病棟歩行自立にしたいけど、転倒リスクが高いのか低いのか、わからない…
どれくらいの身体機能があれば転倒リスクは少ない?
臨床において、転倒リスクを評価する場面は多くあります。
転倒は、たくさんの要因が影響して発生するため、「この評価だけでOK!」というものはありません。
しかし、転倒リスクの要因を把握して、複数の評価から転倒リスクを判断することは、
予後予測やリハビリアプローチにおいて重要です。
この記事では、
高齢者にピックアップして、転倒のリスク因子と評価について、ガイドラインや論文をもとに解説します。
カットオフ値も紹介しているので、臨床の参考にされば幸いです。
この記事の結論は、
- 転倒リスクに関わる因子で、バランス能力、歩行能力、筋力は特に重要
- 転倒リスク評価として、BBS 45点未満・TUG 13.5秒以上・5回立ち上がりテスト 15秒以上・SPPB 6点以下がカットオフ値として報告
- 高齢者の転倒リスク評価において、特に、通常歩行速度0.8m/sec以上はエビデンスのある重要な指標
- 身体機能以外の評価として、問診・投薬評価・認知機能評価・転倒恐怖感
です。
転倒予防に対するアプローチについては、別記事で詳細にまとめています。
転倒を引き起こすリスク因子
転倒のリスク因子について紹介します。
いろいろな視点でリスク因子を多く知っておくことで、正確な転倒リスク評価や転倒予防へのアプローチに役立ちます。
以下、結論です。
- 転倒のリスク要因として、バランス能力、歩行能力、筋力、精神機能、認知機能、視聴機能、起立性低血圧、各種疾患、薬剤、栄養、環境
- 加えて、転倒恐怖感、社会的フレイル、身体活動も転倒リスクと関係している
- 特にバランス能力、歩行能力、筋力は転倒予防に重要な要素
「高齢者の転倒予防と管理に関する世界ガイドライン: 世界的な取り組み」1)において、
転倒のリスク因子は
バランス能力・歩行能力・筋力・精神機能・認知機能・視聴機能・起立性低血圧・各種疾患・薬剤・栄養・環境
が挙げられています。
また、
2023年に発表された「高齢者の転倒予防と管理の根拠」2)では、6つを転倒に係る要因を挙げています。
転倒恐怖感・社会的孤独・栄養・身体活動・環境・薬(ポリファーマシー)・認知機能・睡眠
転倒を引き起こす要因は、多岐にわたり、複雑に関わっています。
複数の要因と転倒リスクを調査した報告を一つ紹介すると。
Pereiraらは65歳以上の地域高齢者500名を対象に、
1年以内の転倒とバランス機能や活動量、健康状態や環境因子を調査しました3)。
その結果、転倒の要因には
- バランス機能(Fullerton Advanced Balance: FAB)
- 除脂肪体重
- 総身体活動量
- 平日の安静時間
- 慢性疾患と身体障害の数
- 環境のリスク数
が関わっていることを示しました。
体力、体組成、健康状態、環境のリスク要因が増えると転倒リスクが高くなる可能性があります。
転倒リスクにはバランス機能・歩行能力・筋力が特に重要
転倒リスク因子の中で、バランス機能、歩行能力、筋力は特に重要です。
2010年にMEらは、33件の前向きコホート研究の結果4)、
転倒の相対リスク(RR)は
- 平衡感覚障害でRR1.2~2.4
- 歩行障害でRR1.2~2.2
- 筋力低下RR2.2~2.6
バランスや歩行障害、筋力低下によって1.2~2.6倍も転倒リスクが高まることを報告しています。
また、転倒予防ガイドライン5)において
筋力低下、転倒歴、歩行障害、バランス障害
は転倒リスクのオッズ比が高いと述べられています。
身体機能、特に筋力、歩行能力、バランス能力が転倒に関わる重要な要因です。
薬剤・ポリファーマシーによる転倒リスクの増加
薬剤も転倒に関わる重要な要因で、特にポリファーマシーは注意が必要となります。
ポリファーマシーとは、複数の薬剤を併用することによる有害事象のことです。
複数薬の同時服用により、負の相互作用効果や副作用の増幅によって意識障害や起立性低血圧、めまいなど転倒の原因となる要因を引き起こす可能性があります。
高齢者は地域で健康に生活している方でも、複数の薬を内服していることが多くあります。
JAMAに掲載された転倒のリスク因子を調査した研究4)においても、
“4種類以上の薬剤・向精神薬の使用“は1.1~2.4倍も転倒リスクが高くなる
ことを報告しています。
また、
