みなさんはロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)って聞いたことありますか?
ロコモは40歳,50歳でも多く,高齢者と呼ばれる前から注意が必要です.
今回は,ロコモとその判定方法について紹介します.
病院以外の地域活動でも使える知識なので,是非抑えておきましょう.
ロコモティブシンドロームとは
ロコモティブシンドローム(ロコモ)は日本の整形外科学会から発表された新しい考えです.
具体的に言うと,骨や関節,筋肉などの体を動かす部位(運動器)に問題が起きると介護になるリスクが高い,だからロコモという言葉をみんなに知ってもらって若いうちから気を付けてもらおうという事です.
要介護となる要因は関節疾患と骨折・転倒の割合が1番高い=ロコモが介護の一番の原因であることが分かっています.
こうした背景のもと、ロコモは注目されるようになりました。
ロコモは加齢やその他の病気を基盤として,運動習慣などのライフスタイルの影響により筋肉や骨が衰えます.
具体的に言うと,筋力の低下,筋肉量の減少,骨密度の減少など運動器の問題です.
また,その状態は骨粗鬆症,変形性関節症,骨折など整形外科的疾患を引き起こしやすくなり,その結果,”立ち上がる”や”歩く”といった移動能力の低下につながります.
移動能力の低下は進行すると,一人で外に行けない,家の中でよく転ぶようになった,トイレまで行けないといった介護が必要な状態になります.
ロコモの有病率
ロコモの有病率を調査した地域コホート研究を紹介します。
東京大学の吉村先生らは,ロコモに関して23~95歳,約3000人を対象に大規模な調査を行いました.
その結果,ロコモと判断される人は男女ともに60歳代から急激に増加し,70歳代で80%を超えていました.
また,興味深いのは,40歳代,50歳代の比較的若い人でも30~50%はロコモである,つまり40歳代から移動能力の低下は始まっているという事です.
40歳代,50歳代でも関係ないと思わず注意することが必要であり,予防的な面からみると,若いうちから体の衰えを察知し準備することが大切という事です.
ロコモの評価方法
ロコモのチェック方法はロコチェックとロコモ度テストの2つがあります.
ロコチェックは,「片脚立ちで靴下が履けない」,「家のなかでつまづいたり,すべったりする」などの7つのチェック項目に1つでも当てはまれば,関節や筋肉などの運動器が衰えているサインになります.
ロコチェックに関しては日本整形外科学会のロコチェックをご参照ください.
ロコチェックは簡単かつ自宅でもすぐにできるという利点がありますが,検出力が低いという欠点もあります.
というのは,ロコチェックは重症な人を判定するのには適しているのですが,若い人やロコモになり始めの人では,簡単すぎて正常と判断されてしまいます.
そこで,今回は若い人にも判定が有効で,健康な人の体力測定に役立つ”ロコモ度テスト”の話です.
ロコモ度テストとは①立ち上がりテスト,②2ステップテスト,③ロコモ25の3つからなるテストで,この3つのテストには臨床判断値というカットオフ値がそれぞれ設定されており,ロコモの重症度の判定も可能です.
ロコモの重症度ですが,軽症なロコモ度1:移動能力の低下が始まった状態,増悪したロコモ度2:移動能力の低下が進行した状態,重症なロコモ度3:移動能力低下が進行し,社会参加に支障をきたしている状態です.
立ち上がりテスト
立ち上がりテストは,10~40cmの高さの台や椅子から両脚もしくは片脚で立ち上がれるかをみるテストです.
一番簡単なレベルが40cmから両脚で立ち上がる,一番難しいレベルが10cmから片脚で立ち上がるという難易度で,40cm両脚が出来たら,両脚で30cm,20cm,10cmと挑戦してできる高さが結果となります.
両脚10cmでも立ち上がることができたなら,今度は片脚での40cmから立ち上がりを挑戦します.
立つことができなくなったら検査終了で,最後に立ち上れたところが結果となります.
立ち上がりテストの臨床判断値は,片脚で40cmから立ち上がれれば正常,片脚40cmは出来ないが両脚20cmから立ち上がれればロコモ度1,両脚20cmは出来ないが両脚30cmから立ち上がれればロコモ度2,両脚で30cmから立ち上がれなければロコモ度3という判定になります.
ちなみに,立ち上がりテストの年齢別平均は,40歳代から60歳代では片脚で40cm立ち上がれるレベルです.
片脚で40cmから立ち上がるのは意外と難しいので,是非やってみてください.
ちなみに,日本の椅子は40cm前後に設定されている物が多いので,家にある椅子でも簡単に挑戦ができます.
また,立ち上がりテストは下肢筋力の測定としても使える検査です.
