高くなる.(死亡リスクが約2倍になるという報告も.)
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