今回はサルコペニアの評価について.
専門の機械がないような場所でも,簡単ですぐに使える評価方法を紹介します.
日常の診療以外に,健康予防の活動にも広く使えるので,是非知っておいてください.
この記事は以前の,
“設備が整っていない病院や地域でのサルコペニアの評価方法:下腿周径と日本版SARC-F”の続きになります.
興味があればこちらもご確認ください.
診療所や地域でのサルコペニア評価チャート
以前の確認になりますが,このチャートは専門機器などがない診療所や地域にてサルコぺニアを評価する際に使用します.
そのため,DXAなどの体の体組成(筋肉量)などを測定する必要がなくサルコペニアを評価できます.
サルコペニアの筋力評価:握力
握力は最もメジャーな筋力測定の一つですね.
握力の測定方法は,以下の通りです.
- 楽な立位姿勢で,手は自然に下した状態で握力計を持つ.
- 握力計の握り幅は,「人差し指の第二関節が直角」になるように調節する.
- 検査者の声かけに合わせて,被験者に力を入れてもらう.
この時に力が入ったときに,肩や肘が曲がらないように注意します.
握力は男性だと28kg未満,女性だと18kg未満でサルコペニアの可能性があります.
東京大学Yoshimuraらの地域在住者を対象とした大規模コホート研究によると,各年代の握力の平均値は以下の通りでした.
これを見ると,80歳以上の高齢者でも男性,女性ともに握力はサルコペニアのカットオフ値以上です.
サルコペニアが加齢だけが原因で生じる訳ではないことが分かります.
ちなみに,Nishikawaらは日本の介護認定をされた在宅高齢者194歳を対象に高齢者のADLに影響する要因を調査した研究では,
在宅介護を必要とする高齢者のADLレベルを維持するためには,上半身の筋肉を強化し,抑うつ気分を矯正することが重要である.
Tohoku J Exp Med. 2005. Health characteristics of elderly Japanese requiring care at home. Tomoko Nishiwaki.
と述べており,握力の重要性を報告しています.
握力計があれば,簡便に評価可能であり,様々な指標となるため握力は重要です.
サルコペニアの身体機能評価:5回立ち上がりテスト
5回立ち上がりテストは,使用する物品が椅子とストップウォッチのみで,測定のも比較的簡単な検査です.
腕を組んで椅子に座った姿勢から開始して,できるだけ早く5回立ち座りをしてもらいます.
5回目の座った時点でのタイムが記録となります.
12秒以上かかるならサルコペニアの可能性があります.
ちなみにBohannonらは,
5回立ち上がりテストは膝伸展筋力と有意な相関関係を認めており,実用的な筋力測定として有用である.
Isokinet Exerc Sci. 2010. Sit-to-stand test: Performance and determinants across the age-span. Richard W Bohannon.
と述べており,下肢筋力の測定としても5回立ち上がりテストを用いていることもできます.
下肢の筋力測定機器などが揃っていない病院や地域での臨床で,とても有用な検査です.
5回立ち上がりテストは13論文のメタアナリシスから年齢ごとに基準値も報告されています.
60~69歳:11.4秒.70~79歳:12.6秒.80~89歳:14.8秒.(Bohannon,2006)
この基準値を下回ると,”機能低下”が生じている可能性があるようです.
また,日本人ではQOLとの関係も報告されています.
健康科学大学の坂本先生は,
山梨県の一次介護予防に参加した前期高齢者では,5回立ち上がりテストが10秒以上だと,EQ-5Dの”移動”,”生活”,”痛み”の項目で低下した.
Review of Japan Society of Health Support Science.2019.5回立ち上がりテストにおけるQuality of Lifeの低下のカットオフ値:介護予防事業参加者を対象とした横断研究による検証.坂本祐太.
と報告しており,介護予防の面では10秒というカットオフ値が重要かもしれません.
今回紹介したようなカットオフ値や目標値は,知っておくと目標の設定や患者さんのモチベーション向上に役立つ説明ができるようになります.
5回立ち上がりテストの詳しい測定方法や評価の意義はこちらで紹介しています.
5回立ち上がりテストと転倒・ADL・QOLとの関係もまとめています.
指輪っかテスト
チャートの評価から外れますが,一つ有名なサルコペニアの評価を紹介します.
この研究は,東京大学の飯島らが千葉県柏市で実施した「柏スタディ」です.
平均年齢72.8±5.4歳の地域高齢者を対象に指輪っかストとサルコペニア・介護を必要とするリスク・死亡率を調査しています.
2年間の追跡調査の結果,
2年間の追跡調査で「隙間ができる人」は「囲めない」人に比べて,
サルコペニアのリスクは,3.36倍,
介護が必要となるリスクは1.96倍,
死亡リスクは3.16倍と高かった.
“Yubi-wakka” (finger-ring) test: A practical self-screening method for sarcopenia, and a predictor of disability and mortality among Japanese community-dwelling older adults. Tomoki Tanaka. 2018
つまり,ふくらはぎを囲むだけで,将来の健康のリスクが推測可能です.
この手軽さと分かりやすさから,健康予防事業や地域の講演会でも興味を持っていただける評価方法です.
道具も時間も練習も要らないので,是非周りのご高齢の方にお試し頂けたらと思います.
まとめ
- 握力は男性で28kg未満,女性で18kg未満はサルコペニアの指標.また握力はADLにも影響するため重要.
- 立ち上がりテストは,使用する道具も少なく,簡単にできる評価.12秒以上はサルコペニアの指標.下肢筋力の指標としても使用することができる.
- 指輪っかテストはふくらはぎを指で作った輪で囲めるかみる評価.隙間ができる人はサルコペニア,要介護,死亡のリスクが高い.
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