【股関節】移動や和式生活・更衣動作の股関節角度を解説【生活に必要な関節可動域】

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股関節はどれくらい動けば生活で困らないの?

移動や着替えでは、どれくらい股関節が動いているの?

健常者における動作時の股関節可動域を知ることは、可動域獲得の目標設定やADL制限の予測に有用です。

この記事では、健常者の移動や和式生活での座り姿勢、更衣動作に関する股関節可動域について解説します。

結論は以下の通りです。

  • 移動や階段:股屈曲60~70°
  • 乗車やベッド、浴槽の出入:股屈曲90°
  • 正座姿勢:股屈曲60°  胡座:股屈曲100°、外転20°、外旋20~40°
  • ズボンの更衣:股屈曲90°、外転10°、外旋30°
  • 靴下の着脱:股屈曲100~150°、外転10~20°、外旋10~20°
この記事を読むメリット
  • 移動に関わる股関節可動域がわかる
  • 和式生活での座り姿勢や立ち座り運動時の股関節可動域がわかる
  • 更衣動作に関わる可動域がわかる

膝関節の可動域に関しては別記事で紹介しています。

移動に関わる股関節可動域

ここでは、歩行や階段昇降、車への乗降、浴槽への出入時の股関節可動域を解説します。

結論は以下の通りです。

  • 正常歩行:股関節屈曲20°~伸展20°
  • 階段昇降:昇段で屈曲67.8°、降段で屈曲52.4°
  • 車への乗降:乗車で屈曲85.9°、下車で屈曲90.0°
  • 浴槽の出入:屈曲90.0°

歩行に関わる股関節可動域

健常者の正常歩行に関して、股関節運動が紹介されています。

江原は、歩行分析中の股関節運動について、以下のように述べています1)。

  • 期接地IC~荷重応答期LRで股関節屈曲20°と最大屈曲位となる
  • 立脚中期MStで屈曲伸展0°
  • 立脚終期TStで股関節伸展20°と最大伸展位となる

正常歩行では、股関節の可動域は屈曲20°~伸展20°です。

歩行に関する股関節運動に関する、他の報告をみると

  • 正常歩行はおよそ股関節屈曲30°~伸展10°必要である 2)
  • 歩行中の股関節屈曲角度は最大49.3° 3)

と少し差があるようです。

いずれにしても、歩行では大きな股関節運動は必要なさそうですね。

また、股関節の屈曲と伸展だけでなく、内外転や内外旋の運動も歩行には重要です。

骨盤の回旋や側屈運動に伴い、股関節内外旋や内外転で5°程度の可動域が必要ともいわれています。

階段昇降・車への乗降・ベッドへの出入

階段の昇降動作や車への乗降動作、ベッドの出入に関して、

Sahらは、健常成人を対象に移動やADL動作時の股関節屈曲可動域を報告しています2)。

動作時の股関節最大屈曲角度(°)は以下の通りでした。

  • 階段の昇段:67.8°
  • 階段の降段:52.4°
  • 車に乗る:85.9°
  • 車から降りる:90.0°
  • ベッドに入る:95.6°
  • ベッドから出る:78.2°

階段昇降は股屈曲90°よりも小さい角度であり、車やベッドへの出入は90°よりも大きい角度でした。

ちなみに、この結果からSahらは以下のように考察を述べています。

これらの活動が股関節屈曲90°に近づくため、THAの後方脱臼のリスクを引き起こす可能性がある。

Alexander P Sah. How Much Hip Motion Is Used in Real-Life Activities? Assessment of Hip Flexion by a Wearable Sensor and Implications After Total Hip Arthroplasty. J Arthroplasty. 2022.