50歳以上の6220名を対象とした大規模調査6)では、
薬使用による転倒関連の入院リスクは
薬の使用なし(SHR1)に比べて、
- 1~4種類の薬使用:1.79倍(SHR1.79, 95%CI1.18-2.71,p<0.01)
- 5~9種類の薬使用:1.75倍(SHR1.75, 95%CI1.04-2.95,p<0.05)
- 10種類以上の薬使用:3.19倍(SHR3.19, 95%CI1.61-6.32,p<0.001)
でした。
1~4種類の薬使用でも、転倒による入院リスクが1.79倍も高まると報告しています。
“複数薬剤の使用”や”向精神薬の使用”は、転倒のリスクが高まるため、確認することが大切です。
転倒リスクと身体機能評価
転倒リスクを評価するための身体機能評価は、
バランスやパフォーマンス能力など様々な視点で評価することが重要です。
ここでは、転倒と関連するいくつかの身体機能評価とカットオフ値を紹介します。
- 通常歩行速度 0.8m/sec以上
- Berg Balance Scale(BBS) 45点未満
- Time up & go test(TUG) 13.5秒以上
- 5回立ち上がりテスト 15秒以上
- SPPB 6点以下
- 1日の歩数 5000歩未満
- Life space assessmentスコア 47点以下
通常歩行速度 カットオフ値<0.8m/sec
高齢者の転倒リスクを判定する歩行速度のカットオフ値は<0.8m/secです 。
通常歩行速度の評価は、規定された範囲(一般的には4mや10m)を自分のペースで歩いた時の速度です。
(距離m)÷(歩行にかかった時間sec)=(歩行速度m/sec)で算出します。
転倒に関する世界的なガイドライン1)や転倒予測のレビュー7)において、
転倒リスクの予測能力と簡便さから、通常歩行速度0.8m/sec未満を評価に用いる
ことを推奨しています。
歩行速度と転倒に関しては、さまざまな報告があり、
歩行速度が0.1m/sec速くなることで、転倒リスクが低下する
ことも明らかとなっています。8)9)
Jepsenらは、高齢者の転倒予測に関する身体機能評価を31研究からレビューしており、7)
- 歩行速度は地域在住高齢者の転倒予測に、エビデンスがある有用な評価
であると述べています。
歩行速度は、評価が簡単で、短時間で測定できるメリットがあり、エビデンスも確立しています。
転倒リスクを考える際に、歩行速度の評価を含めることは必須かもしれません。
歩行速度に関して、別記事でも紹介しています。
ご興味があれば、こちらから。
Berg Balance Scale(BBS) カットオフ値45点未満
高齢者の転倒リスクを判定するBerg Balance Scale(BBS)スコアは45点未満です。
BBSはバランスに関連する14項目を0~4点、合計0~56点で得点化する、バランスの評価バッテリー。
地域高齢者や疾患を有する患者に対しても活用でき、項目ごとに詳細なバランス評価が可能となっています。
測定にかかる時間は20~30分程度で、時間的、身体的に負担が大きい評価です。
転倒リスクを判断するBBSスコアのカットオフ値はいくつか大規模な研究から報告があります。
2017年のLusardiらは、転倒リスク評価の系統的レビューとメタ解析の結果、
BBSスコア50点以下は転倒リスクがある
と述べています。11)
また、
また、2021年のStriniらによる、115研究による系統的レビューでは、
BBSスコア45点未満は転倒リスクがある
と報告があります。10)
検討している文献の多さや最近のレビューであることを考慮すると、
高齢者においてBBSスコア45点未満が転倒リスクを評価するカットオフ値として参考にしやすいと思います。
Time up & go test(TUG) カットオフ値12~15秒以上
転倒リスクを判断するTime up & go test(TUG)の時間は12秒~15秒以上です。
TUGは座った姿勢から3mのコーンを往復して座るまでの時間を測定する、バランス評価。
3mの広さがあれば、病院や地域活動など多くの場面で用いることができ、パーキンソン病などの様々な疾患でもか活用できます。
測定にかかる時間はおよそ1~3分と短時間で実施できるメリットがあります。
TUGの転倒リスク評価のカットオフ値は大規模なレビュー調査の報告やガイドラインにも記載されています。
