【遠隔リハビリテーション】メリットとデメリットは?導入に必要な準備や効果のエビデンス

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近年、導入が進んでいる遠隔リハビリテーションについて解説します。

遠隔リハビリテーションとは

遠隔リハビリテーションは、リハビリテーションの手法の一つであり、対象者とのリハビリを接触せず(オンラインで)行う方法です。

遠隔リハビリでは、ビデオ通話やビデオ通話プラットフォームを利用して、遠隔地にいる患者とリハビリを実施します。

リハビリの内容としては、運動療法や機能訓練、日常生活動作の指導などが含まれます。

ただし、直接触れる必要があるマッサージ等の徒手療法は実施できません。

遠隔リハビリのメリット
  • 交通の負担がない: 地理的な問題や交通の不便さがなく、遠隔地や地方の患者もリハビリが可能。通院の必要がなくなるため、高齢者や移動が困難な患者の負担が少ない。
  • リアルタイムのフィードバック: 自宅や施設内での動作をリアルタイムで観察できるため、適切な指導や修正が行いやすい。
  • 交通のコスト削減: 通院や往診による費用や時間を削減できるため、医療費の削減につながる可能性がある。また、往診による事故対策のコスト節約にもなる。
  • 感染対策:直接触れることが無いため、スタッフの感染リスクがなくなる。また、病院や施設に入ることがないため、職場や患者の安全対策になる。

デメリット
  • 通信技術的の問題: インターネット接続など、機器のトラブルが発生した場合、リハビリの実施が難しくなる。特に高齢者やデジタルリテラシーの低い患者では、機器の設置も困難になりやすい。
  • リハビリプログラムの制限: 対面での実施が必要な手技や評価は実施できない。
  • コミュニケーションの制限: 対面での接触やコミュニケーション、空気感が難しくなり、円滑なコミュニケーションが制限される可能性がある。リハビリによる心地よさなどは難しい。
  • プライバシーとセキュリティの問題: オンラインでの情報の安全性やプライバシーの保護について懸念がある。

遠隔リハビリで準備する道具

効果的な遠隔リハビリを実施するためには、適切な環境や道具の準備が必要です。

以下に、遠隔リハビリの実施に必要な道具とその役割について解説します。

  • 安定したインターネットの接続環境:円滑なビデオ通話を行うためには、安定した高速インターネット接続が必要です。通信の遅延や中断がないように、可能であれば有線接続が推奨されます。インターネット接続の質は、映像の鮮明さや音声の明瞭さに直接影響するため、可能であれば質の高い高速インターネットを利用することが理想的。

  • デバイス(パソコン、タブレット、スマートフォン):遠隔リハビリでは映像と音声の通信が重要のため、カメラとマイクが内蔵されたデバイスが必要です。運動時の姿勢や動きを明確に確認できるよう、画面が大きく解像度の高いデバイスが望ましいです。そのため、スマートフォンではなく、パソコンやタブレットを用意しましょう。

  • ビデオ通話プラットフォーム:Zoom、Microsoft Teams、Skypeなどのビデオ通話アプリケーションを使用します。プラットフォームは、画面共有機能やチャット機能など、セラピストと患者が効果的にコミュニケーションをとるために多くの便利な機能をがあります。

  • リハビリの機器:自宅で使用できる簡単なエクササイズ器具は、リハビリの効果を高めるために重要です。セラバンド、重錘、フォームローラー、バランスボードなどがあります。施設からの貸し出しや必要に応じて購入をしてもらいましょう。

  • 運動用のスペース:リハビリを行うためには、広い空間が必要です。安心して運動に集中できる環境を整えることが重要です。ポイントは、広さの確保、足元に物を置かない、明るい照明、防音などがあります。

遠隔リハビリを安全かつ効果的に実施するため、環境や道具を整えることは重要です。

遠隔リハビリの開始手順

遠隔リハビリを開始する手順を紹介します。

遠隔リハビリの導入時には、理解しておきましょう。

吉川らは臨床的な具体プロセスの例を以下のように挙げています。

  1. 事前準備:PCやスマートフォンの準備・デバイスのインストール・実施日程の設定
  2. 評価と問題点の抽出:デジタル評価機器の使用・対象でない場合は他機関へ紹介
  3. 説明と同意:電子書類(リハビリテーション実施計画書)へのサイン
  4. 患者教育:注意点に関する資料の配布・ADLに対する個別指導
  5. 自主トレーニング処方:評価を基に運動処方・個別作成した運動シートの配布
  6. 再評価とフォローアップ:実施後の効果判定・対象でない場合は他機関へ紹介

参考:吉川光司,他.世界における遠隔リハビリテーションの実態調査と報告.2022.運動器理学療法学.