THA術後の脱臼リスクの予測にも役立つため、抑えておきましょう。

浴槽への出入

続いて、浴槽への出入について紹介します。

Hyodoらは、健常者を対象に電磁三次元追跡装置を用いて、動作時の股関節可動域を調査しています4)。

結果は以下の通りでした。

  • 40cmの浴槽に前から入る:屈曲82±8°、外転24±6°、内旋25±17°、外旋29±12°
  • 40cmの浴槽に横から入る:屈曲79±11°、外転25±7°、内旋22±16°、外旋28±12°
  • 50cmの浴槽に前から入る:屈曲87±8°、外転30±5°、内旋22±16°、外旋36±16°
  • 50cmの浴槽に横から入る:屈曲86±9°、外転29±5°、内旋19±16°、外旋36±17°
  • 浴槽から出る:屈曲99±10°、外転21±8°、内旋20±13°、外旋27±10°

浴槽への出入に関わる股関節の可動域は、屈曲90~100°、外転20~30°、内外旋20~30°

屈曲だけでなく外転や内外旋の可動域も重要であることを抑えておきましょう。

歩行や階段、車やベッド、浴室への出入に関わる股関節可動域についてまとめました。

股関節屈曲90~100°と内外転や内外旋20~30°の可動域が生活に重要である可能性があります。

生活における股関節可動域を抑えておきましょう。

和式生活での座り姿勢と立ち座り動作に関わる股関節可動域

和式生活での座り方には、正座、胡座、長座位、しゃがみなどさまざまな種類があります。

ここでは和式生活での座り姿勢と立ち座り動作時の股関節可動域について解説します。

和式生活の座り姿勢に関わる股関節可動域

まず、和式生活での座り姿勢での股関節可動域を解説します。

以下、結論です。

正座の股関節可動域
  • 股屈曲61.7±5.2°、内転5.1±4.3°、外旋2.9±1.8°(吉元,1988)
  • 股屈曲55.1°、外転4.8°、外旋1.0°(Yamamura, 2007)
  • 股屈曲68.4±7.4°(廣川,2014)
胡座の股関節可動域
  • 股屈曲80.0±5.5°、外転17.5±5.7°、外旋14.7±6.5°(吉元,1988)
  • 股屈曲106.7°、外転25.3°、外旋41.8°(Yamamura, 2007)
  • 股屈曲111.1±5.6°(廣川,2014)
しゃがみの股関節可動域
  • 股屈曲112.9±18.9°、外転2.6±7.5°、外旋8.6±5.6°(吉元,1988)
  • 股屈曲110.8°、内転2.2°、内旋9.6°(Yamamura, 2007)
  • 股屈曲153.0±3.8°(廣川,2014)

座り姿勢における股関節可動域に関する研究は、古い調査では吉元が姿勢と下肢ROMの関係について報告しています5)。

その結果は以下の通りです。

  • 手をつかない正座:股屈曲61.7±5.2°、内転5.1±4.3°、外旋2.9±1.8°
  • 手をつく正座:股屈曲61.7±5.2°、内転5.1±4.3°、外旋2.9±1.8°
  • 胡座:股屈曲80.0±5.5°、外転17.5±5.7°、外旋14.7±6.5°
  • 横座り:股屈曲78.6±4.6°、内転22.8±6.4°、内旋4.0±2.2°
  • しゃがみ:股屈曲112.9±18.9°、外転2.6±7.5°、外旋8.6±5.6°
  • 長座位:股屈曲66.8±9.7°、外転0.1±4.2°、外旋2.2±1.9°

この結果を踏まえ、吉元は以下のように述べています。

和式 ADLにおいて屈曲120°,内外転26°,回旋20°を有すれば制限は少ない可能性がある。

ただし、最終姿勢よりも動作時に大きな可動域を必要とする場合があるため注意が必要。

吉元洋一.下肢のROMとADL.理学療法学.1988.

