THAの手術後は、いつまで筋力が弱いの？いつになれば回復するの？
学生時代の症例報告で目標設定に”股関節の筋力向上”と未熟にも書いた自分にきた質問です。
当時は答えられず、めちゃくちゃ困りました。
人工股関節置換術(以下、THA)術後の筋力回復を知っていると、
退院時のフォローアップやトレーニング期間を検討する際に重要になります。
結論として、
- THA術後3ヶ月は筋力が低い
- THA術後4～6ヶ月で筋力は回復
です。
- THA術後いつまで筋力が低いのかわかる
- THA術後いつから筋力が改善するのかわかる
THA術後1～3ヶ月は筋力が低い
ここでは、THA術後の股関節周囲筋がいつまで低いかまとめます。
結論として、
THA術後1～3ヶ月は術前や健側と比べて筋力が低いです。
つまり、術後3ヶ月はフォローアップや筋力トレーニングの自主練習が必要。
Juddらは、THA後方アプローチを実施した患者の下肢筋力を1年間も調査しています。
その結果、
術前に比べ、術後1ヶ月では
- 股関節屈曲15%
- 股関節伸展15%
- 股関節外転26%
- 膝関節屈曲14%
- 膝関節伸展14%
も有意に低かった
この調査では、
- 術後1ヶ月では股関節膝関節の筋力が低い
- 術後3ヶ月で術前レベルまで回復する
を結論としています。
股関節だけでなく膝関節まで筋力が低下しているのは興味深いですね。
膝関節周囲筋まで評価するようにしましょう。
股関節の外転筋に関しては、
2021年に系統的レビューとメタ解析によって股関節外転筋力の術後変化が報告され、
THA術後1～3ヶ月の股関節外転筋力は術前と同レベル
と述べています。
また、股関節外転筋以外についてFukumotoらの報告では、
THA術後4週では股関節周囲筋は術前と有意差を認めず、術前と同レベルでした。
これらの報告もあり、
術後1～3ヶ月の股関節膝関節筋力は術前レベルもしくは術前よりも低い
と考えられます。
術前と同じ筋力なら問題ないのでは？
当然の疑問ですが、
THA術前の筋力は健側や健常者と比べ弱い
ということが明らかとなっています。
Loureiroらは、
軽症～中等度の変形性股関節症と健常者の筋力と筋肉量を比較しており、
健常者と比べ
- 股関節膝関節の筋力は平均22～26%も低い
- 股関節膝関節の筋肉量は平均5～30%も低い
軽症の変形性股関節症でも筋力や筋肉量が低くなっていることは、
変形性股関節症の保存療法にも関わるので知っておきましょう。
また、股関節外転筋力の系統的レビューとメタ解析の結果では、
術後1～3ヶ月の股関節外転筋力は、術前と同レベルですが、健側と比べると70%程度の筋力しかない
と報告しています。
健側と比べると筋力が低下していることが明らかです。
術前レベル＝筋力低下している状態なので、
術後1～3ヶ月の膝・股関節筋力は低い
と考えられます。
一般的な病院でTHAを施行すると、
早ければ2週間、遅くても3ヶ月以内に退院しているケースも多いと思います。
つまり、術後の筋力が回復する前に退院してしまう場合が多いということです。
「退院できたから大丈夫！」と考えるのではなく、
外来通院や自主トレーニング指導など退院後フォローアップが必要です。
退院後のフォローアップの必要性を伝えるデータの1つだと思いました。
- 腸腰筋の筋力強化①：背臥位にて股関節屈曲90°+膝関節屈曲位から、自動介助にて股関節屈曲運動
- 腸腰筋の筋力強化②：端坐位にて股関節屈曲の最終域付近で3～5秒保持。骨盤後傾などの代償動作が生じる場合は、他動で股関節屈曲位にして保持させる
- 大殿筋の筋力強化：ベッドから足を下ろした股関節中間位でのブリッジ運動
- 小殿筋の筋力強化：側臥位にて両股膝関節屈曲位で股関節内旋の自動運動
- 中殿筋の筋力強化：MMTに沿った肢位、股関節外転を自動もしくは自動介助運動(中殿筋を後方誘導)
- 中殿筋後部線維の筋力強化：両側股関節屈曲40～50°+膝関節屈曲90°位で股関節外旋を自動運動
THA術後4～6ヶ月で筋力は改善
THA術後1～3ヶ月は筋力が低下していることを説明しました。
それでは、「いつから筋力は回復しているの？」が気になりますね。
結論として、
THA術後4～6ヶ月で筋力は回復していると考えます。
Juddらは、THA術後1年間の下肢筋力を測定した結果、
THA術後の下肢筋力の回復は術後6ヶ月～12ヶ月でプラトーになると報告しています。
対象は26名とやや少ないですが、股関節と膝関節の筋力を網羅的に調査している点が興味深いです。
およそ術後半年から1年で筋力の回復がプラトーになると結論づけています。
股関節外転筋力に関しては、系統的レビューとメタ解析にて調査されており、
術後4～6ヶ月では
- 術前よりも筋力が高くなる
- 健常者の90%程度まで回復
と結果を述べています。
この調査から、
THA術後の股関節外転筋は術後4～6ヶ月で回復している
と考えられると思います。
日本では、FukumotoらがTHA術後の筋力と健常者を比較しており、
- 下肢筋力は術前や術後4週よりも6ヶ月で有意に高い
- 術後6ヶ月でも股関節伸展、外転、膝関節伸展筋力は健常者よりも有意に低い
ことを報告しています。
つまり、術後6ヶ月までは筋力は向上することがわかります。
ただし、術後6ヶ月でも健常者よりも筋力が低い可能性があるため、
患者さんによっては術後6ヶ月を超えてトレーニングが必要になる場合もあります。
筋力の回復に関しては、THA術後4～6ヶ月で回復していると考えられます。
しかし、臨床でも経験するように筋力の回復には個人差が大きいです。
あくまでも予後を考える目安として、
筋力だけでなく、パフォーマンス能力を含めて評価から個々にアプローチを検討することが大切ですね。
まとめ
- THA術後の筋力変化を論文をもとにまとめた
- THA術後1～3ヶ月では股関節と膝関節の周囲筋は低い
- THA術後は自宅退院してからもフォローアップや自主トレーニングが必要
- THA術後の筋力回復の目安は4～6ヶ月の可能性
- THA術後6ヶ月を超えても健常者より筋力が低いことがありトレーニングが必要なな可能性がある
参考資料
- Dana L Judd, et al. Muscle strength and functional recovery during the first year after THA. Clin Orthop Relat Res. 2014.
- Petros Ismailidis, et al. Abductor Muscle Strength Deficit in Patients After Total Hip Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Arthroplasty. 2021.
- Yoshihiro Fukumoto, et al. Changes in hip and knee muscle strength in patients following total hip arthroplasty. J Jpn Phys Ther Assoc. 2013.
- Aderson Loureiro, et al. Individuals with mild-to-moderate hip osteoarthritis have lower limb muscle strength and volume deficits. BMC Musculoskelet Disord. 2018.
コメント