吉川らの報告も考慮すると、遠隔リハビリでは以下のようなプロセスが重要だと考えられます。

1. 事前評価と計画立案

    • 評価: 健康状態、身体や認知機能、家族や家屋など患者に関する評価をします。リハビリの目標設定も行います。初回の評価では、運動機能や日常生活動作の評価が行われることが一般的です。
    • 遠隔リハビリの適応判定: 遠隔リハビリが、患者に適しているかを判断します。患者の身体的な状態やリハビリの性質によっては、対面でのリハビリテーションが必要な場合もあります。
    • リハビリテーション計画の立案: 患者と共同でリハビリの目標を設定し、それを達成するための具体的な計画を立てます。遠隔リハビリでは、患者が自宅で行える運動や活動を含むプログラムが中心となります。

    2. デバイスと通信プラットフォームの準備と設定

    • 通信ツールの選定: 遠隔リハビリで使用する通信プラットフォームやビデオ通話ツールを選定します。安全性や患者への使いやすさを考慮して選びます。
    • 設定とテスト: 理学療法士と患者の両方が選ばれた通信ツールを使用して、適切に設定されていることを確認し、必要に応じてテスト通話を行います。特に初回のセッションでは、技術的な問題が発生しないように十分な準備が必要です。

    3.リハビリテーションの実施と指導

    • リハビリの実施: 予定された日時に理学療法士と患者がオンラインで会話し、リハビリを実施します。これには、運動指導、姿勢調整、日常生活動作の練習などが含まれます。
    • リアルタイムのフィードバック: 理学療法士は、患者の動作や反応をリアルタイムで観察し、必要に応じて指導や修正を行います。

    4.評価とフィードバック

    • リハビリ後の評価: 各リハビリ後に、患者の進捗や反応を評価し、次回のリハビリ計画に反映させます。
    • フィードバック: 患者に対して、リハビリの内容や進行状況についてのフィードバックを行います。患者の理解を深め、モチベーションを維持することが目的です。

    5.継続的なモニタリングと調整

    • リハビリ計画の調整: 患者の状態や進捗を定期的にモニタリングし、リハビリ計画を必要に応じて調整します。新たな目標や障害が発生した場合には、リハビリ計画を修正して対応します。

    遠隔リハビリのプロセスは、病院の環境や患者の状況によっても異なります。

    大まかな流れを理解して、活用しましょう。

    遠隔リハビリのエビデンス

    ここでは、遠隔リハビリのエビデンスについて解説します。

    遠隔リハビリの有効性については、系統的レビューやメタ解析によって明らかになっています。

    Morriらは、整形外科術後の遠隔リハビリの効果を調査しています。

    その結果は、以下の通りです。

    • 運動能力は遠隔リハビリの方が、通常リハビリよりも改善した(SMD -0.24, 95%CI -0.45~-0.02, p=0.03)
    • 疼痛改善と機能回復は、遠隔リハビリと通常リハビリで有意な差はなかった