和式生活の座り姿勢では、股屈曲可動域が大きく必要ですね。

また、Yamamuraらは日本人の健常女性を対象として、オープンMRIを用いて座り姿勢の股関節可動域を調査しました6)。

結果は以下の通りです。

  • 正座:股屈曲55.1°、外転4.8°、外旋1.0°
  • 正座+おじぎ:股屈曲109.7°、外転3.7°、内旋8.4°
  • 胡座:股屈曲106.7°、外転25.3°、外旋41.8°
  • 割座:股屈曲91.3°、外転1.0°、内旋37.2°
  • しゃがみ:股屈曲110.8°、内転2.2°、内旋9.6°

ちなみに、Yamamuraらは座り姿勢で大腿寛骨臼インピンジメントが発生するか調査をしています。

その結果、割座はすべての対象者でインピンジメントを認め、しゃがみ姿勢では5名中2名でインピンジメントを認めました。

割座やしゃがみ姿勢は大腿骨寛骨臼インピンジメントが発生しやすいようです。

また廣川らは20歳代の健常男女を対象として、三次元磁気式位置姿勢計測システムを用いて、座り姿勢の股関節屈曲角度を調査しました7)。

その結果は以下の通りです。

  • 上肢介助なし正座:股屈曲68.4±7.4°
  • 上肢介助あり正座:股屈曲71.8±5.9°
  • 片膝立ち:股屈曲80.1±2.5°
  • 胡座:股屈曲111.1±5.6°
  • 横座り:股屈曲106.5±5.2°
  • 長座位:股屈曲67.9±3.1°
  • しゃがみ:股屈曲153.0±3.8°

正座や片膝立ち、長座位は股屈曲可動域が小さい姿勢であり、

胡座や横座り、しゃがみ姿勢は大きな屈曲可動域が必要な姿勢なようです。

和式生活の座り姿勢は、股関節の大きな可動域が必要であることを抑えておきましょう。

和式生活の立ち座り動作に関わる股関節可動域

続いて、和式生活での立ち座り動作に関わる股関節可動域について解説します。

廣川らは動作時における股関節の最大屈曲関節角度を調査しています7)。

結果は以下の通りです。

  • 立位-上肢介助なし正座-立位:股屈曲95.7±9.2°
  • 立位-上肢介助あり正座-立位:股屈曲136.0±18.8°
  • 立位-正座-片膝立ち-立位:股屈曲104.7±16.9°
  • 立位-胡座-立位:股屈曲144.3±17.4°
  • 立位-横座り-立位:股屈曲141.4±15.4°
  • 立位-長座位-立位:股屈曲145.4±9.0°
  • 立位-しゃがみ-立位:股屈曲154.9±6.7°

上肢介助なしでの正座や片膝立ち経由の立ち上がり動作は、股屈曲90~100°以上の可動域でした。

また胡座や長座位、しゃがみからの立ち上がり動作では股屈曲140~150°と、さらに大きな可動域のようです。

また、廣川らは同じ論文内で以下のように述べています。

多くの動作で、座位よりも立ち上がり動作の過程で、より大きな屈曲角を示している。

廣川俊二,他.座位動作中の下肢関節のキネマティクスの測定.バイオメカニクス.2014.

姿勢保持よりも立ち上がり動作の方が、股関節屈曲可動域が大きくなる可能性があることも抑えておきましょう。

更衣動作に関わる股関節可動域

ここでは、健常者における下肢の更衣動作に関わる股関節可動域について解説します。

更衣動作は股関節の可動域制限によって困難となりやすいADL動作の1つです。

更衣動作に関わる股関節可動域に関する結論は、以下の通りです。

  • 座位でズボンを履く:股屈曲86±10°,外転14±10°,内旋19±11°,外旋30±14°
  • 立位でズボンを履く:股屈曲86±9°,外転13±7°,内旋24±13°,外旋29±14°
  • 長座位にて靴下を履く:股屈曲152.2±21.0°
  •            股屈曲101.1±13.6°,外転7.6±5.1°,外旋3.8±2.0°
  • 立位にて靴下を履く:股屈曲157.5±20.4°
  •            股屈曲96.5±6.3°,外転6.6±5.1°,外旋12.7±7.4°
  • 足を乗せて靴を履く:股屈曲82±7°,外転18±8°,外旋61±12°
  • 靴紐を結ぶ:股屈曲126.1°

