もうじき退院だけど、再入院のリスクはある?
退院後のフォローアップを手厚くした方が良い?
退院前の患者さんで、再入院のリスクを心配することはありませんか?
患者さんや病院の特性によって異なりますが、
Francesco Cilla, et al. Risk Factors for Early Hospital Readmission in Geriatric Patients: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2023. 1)
- 30日以内の再入院の発生率は10.3~37.6%
- 90日内の再入院発生率は16.0~58.0%
と系統的レビューで報告があります。
幅は広いですが、思っているより再入院している人は多いのかもですね。
入院中のリハビリの目標は、自宅退院だけでなく、
できるだけ長く自宅で生活して再入院の予防を図ることも大切だと思います。
この記事では、再入院に繋がりやすいリスクについてまとめています。
リスク因子を把握することは、退院後のフォローアップや予後予測に役立つので大切です。
この結論の結論は以下の通りです。
- 再入院リスクになる併存疾患:COPD・腎不全・脳血管疾患・糖尿病・心血管疾患・肝疾患・尿路感染症・うつ病・フレイル
- 再入院リスク因子:男性・低栄養・複数の併存疾患がある・退院の直後・長期間の入院・複数回の入院歴・5つ以上の多剤併用・要介護状態
- 退院時のADL能力の低下は、再入院リスクを高める
- 退院後のフォローアップは再入院の予防に有効
再入院リスクを高める併存疾患
併存疾患とは、入院の原因となった疾患と同時に起きているけど別の疾患のこと。
併存疾患は、入院・再入院を引き起こすリスクが高くなります。
結論として、再入院リスクを高める併存疾患は、
COPD・腎不全・脳血管疾患・糖尿病・高血圧症・心房細動・心血管疾患・肝疾患・尿路感染症・うつ病・フレイル・複数の併存疾患(チャールソンスコア≥5)
2023年に65歳以上の高齢者の再入院に関する系統的レビューが報告されました1)。
このレビューでは、併存疾患が再入院リスクを高めるとしています。
慢性疾患、長期的な管理が重要となる呼吸・循環器・代謝疾患が目立っている印象です。
また、Lohmanらは、在胎く医療サービスを受ける87,780名の高齢者を対象とした大規模調査で入院・再入院リスクを調査しています。
Cillaらの報告2)の心疾患やCOPDに加えて、
尿路感染症、フレイルがリスク因子と報告しています。
尿路感染症やフレイルなど、加齢に伴い発症・重症化しやすい疾患は注意ですね。
さらに、併存疾患が複数あることも再入院のリスクであると、日本のOhtaらの報告3)で述べられています。
この調査では”チャールソン併存疾患指数”を用いて5点以上では再入院リスクとなるとしています。
併存疾患を単体で見るのではなく、患者さん全体で併存疾患を把握することが大切ですね。
慢性疾患など長期的にコントールが必要となる併存疾患は、高齢者の再入院リスクを高めます。
高齢者では、身の回りや薬の管理が大変な場合もあるため、
退院後に誰がサポートをするのか検討する必要があるかもしれません。
必要なら訪問看護や訪問介護、訪問リハビリなど、人の目を増やして自己管理や薬の管理をサポートすることも大切です。
再入院リスクを高める要因
医学的情報からも再入院のリスクを予測することができます。
結論として、再入院リスクを高める医学的情報は、
男性・社会的地位が低い・低栄養・退院の直後・長期間の入院・複数回の入院・5つ以上の多剤併用(ポリファーマシー)・要介護状態
性別に関して、
男性の方が女性よりも再入院のリスクが高いことが複数の研究で報告2~4)されています。
この理由に関して、
「男性の方が重症化するまで症状に耐えることが多く、病気が進行して緊急入院が必要となる傾向がある。」
と考察されています。
男性の方が”助けを求める行動”がとりにくい傾向があるようです。
社会的地位が再入院リスクと関係している理由について、
教育レベルが低い人や低所得者は、
慢性疾患を未治療のままにする人が多いといわれています。
また、
社会経済的地位の低い高齢者は、精神障害の治療を求める可能性が低かった。
Ryuichi Ohta, et al. The Effectiveness of Family Medicine-Driven Interprofessional Collaboration on the Readmission Rate of Older Patients. Healthcare (Basel). 2023.
と述べています。
経済状況や教育歴を含めた社会的地位は、再入院リスクを高める可能性がありそうです。
低栄養は再入院リスクです。
低栄養→サルコペニアやフレイル→死亡や入院リスク
低栄養はサルコペニアやフレイルを引き起こします。
そして、サルコペニアとフレイルは死亡や入院のリスクを高めるため、
低栄養状態であれば、病状の悪化や新規の傷害発生により再入院リスクが高まります。
栄養状態の評価について興味があれば、こちらから。
”退院の直後”、”長期間の入院”、”複数回の入院歴”など入院は再入院のリスクです。
入院は、ADL能力の低下5)、活動量の低下6)を引き起こします。
入院することが、再入院のリスクを高めることを知り、長期間入院している人や入退院を繰り返す人には注意が必要ですね。
退院時の低いADL能力は再入院リスクを高める
結論として、
退院時のADL能力が低いことは再入院のリスクを高めます
退院時のADL能力が低いと再入院のリスクが高いという報告が複数あります。
Gallowayらは、1199施設、45,424名の高齢者を対象とした大規模調査から、
FIM運動項目と30日以内の再入院リスクが関連(HR 0.987)していると報告しています。7)
また、
FIM運動項目が1点上昇すると、
1ヶ月後の再入院リスクは1%低下した
Rebecca V Galloway, et al. Hospital Readmission Following Discharge From Inpatient Rehabilitation for Older Adults With Debility. Phys Ther. 2016.