    遠隔リハビリと通常リハビリでは、整形外科術後の患者を対象とした場合に、同等の効果が得られることが明らかとなりました。

    また、脳卒中を対象に遠隔リハビリを調査した研究もあります。

    Laverらは、脳卒中への遠隔リハビリの効果をRCT22研究、1937名を対象に調査しました。

    結果は以下の通りです。

    ADL、バランス能力、上肢機能は、遠隔リハビリと対面リハビリで有意な差はなかった

    脳卒中へのリハビリについて、遠隔リハビリは対面リハビリに劣っていない可能性が示されています。

    ただし、遠隔リハビリに有効な患者の特徴や遠隔リハビリに適したプログラムは不明であり、今後の調査が必要なようです。

    遠隔リハビリについては、2024年にアメリカ理学療法士協会による臨床実践ガイドラインが作成されるなど、少しずつエビデンスが確立しています。

    ガイドラインでは、遠隔リハビリにおける7つの推奨事項は以下の通りです。

    1. 理学療法士は遠隔リハビリまたはハイブリッドケアを推奨する必要がある
    2. 理学療法士と患者は,状況や状態を考慮して,遠隔リハビリが対面のリハビリに比べて,費用対効果の高い選択肢か,話し合う必要がある
    3. 遠隔リハビリを計画および提供する際には,特定された阻害因子を軽減し,ポジティブな要因を促進するよう努める
    4. 医師と協力して組織の障害を特定して軽減し,ファシリテーターによる遠隔リハビリの提供をサポートするように努める
    5. 理学療法士による遠隔リハビリを介した検査による特定の状態の診断は,対面での診察と同等の精度で診断ができる
    6. 遠隔リハビリは,特定の状態に対して対面ケアと同様の成果を達成できる
    7. 遠隔リハビリという提供方法に関する特有の有害事象の発生を予測,防止,管理して,記録する必要がある

    遠隔リハビリの効果や推奨事項などのエビデンスを理解して、現場に活かしましょう。

    参考:Mattia Morri, et al. The Effectiveness of Telerehabilitation for Functional Recovery After Orthopedic Surgery: A Systematic Review and Meta-Analysis. Telemed Rep. 2024.

    Kate E Laver, et al. Telerehabilitation services for stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020.

    Alan C Lee, et al. Telerehabilitation in Physical Therapist Practice: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2024.

    遠隔リハビリのリスク管理

    遠隔リハビリは、メリットの多いアップローチですが、対面リハビリとは異なるリスクがあります。

    リスク管理について理解し、安全に遠隔リハビリを実践しましょう。

    遠隔リハビリを実施する際のリスクは以下の項目が挙げられます。

    1.評価の正確性が低下する

    遠隔での評価や診断は、対面診療に比べて情報が限られるため、正確性が低下する可能性があります。

    そのため、評価では、複数の評価方法を使って精度を高めましょう。

    患者に写真やビデオを送ってもらい、詳細な状況を確認する方法も有効です。

    2.運動時の安全性を確保

    遠隔での運動指導では、患者が正しいフォームで運動を行えているか確認が難しいです。

    そのため、運動の誤用によってケガをするリスクがあります。

    運動の指導は、詳細な指示を行い、運動をリアルタイムで確認しましょう。

    また、運動の前後で自身の感覚を報告してもらうことも有効です。

    3.コミュニケーションのエラー

     遠隔リはビリでのコミュニケーションは、対面に比べて制約が多いため、誤解や情報伝達の不足が生じるリスクがあります。

    できるだけ明確で簡潔なコミュニケーションを心がけ、患者が理解しやすい言葉で説明しましょう。

    また、定期的に理解度を確認するために質問をし、双方向のコミュニケーションを促すことも大切です。

    4.転倒などの事故

    遠隔リハビリでは、対面のリハビリとは異なり、体を支えるなどの介助はできません。

    そのため、バランストレーニングや難易度の高い運動時には、転倒などのリスクが高まります。

    そのため、トレーニング前にバランス能力を評価し、転倒のリスクを把握することが重要です。

    また、患者の能力に合わせて、安全性の高いプログラムの選択や環境を整えるようにしましょう。

    臨床的なリスクを理解し、適切な対策をすることで、安全に遠隔リハビリを実践することができます。

    また、遠隔リハビリ時の緊急対応についても理解しておきましょう。

    緊急対応

    転倒や急な体調悪化があった場合は、理学療法士は速やかに患者の状態を確認します。

    必要に応じて救急医療機関に連絡します。

    また、安静ポジション(横向きに寝る、足を高くして横になる、etc)の指導や周囲の安全確保、初期対応などを本人や家族に指導することも必要です。

    リスクの管理と同時に緊急時の対応も確認しておきましょう。

    まとめ

    遠隔リハビリの導入やエビデンス、リスク管理について解説しました。

    遠隔リハビリはメリットも多くあり、活用の場面が増えるかもしれません。

    遠隔リハビリは通院や往診のコストが無くなるメリットがあり、機器や通信環境が準備できれば容易に導入ができます。

    ただし、対面リハビリとは異なるコミュニケーションでの問題やリスク管理が必要となるため注意しましょう。

    遠隔リハビリは、対面リハビリと同様の効果が得られるというエビデンスもあり、今後も活用される範囲が広がっていくかもしれません。

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