40cmの台から片脚で立ち上がれれば,日常生活を送るうえで問題ない下肢筋力(WBI0.6相当)レベル.
20cmの台から両脚で立てないと安定した歩行ができないレベルの下肢筋力(WBI0.4相当).
(WBI: weight bearing index 等尺性膝伸展筋力を体重比で示した体重支持指数,体重当たりの膝伸展筋力.)
Loco Cure vol.1 no.1 2015. 村永信吾,ロコモ度診断のための「ロコモ度」テスト
専用の下肢筋力測定機器がなくても,ある程度,数値として示せるため病院や訪問リハビリ時にも使いやすいテストになります.
立ち上がりテストをより詳しく知りたい方は、こちらの記事でも紹介しいます。
2ステップテスト
2ステップテストは,できるだけ大股で2歩歩いた長さ(cm)を身長(cm)で割って”2ステップ値”を算出します.
2ステップテストは歩行能力を評価しており,大股で歩幅が長いほど2ステップ値も大きく,歩行能力が良好であることを示します.
歩行能力を評価する他の検査には,10m歩行時間測定やTime up and goテストがありますが,10m以上の広い場所や椅子などが必要となります.
2ステップテストは,自宅の廊下などでも簡便に測定することが可能です.
注意点としては,”できるだけ”大股で2歩歩くため,若い人でも転倒のリスクがあります.
壁や手すりの横で測定したり,測定者が横についているなど転倒へのリスク管理は必要です.
2ステップテストの臨床判断値は,1.1以上1.3未満はロコモ度1,0.9以上1.1未満はロコモ度2,0.9未満はロコモ度3という判定になります.
2ステップ値の年代平均値をみると,男女とも60歳代で1.3を下回っており,高齢者でなくても歩行能力が低下しているのが分かります.
ちなみに,日本の横断歩道は歩行速度1m/秒を基本として設定しているらしく,これよりも歩行速度が遅くなると道路の横断に不安を抱え,外出の機会が減ってしまうと言われています.
歩行速度1m/秒を2ステップ値で換算すると,約1.0(大股2歩が自分の身長と同じ)です(Loco Cure vol.1 no.1 2015. 村永信吾).
2ステップ値1.0未満は,歩行時の不安感や転倒のリスクが増加することから歩行補助具の使用も検討が必要かもしれません.
2ステップテストの欠点としては,測定時に杖などの歩行補助具の使用はできないため,歩行能力の低下が顕著な人の評価は難しいかもしれません.
そのかわり,若い人や検診事業の体力測定の場でも,天井効果(テストが簡単すぎてみんな満点になる状態)にならずにしっかりと評価することができるため,健康促進や予防事業の際にはとても有用な評価方法です.
ロコモ25
ロコモ25は疼痛やADLに関して,自分でアンケートに回答していく自記式質問紙です.
「家の中を歩くのはどの程度困難ですか?」などの25個の質問に対して,「困難でない」:0点,「少し困難」:1点,「中等度困難」:2点,「かなり困難」:3点,「ひどく困難」:4点の5段階の回答のうち一つ選びます.
ロコモ25はその名の通り,25個の質問から構成されており,100点に近いほど重症,0点に近いほど健康に近いことを示します.
ロコモ25の臨床判断値は,7点未満が正常,7点以上16点未満がロコモ度1,16点以上24点未満がロコモ度2,24点以上はロコモ度3と判定されます.
ロコモ25の年齢平均得点をみると,70歳代から急激に得点が高くなることが分かり,70歳に向けて50歳代,60歳代から準備することが大切です.
ロコモ25の欠点としては,25個も質問があるため,回答する人が疲れたり,少し時間がかかってしまう点,回答者の健康に対する不安などのキャラクターが大きく影響する点,認知機能の状態に影響を受けやすい点です.
なので,健康に不安の訴えが強くある人や認知症の人などに行う場合は注意が必要となるかもしれません.
欠点の多い検査に聞こえますが,アンケート形式なので,どこでもできること,一人でも簡単にできること,同時に多くの人を検査できることが利点としてあります.
そのため,ロコモ25を自宅に送って,健康状態を調査するなどの町の検診事業や予防の啓蒙活動にはとても有効です.
まとめ
今回はロコモを判定する3つのロコモ度テストとそれらのカットオフ値となる臨床判断値についてまとめました.
- 立ち上がりテストは下肢筋力,2ステップテストは歩行能力,ロコモ25は疼痛やADLを評価できる
- ロコモ度テストは高い検出力によって,身体機能の落ち始めた状態,軽症な人でも見つけることができ,予防に役立つ
- 検診事業はもちろん,病院や訪問リハビリなどでも使える評価方法
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