FIM運動項目を高いレベルにすることは、再入院の予防に重要ですね。
ちなみに、FIM運動項目は、FIMの中の13項目を指します。
また、日本では心不全患者を対象に13病院、923名という大規模の多施設コホート研究があります。8)
この調査では、歩行能力からADLを4つのレベルに分類し、
入院時よりも退院前でADLが下がった人を”ADL低下群”と定義しています。
ADL能力の4分類
A:自立した屋外歩行が可能
B:自立した屋内歩行が可能
C:屋内歩行に介助を伴う
D:入院前と退院時に歩行困難
(歩行能力を評価している気がしますが、この研究ではADL能力としています。)
調査の結果として、
- ADL低下群の方が、心不全による入院リスクが1.89倍も高い(HR1.89、95%CI1.35~2.58、p<0.001)
- 死亡リスクは、ADL低下群で2.67倍も有意に高い(HR2.67、95%CI1.71~4.02、p<0.001)
心不全患者のADL低下は、予後を予測する重要な指標ですね。
再入院の予測として、特に運動面に関連するADL能力は重要な可能性が示唆されています。
入院中のリハビリでは、退院に向けてADLの向上を図ることが重要ですが、
同時に再入院のリスクを下げることにもつながります。
ADL能力の評価とアプローチの重要性は理解しておきましょう。
再入院を予防するためのアプローチ
再入院を予防するアプローチもいくつか報告があります。
結論として、
- 退院後の電話フォローアップや訪問介入
- 退院前の本人や家族への指導と環境整備
が再入院リスクを低下させる可能性があります。
退院後のフォローアップに関して、日本とは文化が異なるため一概には言えませんが…
Finlaysonらは、オーストラリアの高齢者を対象に、
退院後の再入院リスクを下げるアプローチを比較しています。9)
調査の結果として、
看護師による在宅訪問や電話フォローアップにより、
退院後12週間の再入院リスクが2.1~2.6倍低かった。
を明らかにしています。
退院後のフォローアップが重要であることが示されている報告です。
個人的には、訪問看護だけでなく、訪問リハビリや訪問看護も、
退院後のフォローアップの役割を担える可能性があると考えてます。
日本での報告では、
心不全やCOPD、糖尿病などの慢性疾患を対象とした調査で、10)
などの退院前指導や環境整備が重要であると述べています。
前の項目でもまとめましたが、
慢性疾患は再入院リスクを高める重要な要因です。
そのため、退院前に本人や家族へセルフマネジメントを指導することは再入院予防に重要になります。
ただし、
退院前の指導や環境整備だけでは、退院後の生活に十分対応できない可能性もあります。
再入院リスクが高い患者には、積極的に訪問看護や訪問リハビリのような、
退院後フォローアップを検討することも大切ですね。
まとめ
- COPD・脳血管疾患・糖尿病・心血管疾患・うつ病など長期コントロールが必要な併存疾患は再入院リスクを高める
- 再入院リスクを高める医学的情報:男性・低栄養・複数の併存疾患・退院直後・長期間の入院・複数回の入院歴・多剤併用・要介護状態
- ADL能力低下は再入院リスクを高めるため、ADL評価とアプローチは重要
- 再入院予防には、退院後のフォローアップ・退院前の指導と環境整備が有効
参考資料
- Francesco Cilla, et al. Risk Factors for Early Hospital Readmission in Geriatric Patients: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2023.
- Matthew C Lohman, et al. Factors Associated With Accelerated Hospitalization and Re-hospitalization Among Medicare Home Health Patients. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018.
- Ryuichi Ohta, et al. The Effectiveness of Family Medicine-Driven Interprofessional Collaboration on the Readmission Rate of Older Patients. Healthcare (Basel). 2023.
- Lloyd D Hughes, et al. Causes and correlates of 30 day and 180 day readmission following discharge from a Medicine for the Elderly Rehabilitation unit. BMC Geriatr. 2018.
- Christine Loyd, et al. Prevalence of Hospital-Associated Disability in Older Adults: A Meta-analysis. J Am Med Dir Assoc. 2020.
- Christine Loyd, et al. Trajectories of Community Mobility Recovery After Hospitalization in Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2018.
- Rebecca V Galloway, et al. Hospital Readmission Following Discharge From Inpatient Rehabilitation for Older Adults With Debility. Phys Ther. 2016.
- Kensuke Takabayashi, et al. A decline in activities of daily living due to acute heart failure is an independent risk factor of hospitalization for heart failure and mortality. J Cardiol. 2019.
- Kathleen Finlayson, et al. Transitional care interventions reduce unplanned hospital readmissions in high-risk older adults. BMC Health Serv Res. 2018.
- 石塚裕美子、他。内科病棟における循環器・呼吸器疾患を有する高齢者の計画外再入院の分類と再入院予防策の検討。日本地域看護学会誌、2012。
コメント