TUGの転倒リスク評価カットオフ値
- 12秒以上(2017年のLusardiらの系統的レビューとメタ解析) 11)
- 13.5秒以上(2021年のStriniらによる系統的な文献レビュー)10)
- 15秒以上(2022年の転倒に関する世界的ガイドライン)1)
いずれの報告も、系統的レビュー、メタ解析、ガイドラインといったエビデンスの高い情報となっています。
どれが最も適しているかを検討することは難しいですが、
2022年の世界ガイドラインの記載では、高齢者の転倒リスクを判断するカットオフ値は15秒以上でした。
5回立ち上がりテスト カットオフ値15秒以上
転倒リスクを判断する5回立ち上がりテストの時間は15秒以上です。
5回立ち上がりテストは、腕組をした椅子座位から、できるだけ早く5回立ち座りを繰り返す時間を測定する評価。
パフォーマンスだけでなく、下肢筋力やADL能力とも関連していることが報告されており、重要な身体機能評価の一つです。
測定時間は短く、椅子が置ける程度の狭い場所で実施可能のため、臨床でも活用しやすい評価となっています。
5回立ち上がりテストは、高齢者のみでなく、病院内での骨折や脳卒中などの疾患を有す患者に対しても有用です。
立ち上がりテストに関する詳細は別記事で紹介しています。
ご興味があれば、こちら。
転倒に対する5回立ち上がりテストの報告は、
- 12秒以上(2017年のLusardiらの系統的レビューとメタ解析)11)
- 15秒以上(2010年のBuatoisらによる再転倒リスクの検討)12)
- 15秒以上(2021年のStriniらによる系統的な文献レビュー)10)
検討している文献や最近のレビューであることを考慮すると、
高齢者の転倒リスクを判断する5回立ち上がりテストのカットオフ値は15秒以上であると考えます。
Short Physical Performance Battery (SPPB) カットオフ値6点以下
転倒リスクを判断するSPPBスコアは6点以下です。
SPPB(Short Physical Performance Battery)は、下肢の包括的なパフォーマンス評価です。
歩行・立ち上がり・バランスの3種類の運動機能測定からなり、各項目で得点を合計した値がスコアとなります。
合計得点が高いほどパフォーマンスが高いことを示します。
SPPBに関する詳細な内容は、別記事で紹介しています。
ご興味があれば、こちらを参照ください。
Welchらは、417名の地域高齢者を対象にSPPBを用いた転倒リスク評価について報告しています。13)
その結果、
1年間の転倒リスクはSPPB10~12点の高パフォーマンス群に対して、
- SPBB4~6点の低パフォーマンス群は転倒リスクが3倍も高かった(RR3.03, 95CI 2.04-4.49)
- SPPB7~9点の中パフォーマンス群では有意な差は認めなかった
低いSPPBスコアが転倒リスクと関連していることが報告されています。
また、WelchらはSPPBを歩行速度、5回立ち上がりテスト、バランス測定の3項目に分けて、転倒のリスクを調査しており、
歩行速度:4.82秒未満と比べ、
- 6.21秒以上では2.90倍も転倒リスクが高かった(RR2.90, 95CI 1.85-4.55)。
5回立ち上がりテスト:11.2秒未満と比べ
- 13.7~16.6秒では1.70倍(RR1.70, 95CI 1.07-2.70)も転倒リスクが高かった。
- 16.7秒以上では1.77倍(RR1.77, 95CI 1.11-2.84)も転倒リスクが高かった。
バランス:タンデム保持10秒以上と比べ
- セミタンデム10秒未満では1.68倍(RR1.68, 95%CI 1.14-2.49)も転倒リスクが高かった。
- 閉脚立位10秒未満では2.86倍(RR2.86, 95CI 1.82-4.50)も転倒リスクが高かった。
SPPBの3項目それぞれ、転倒リスクに影響する要因であることを報告しています。
SPPBの合計6点をカットオフ値として、
さらに歩行速度、5回立ち上がりテスト、バランス測定を個別で検討することも大切かもしれません。
活動量のカットオフ値 1日5000歩未満とLSA47点未満
転倒リスクを判断する活動量は、1日の歩数5000歩未満とLSA47点未満です。
活動量は転倒のリスク因子としても報告されています。2)
