先日,先輩に代診をお願いした時の話です.
先輩)Aさんのポジショニングはもっと頸部を屈曲位にした方が筋緊張は落ち着きそうだよね.枕を高くしてみたらどうかな?
Aさんは多発脳梗塞による四肢麻痺で頸部伸展,両上肢屈曲,両下肢伸展パターンの除皮質硬直の患者さんです.
先輩と話をして疑問にでたのが,”頸部の位置で筋緊張が変化するのか?”という事です.
確かに,Aさんの場合は頸部を屈曲位にすると,筋緊張の亢進が和らぎ,肩や股関節が動きやすい気がします.
しかし,どのような機序で頸部の屈曲が筋緊張や関節可動域に影響するのか,わからないことが多かったためポジショニングについての論文を調べてみました.
今回は2種類のポジショニングと具体的にどのような効果があるかの論文を紹介したいと思います.
このテーマはこんな人におすすめ
- ポジショニングの種類と効果が知りたい人
- エビデンスのあるポジショニングが知りたい人
- 病院や施設などでポジショニングの知識が必要な人
論文紹介
今回の論文は,中枢神経疾患患者における従来のポジショニング(以下,CON)とニュートラルポジショニング(以下,LiN)の効果を多施設でランダム化比較試験を行ったものです.
Heidrun Pickenbrock, et al. 2015. Conventional versus neutral positioning in central neurological disease: a multicenter randomized controlled trial.
Dtsch Arztebl Int.
「中枢神経疾患における従来のポジショニングとニュートラルなポジショニング:多施設ランダム化比較試験」
対象者と方法
研究のスタイルは前向き多施設共同研究にて盲検ランダム化比較試験にて実施しました.
対象者は非歩行患者218名,基礎疾患として脳卒中141名,低酸素性脳損傷28名,外傷性脳損傷20名,その他29名で,CON113名,LiN105名にランダムに割り当てられました.
測定項目は,股関節屈曲と肩関節屈曲,外旋の他動ROM,患者さんの快適スコア(良いGood,普通Fair,悪いBad)を実施しました.
介入内容は,CONとLiNのポジショニングにセラピストか看護師が設定しました.
CONはクッションを特定の場所(背部,下肢の間)に配置する.この時,体に合わせることを考慮していない.そのため,体に隙間が発生する可能性がある.サポートに用いるクッションは,少なく済む.
側臥位の場合,羽毛布団とタオルは背部に置き,小さな枕で腹部を支える.頸椎は支えられておらず,頭部はわずかに挙上位.圧力は,耳,肩の下部,肋骨,および大転子で発生し,褥瘡のリスクがある
Dtsch Arztebl Int. 2015. Conventional versus neutral positioning in central neurological disease: a multicenter randomized controlled trial. Heidrun Pickenbrock. 引用一部改変
LiNでは,体節の配置に焦点を当てる.筋の過度な伸張と短縮を避け,関節は可能な限り中間位に配置する.そして,体のすべての部分が支えられている状態とする.そのため,すべてのスペースを埋める必要があり,これには十分な数の毛布と枕が必要になる.特に上肢,頸椎および頭部が完全に支え,互いに対する体節の位置を考慮する.
Dtsch Arztebl Int. 2015. Conventional versus neutral positioning in central neurological disease: a multicenter randomized controlled trial. Heidrun Pickenbrock. 一部引用改変
ポジショニングの向きは,背臥位,左右の30°側臥位,左右の90°側臥位の5つの方向で実施しました.
ポジショニング後は2時間その位置を保つように依頼したが,いつでも変更できることも伝えていました.
研究手順は以下の通りです.
- 背臥位にて肩と股関節の他動ROMを測定.
- セラピストまたは看護師がCONもしくはLiNのポジショニングを実施.
- 2時間後に患者は開始位置に戻す.
- 他動ROMと快適スコアを測定.
解析として,他動ROMは介入前後の変化量(左右肢の平均値)をCONとLiNでANCOVAにて比較しました.共変量は介入前の他動ROMとしました.
快適スコアはグループ間でχ 2検定にて比較しました.
結果
LiNは,CONよりもポジショニング後の股関節屈曲の他動ROMは有意に良好でした.LiNの他動ROMとCONの他動ROMの差12.84°; p <0.001; 95%CI 5.72-19.96°.
股関節と同様に,肩屈曲では他動ROM差11.85°; p <0.001; 95%CI 4.50–19.19°と肩外旋での他動ROM差7.08°; p <0.001; 95%CI:2.70–11.47°であり,有意に良好でした.
快適スコアに関して,LiNの患者は81%がGoodとしたが,CONではGoodはわずか38%.LiNの方が快適レベルが良好(p <0.001)という結果でした.
考察
LiNがCONと比較して,他動ROMや快適スコアが良好であった要因についての.Heidrun Pickenbrockらの考察です.
要因は2つあると述べています.
①広いサポートエリアと適用された安定化により,患者はリラックスできるため,知覚される快適さとROMの両方が向上した可能性がある.
②神経生理学的レベルでは,筋組織の過度な伸張と短縮が回避されるため,触覚,固有受容,侵害受容の影響が変化し,脊髄反射メカニズムを介して筋活動亢進を抑制する効果がある可能性がある.
僕個人的な考えですが,臨床的な効果からLiNが有効なポジショニングであることが明らかです.
しかし,LiNには多量の毛布やタオルを使用するため物品が少ない環境では実施することが難しく,
また,忙しい臨床現場ではLiNは時間がかかるため好まれない可能性が高く,多職種での統一は難しいと思います.
有効なポジショニングには,たくさんの物品が用意できる環境,医療関係者の知識や技術,多職種の連携,と多くのものが必要になります.
すぐには難しいため,できる範囲から,より良いポジショニングを実践していきたいと思います.
まとめ
- 体全体を支えるLiNでは,他動ROMや快適スコアが良好であり臨床現場でも有効なポジショニング手法である.
- ポジショニングにより触覚,固有受容,侵害受容の影響が変化し,脊髄反射メカニズムを介して筋活動亢進を抑制する可能性があり,ポジショニングの有効性を伝える際には有益な情報である.
- LiNは毛布やタオルを大量に必要であり,時間がかかる上に知識や技術も必要のため,すぐに実践で実施するのは難しい可能性がある.
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