Hyodoらは、電磁三次元追跡システムを用いてADL動作時の股関節角度を測定しました4)。

その結果は、以下の通りです。

  • 座位でズボンを履く:股屈曲86±10°、外転14±10°、内旋19±11°、外旋30±14°
  • 立位でズボンを履く:股屈曲86±9°、外転13±7°、内旋24±13°、外旋29±14°
  • 足を乗せて靴を履く:股屈曲82±7°、外転18±8°、内旋6±11°、外旋61±12°

ズボンや靴を履く動作では、股関節屈曲90°程度であり、内外転、内外旋の可動域も重要です。

特に足を膝の上に乗せて靴を履く動作では外旋61±12°と、大きな外旋可動域であることが示されました。

靴に関する動作について、Sahらは靴紐を結ぶ際の股関節屈曲角度を調査しています3)。

その結果は、以下の通りでした。

靴紐を結ぶ動作:股屈曲126.1°

靴紐を結ぶためには股関節の大きな屈曲可動域が必要かもしれません。

また、靴下の着脱に関して日本でもいくつか報告があります。

吉元らの報告では、靴下着脱の股関節可動域は以下の通りでした5)。

  • 長座位での靴下の着脱:屈曲101.1±15.6°、外転7.6±5.1°、外旋3.8±2.0°
  • 立位での靴下の着脱:屈曲96.5±6.3°、外転6.6±5.1°、外旋12.7±7.4°

さらに、廣川らの報告による股関節屈曲角度は以下の通りでした7)。

  • 長座位での靴下の着脱:屈曲152.2±21.0°
  • 立位での靴下の着脱:屈曲157.5±20.4°

靴下の更衣では股屈曲90~150°であり、大きな屈曲運動をしているようです。

ズボンの更衣や靴下の着脱などは、股関節の大きな屈曲運動を伴うため、股関節可動域の制限がある方では困難と感じる方も多いでしょう。

更衣動作に用いられる股関節の可動域を知ることで、目標設定や更衣動作の制限を予測する目安になります。

まとめ

移動や和式生活での座り姿勢、更衣動作での股関節可動域について解説しました。

  • 歩行時の股関節屈曲伸展の可動域は20°
  • 階段昇降や乗車、ベッドや浴槽の出入では股関節90°
  • 浴槽への出入に関わる股関節の可動域は、屈曲90~100°、外転20~30°、内外旋20~30°
  • 和式生活の座り姿勢は、正座以外は股関節屈曲90°以上
  • 上肢介助なしでの正座や片膝立ち経由の立ち上がり動作は股屈曲90~100°以上
  • 胡座や長座位、しゃがみからの立ち上がり動作は股屈曲140~150°
  • 和式生活からの立ち上がりでは、座り姿勢よりも大きな股関節可動域が必要
  • ズボンの着脱は股屈曲90°
  • 靴下の着脱は長座位や立位どちらも股屈曲90°以上

参考資料

  1. 江原義弘.歩行分析の基礎ー正常歩行と異常歩行ー.日本技師装具学会誌.2012.
  2. Donald A. Neumann. カラー版筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版.
  3. Alexander P Sah. How Much Hip Motion Is Used in Real-Life Activities? Assessment of Hip Flexion by a Wearable Sensor and Implications After Total Hip Arthroplasty. J Arthroplasty. 2022.
  4. Kashitaro Hyodo, et al. Hip, knee, and ankle kinematics during activities of daily living: a cross-sectional study. Braz J Phys Ther. 2017.
  5. 吉元洋一.下肢のROMとADL.理学療法学.1988.
  6. Mitsuyoshi Yamamura, et al. Open-configuration MRI study of femoro-acetabular impingement. J Orthop Res. 2007.
  7. 廣川俊二,他.座位動作中の下肢関節のキネマティクスの測定.バイオメカニクス.2014.

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