皆さんはリハビリの臨床の場面で”生存率”という言葉を使うことはありますか?
たぶん,ほとんどないと思います.
リハビリの現場では,生死よりもADLやQOLに関わる場面が圧倒的に多いかと思います.
しかし,高齢化が進む現在においては徐々にリハビリスタッフも平均余命や生命予後を頭に入れておく必要があるのかなと考えています.
特に地域高齢者を対象とする場面では,残りの寿命を予測することは,治療やケア,地域サービスや家族の関わりなど様々な目標設定において重要です.
平均寿命に関しては,年齢や性別から予測されるものがありますが,
今回はリハビリで最もよく評価される指標の一つである歩行速度と生存率を検討した報告を紹介します.
これを読むとこんなメリットがあります
- 歩行速度と高齢者の生存率の関係がわかる
- 予後予測に活かせる歩行速度の数値がわかる
論文紹介
Stephanie Studenski, et al. Gait Speed and Survival in Older Adults. JAMA. 2011.
「高齢者の歩行速度と生存率」
目的
高齢者における歩行速度と生存率の関係を大型コホート研究から調査することです.
対象
1986~2000年に集められた9つのコホート研究のデータを用いました.
全ての研究において,対象者は65歳以上の地域在住高齢者でした.
各研究で少なくとも5年間は生存率をフォローアップしました.
評価方法
歩行速度は通常の歩行速度をm/secで表記して測定しました.
個々の生存率は,死亡および研究のフォローアップにより調査しました.
歩行速度を調査したベースラインから死亡までの日数を計算しました.
変数として,性別,年齢,人種,身長,体重,BMI,喫煙,歩行補助具(なし/杖/介助者),建国自己評価,過去1年の入院,特定の疾患の有無(がん/関節炎/糖尿病/心疾患)をピックアップしました.
統計解析
歩行速度0.2m/secごとでグループ分けをしました.
コックス比例ハザード回帰モデルを用いて,歩行速度と生存率の関係を評価し,ベースラインでの年齢を調整しました.ハザード比(HR)は,歩行速度0.1m/secごとの差に応じて解析しています.
またサブ解析では,年齢を65~74歳,75~84歳,85歳以上の3グループに分けて,解析しました.
生存期間は中央値で示し,変量効果モデルを使用し,各年齢層,性別および歩行速度のグループを含め解析しました.
結果
9つのコホート研究から合計34485名が参加しました.
女性の割合が59.6%で,1765名が85歳以上でした.
研究のフォローアップ期間は6.0~2.1年で,平均は12.2年,中央値は13.8年でした,
全体の17528名が死亡しており,死亡率は研究によって大きく異なっていました(18.4%~91.9%).
9つの研究どれにおいて死亡リスクは歩行速度に推定可能で,研究による年齢調整したHR(ハザード比)は0.1m/sec速いごとに0.83~0.94の範囲で有意な関係を認めました(p<.001).
またすべての研究をプールして(合わせて)解析した結果,0.1m/sec歩行速度が速いごとに,全体のHRは0.88(95%CI: 0.87-0.90, p<.001)でした.
つまり,歩行速度が0.1m/sec速いごとに死亡のリスクが0.88倍,低くなるということです
ちなみに,この結果は,性別,BMI,喫煙状況,血圧,疾患,入院歴,自己申告による健康状態を調整しても,変わりませんでした(HR 0.90, 95%CI: 0.89~0.91, p<.001).
歩行速度によりグループ分けして年齢と性別毎に5年と10年で生存率を表に示しました.
歩行速度は男女すべての年齢で生存率との関連があり,特に75歳以上の高齢者では歩行速度の低下グループは顕著に生存率が低いことがわかりました.
またすべての年齢において歩行速度0.6m/secを下回ると急激に生存率が低いことが明らかとなりました.
また,平均余命について年齢,性別,歩行速度で解析すると,
平均余命の中央値は,65~74歳では男性12.6年,女性16.8年.75~84歳では男性7.9年,女性10.5年.85歳以上では男性4.6年,女性6.4年でした.
各年齢および性別での予測平均余命は,歩行速度が増すにつれ長くなり,ほとんどの年齢で平均余命の中央値となる歩行速度は0.8m/secでした.1.0m/sec以上の歩行速度は,平均余命が長いという結果でした.
結論
- 地域高齢者において0.1m/sec歩行速度が速いごとに,死亡にかんするHRは0.88(95%CI: 0.87-0.90, p<.001)であり,歩行速度が0.1m/sec速いごとに死亡のリスクが0.88倍,低くなる.
- 歩行速度は男女すべての年齢で生存率との関連があり,特に75歳以上の高齢者では歩行速度の低下グループは顕著に生存率が低い.
- 年齢,性別,歩行速度から解析した予測平均余命は歩行速度0.8m/secで中央値であり,0.8m/secより遅い場合は平均余命が短い可能性が考えられる.
読んだ感想
歩行速度は,全身の能力を把握するためにとても有用な評価項目であることは知られていますが,歩行速度と生存率の関係を明らかにしたこの研究はとても有益であり,JAMAという有名ジャーナルに掲載されたのも納得です.
この研究の長所は,9つのコホート研究をプールして(合わせて)解析したことで,地域高齢者という多種多様な大人数を長期間フォローアップしたことで,データの信頼性もかなり担保されていると思います.
ただ,この報告はアメリカ住民を対象としており,世界的な高齢社会である日本人に必ず当てはまるかはまだ不明です.しかし,僕ら理学療法士でも簡単に測定ができる歩行速度から,予後を踏まえた目標設定や地域ケア,家族の方との関わりを考える上では,かなり有用なデータであると思います.
皆さんも歩行速度を計測し,現時点での能力把握だけに収まらず,予後予測に活かせて頂けたらと思います.
その他の通常歩行速度の基準値に興味がありましたらこちら(https://yamanopt.com/walkspeedcutoff/)
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