呼吸循環能力や下肢筋力、バランス、柔軟性を向上するために、転倒予防に対して活動量を高めることは重要です。
また、転倒後や転倒によりケガを負った際には、さらに活動量が低下することが報告されており、より注意が必要となります。
転倒リスクに対する活動量の指標として、Aranyavalaiらは1日の歩数と転倒の関係を調査しています。14)
255名の高齢者を対象に、6ヶ月以内の転倒リスクと1日の歩数を調査した結果、
1日5000歩未満は6ヶ月以内の転倒発生が2.6倍も有意に高かった(HR 2.62, 95%CI 1.27-5.42, p=0.009)。
1日5000歩以上歩くことは地域高齢者の転倒リスクを減らすために有益であると示しています。
また、活動量を質問紙で調査できるLife Space Assessment(LSA)を用いた転倒リスクの調査もあります。
LSAは、生活空間とその場所まで出かける頻度からスコアリングする活動量の質問紙です。
0~120点で表記し、自室から出ない状態は0点、頻繁に町外まで出かける状態は120点となります。
測定は10分程度と短時間で可能のため、臨床でも活用しやすい。
LSAによる活動量評価は別記事でまとめています。
ご興味があればこちらを参照ください。
LSAと転倒の報告はいくつかあります。
- 転倒を予測するLSAカットオフ値は47.3点(二次予防事業者36名を対象)15)
- LSAスコアが10点減少するごとに転倒リスクが増加した(65歳以上の地域高齢者940名を対象)16)
LSAスコア47点以下や10点以上の減少を認めると、転倒リスク増加する判断できます。
活動量の低下は、転倒リスクと関わるため重要な要因となっています。
活動量を増加させることは基本的に転倒予防に有効なアプローチですが、状況や環境によって、かえって転倒のリスクを高める可能性もあります。
活動量の増加を図る際には注意が必要です。
転倒リスクを判断する身体機能評価のエビデンス
転倒リスクを判断する身体機能のカットオフ値について紹介しました。
評価方法はいくつもあり、カットオフ値や信頼性も研究から報告されています。
Jepsenらは、31件のレビューをもとに、
高齢者の転倒予測に用いる身体機能評価の有用性を系統的レビューによって検討しています。7)
その結果、
- 歩行速度は、地域高齢者の転倒予測にエビデンスのある有用な評価
- BBS、TUG、片脚立位、Functional Reach Test、タンデム立位やタンデム歩行、椅子からの立ち上がりテストは、一貫したエビデンスが確立していない
歩行速度は転倒リスクを判断する評価としてエビデンスが確立していると述べられていますが、
他の身体機能評価において、研究の蓄積が不足していることもあり、エビデンスは確立していないようです。
Jepsenらは考察にて、
転倒リスクは多面的な性質があるため、あらゆる状況で使用できる完全な評価はない。複数の評価ツールを同時に適応することを推奨する。
D Beck Jepsen, et al. Predicting falls in older adults: an umbrella review of instruments assessing gait, balance, and functional mobility. BMC Geriatr. 2022.
と述べています。
「エビデンスが確立していない=意味がない・信用できない」
ということではなく、1つの評価で判断しないように注意が必要です。
複数の評価を用いて、多面的に判断することが転倒リスクを検討するために重要となります。
身体機能評価以外の転倒リスク評価
身体機能評価以外の転倒リスク評価について紹介します。
いろいろな要因が関わる転倒リスクを評価するためにも、知っておきましょう。
高齢者の転倒予防と管理に関する世界ガイドラインの推奨グレード
- 問診 (グレード:1A)
- 投薬評価 (グレード:1B)
- 転倒恐怖感 (グレード:1B)
- 認知機能評価 (グレード:1B)
問診
転倒リスクの問診は、”高齢者の転倒予防と管理に関する世界ガイドライン”でも、グレード1Aと推奨されています。
問診では、以下の3つの内容について質問をします。
- 過去1年間に転倒しましたか?
- 立ったり歩いたり不安を感じますか?
- 転倒の心配はありますか?
ガイドラインでは1年ごとの健康診断など定期的な問診が推奨されています。
リハビリでも、介入開始時などの問診に取り入れておくと良いかもしれません。
転倒したことを自発的に報告しないことも多いため、医療者側から聞くことが大切です。
問診①で転倒の経験があれば、転倒リスクがあると判断し、
転倒対策のアルゴリズムに則って転倒のリスクをより詳細に評価する必要があります。
薬・投薬の評価
投薬は転倒リスクと重要な関連があることが知られており、FRIDsをチェックすることが推奨されています。
FRIDs(fall risk-increasing drugs):FRIDsはスウェーデン保険福祉庁がリストアップしている転倒リスクを増加させる薬物群のこと
FRIDs:催眠鎮痛剤、抗うつ薬、向精神薬、ベンゾジアゼピン、心血管用薬、抗コリン薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬、オピオイド
38407名の大規模コホート調査の結果から、転倒リスクのオッズ比を増加させることも報告されています。17)
日本では、日本老年医学会編集の【高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015】において、
睡眠薬系と抗不安薬・α遮断薬・利尿薬(ループ利尿薬)は転倒が副作用に記されています。
使用している薬剤をチェックして転倒リスクがあるか把握することも重要です。
転倒恐怖感
地域高齢者の転倒恐怖感を評価することは、転倒リスク評価の一つとして大切です。
転倒恐怖感は、筋力や筋パワーの低下に伴い悪化、活動量の減少にも悪影響を与えた結果、転倒のリスクを増加させます。
転倒恐怖感の評価方法として、
- Falls Efficacy Scale International (FES-I)
- Short FES-I
などの標準化されたツールを推奨してます。
FES-Iは16項目からなる質問紙で、1~4点のスコアをつけて合計点を算出。
16~64点の範囲で、得点が高いほど、転倒に対する自己効力感が低いと示す。
FES-Iは日本版も開発され、有効性も報告されています。
転倒恐怖感の評価も転倒リスクの管理として重要です。
認知機能評価
認知機能評価は高齢者の転倒リスクの多要素な評価の一つとして推奨されています(グレード1B)。
地域高齢者における重篤な転倒関連障害に関する認知機能の低下についてメタ解析の報告があります。19)
- MMSE<26点は転倒リスクが増加(OR 2.13, 95%CI 1.56-2.90
- 全般的な認知機能の低下がなくとも遂行機能の低下は転倒リスクが増加(OR 1.44, 95%CI 1.20-1.73)
認知症は転倒や転倒後の骨折のリスクを増加させることが報告されており、特に注意機能や遂行機能は転倒予防に重要です。
評価ツールとして、上記のメタ解析ではMMSEを用いた報告でしたが、
世界ガイドラインでは、モントリオール認知評価(MoCA)やTrail Making Test(TMT)のパートBが推奨されています。
MoCAは軽度認知症(MCI: Mild Cognitive Impairment)をスクリーニングできるツールです。
視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識から構成されており、25点以下がMCIを判定するカットオフ値になります。)
測定時間は10分程度と比較的短時間で実施可能。
日本版MoCA-Jも開発されているため臨床でも活用しやすい評価です。
遂行機能や注意機能は、全般的な認知機能の中で、初期に低下が生じるといわれており、転倒予防には、軽度の段階での評価が重要となります。
ただし、MoCAはMCIをスクリーニングするための評価なので、課題の難易度はやや難しいため、超高齢者でも適応か検討する必要があります。
TMT-Bは、注意機能、遂行機能を評価できるツールです。
測定方法として、紙に書いてある1~12の数字とA~Lまでの文字を、数字と文字を交互につないでいく課題を実施する時間を測定します。(1-A-2B-3C…)
日本では、ABCの代わりに「あいう」などのひらがなを使用することもあります。
課題を終えるまでの時間が長いほど認知機能、注意力、処理速度などが低下していることを示す。
TMT-Bのカットオフ値は、55~75歳で101秒以下、75~98歳で128秒以下。
今回、世界ガイドラインで記載されている、MoCAとTMT-Bを紹介しましたが、認知機能評価には、MMSEやHDS-Rなど他にも代表的な評価ツールは多くあります。
高齢者において認知機能も転倒に関わる重要な要因のため、活用しやすいツールを用いて評価しましょう。
まとめ
今回、地域高齢者における転倒のリスク因子と転倒予測に有用な評価についてまとめました。
転倒に関係する因子:
バランス能力、歩行能力、筋力、精神機能、認知機能、視聴機能、起立性低血圧、各種疾患、薬剤、栄養、環境、転倒恐怖感、社会的フレイル、身体活動
複数の要因が影響して転倒を引き起こしている。
転倒リスク要因の中で、特にバランス能力、歩行能力、筋力は重要な要素です。
転倒リスクを予測する身体機能のカットオフ値は
- 通常歩行速度 0.8m/sec以上
- Berg Balance Scale(BBS) 45点未満
- Time up & go test 13.5秒以上
- 5回立ち上がりテスト 15秒以上
- SPPB 6点以下
- 1日の歩数 5000歩未満
- Life space assessmentスコア47点以下
特に歩行速度は転倒リスクを判定するエビデンスのある評価方法であり、推奨グレード1A。
転倒リスクを判定する身体機能評価の多くはエビデンスが確立していないため、複数の身体機能評価を用いて転倒リスクを把握することが重要です。
転倒リスクを予測する身体機能以外の評価として
- 問診:「過去1年間に転倒しましたか?」
- 投薬評価:転倒に関わる薬のリストアップ
- 転倒恐怖感:FES-IやShort FES-I
- 認知機能評価:MoCAやTMT-B
転倒はさまざま要因によって引き起こされます。
多要素の評価を用いて、転倒リスクを判断することが大切です。
参考資料
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