生活では膝がどれくらい曲がれば良い?
膝の屈曲制限あるけど、何が困るの?
みなさんは生活でどれくらい膝関節の可動域が必要か知っていますか?
「どの動作で、どれくらいの可動域が必要か?」を知ることで、
困難となりやすいADLの予測や目標設定に役立てることができます。
この記事では、健常者における姿勢や動作時の膝関節屈曲角度をまとめました。
この記事の結論は以下の通りです。
- 歩行や階段、椅子からの立ち上がりは膝屈曲角度90~120°
- 和式生活の座り姿勢は膝屈曲角度120~150°
- 下肢の更衣動作の膝屈曲角度は120~130°
股関節に関しては別の記事で紹介しています。
移動に関わる膝関節の屈曲可動域
ここでは、歩行や階段、椅子からの立ち上がりに関わる膝関節屈曲可動域について解説します。
結論は以下の通りです。
- 歩行:5~60°
- 平地歩行や坂道歩行:90°未満
- 階段や椅子からの立ち上がり:90~120°
- 浴槽に入る:120°
- 浴槽から出る:140°
歩行に関してみると、膝関節屈曲角度は、平地や坂道の歩行では90°未満で十分です1)。
実は膝関節の屈曲可動域制限のみが原因で跛行が出現することは意外と少なかったりします。
また、Roweらは階段昇降や椅子からの立ち上がりに関する膝関節可動域を調査しています2)。
その結果、膝屈曲角度90~120°であったと報告しました。
浴槽の出入に関して、Hyodoらは三次元動作解析装置を用いて評価しています3)。
その結果、
- 浴槽に入る:124~128°
- 浴槽からでる:143°
であったと報告しました。
浴槽の方が低くいためか、浴槽に入るより出る方が膝の屈曲角度が大きくなるようです。
移動に関わる膝屈曲角度は120°程度あれば問題なさそうですが、
浴槽から出る動作では140°程度の大きな膝屈曲角度が必要かもしれません。
ただし、動作時の膝屈曲角度は環境によって異なるため、必要に応じて環境設定も重要ですね。
和式生活の座り姿勢に関わる膝屈曲可動域
リハビリでは「こたつに入りたい」「仏壇で手を合わせたい」という要望を聞くことがあります。
実は和式生活での座り姿勢は大きな膝の屈曲角度を用います。
和式生活の座り姿勢の膝屈曲可動域は、以下の通りです。
- 正座姿勢:150°
- 胡座姿勢:120~130°
- しゃがみ:150°
廣川らは健常者を対象に、座り姿勢時の膝屈曲角度を調査しています5)。
その結果、和式生活の座り姿勢における膝屈曲角度は以下の通りでした。
和式生活の座り姿勢は、長座位を除いて膝屈曲の大きな可動域を要していました。
和式生活の立ち座り動作に関わる膝屈曲可動域
廣川らは、和式生活での立ち座り動作についても膝屈曲可動域を調査しています。
立ち座り動作での最大膝屈曲角度は以下の通りでした。
- 立位-正座:150°
- 立位-胡座:150°
- 立位-しゃがみ:150°
和式生活の立ち座り動作では、膝屈曲可動域は150°程度でした。
座り姿勢よりも、立ち座り動作時の方が膝屈曲可動域が大きくなります。
ただし、これらの報告は健常者を対象としているため、膝関節可動域制限がある場合は異なるかもしれません。
TKA術後における床からの立ち上がり動作に必要な膝関節屈曲可動域
原口らは、TKA術後患者における床からの立ち上がり動作について以下のように述べています6)。
床からの立ち上がり動作が可能なTKA術後患者の膝関節屈曲可動域は平均130°程度
原口和史.人口膝関節置換術後の生活様式.整形外科と災害外科.2017.
TKA術後患者において、畳の上で生活に困らないかは膝関節屈曲130°を一つの目安かもしれません。
ただし、TKA術後の膝関節可動域は使用しているコンポーネントや術式で異なります。
TKA術後の獲得可動域を考える際は、必ず担当医に相談しましょう。
正座は膝を悪くするか?
ちなみに、正座は膝に悪影響というイメージがありますが、
調べてみると、正座が変形性膝関節症を悪化させるというエビデンスは明らかではないです。
古賀らは、
コホート研究の結果から、正座の習慣がある人の方がない人よりも変形性膝関節症の重症度(KL分類)が軽い人が多く、正座の習慣が変形性膝関節症を進行させる危険因子ではない。
古賀良生.変形性膝関節症の疫学-下肢アライメント3次元測定システム開発の背景-.理学療法学.2007.
と述べています7)。
変形性膝関節症が軽症な人しか正座をしていなかった可能性も考えられますが、正座を必ずしも危険だとする必要はないと考えられます。
もちろん、関節内圧を高めて疼痛を誘発させる可能性もあるので、患者さんの膝関節の変形や疼痛、ライフスタイルなどを含めて検討する必要があります。
更衣動作に関わる膝関節屈曲可動域
ズボンや靴下などの更衣動作は、膝の可動域が大きく影響する動作になります。
ここでは、健常者における更衣動作に関わる膝関節屈曲可動域について紹介します。
結論は以下の通りです。
- 座位でズボンを履く:120°
- 立位でズボンを履く:115°
- 座って靴下を履く:130°
- 立って靴下を履く:130°
- 座って靴を履く:100°
Hyodoらは、健常者を対象として更衣動作時の膝屈曲可動域を三次元動作解析装置を用いて調査しました8)。
その結果は以下の通りです。
ズボンや靴履く際には膝屈曲120°であることが明らかとなりました。
また、靴下の着脱時の膝関節可動域に関して、廣川らの報告があります5)。
その結果は、以下の通りです。
靴下の更衣動作は膝屈曲130°程度であり、ズボンや靴の更衣よりも大きな膝屈曲角度でした。
これらの報告から、下肢の更衣動作では膝関節屈曲120~130°で問題なく実施できるようです。
更衣動作でも膝屈曲可動域が重要であることがわかりました。
ただし、更衣動作は補助具によって代償が可能であることも抑えておきましょう。
必ずしも、膝関節角度の獲得を目指す必要はなく、代償動作や環境設定にも目を向けることが重要ですね。
ちなみに、TKA術後の膝屈曲可動域獲得を予測に関する因子は別記事にて紹介しています。
参考資料
- 江原義弘.歩行分析の基礎-市場歩行と異常歩行-.2012.
- P J Rowe, et al. Knee joint kinematics in gait and other functional activities easured using flexible electrogoniometry: how much knee motion is sufficient for normal daily life? Gait Posture. 2000.
- Kashitaro Hyodo, et al. Hip, knee, and ankle kinematics during activities of daily living: a cross-sectional study. Braz J Phys Ther. 2017.
- 吉本洋一.下肢のROMとADL.1988.
- 廣川俊二,福永道彦.座位動作中の下肢関節のキネマティックスの測定.バイオメカニズム.2014.
- 原口和史.人口膝関節置換術後の生活様式.整形外科と災害外科.2017.
- 古賀良生.変形性膝関節症の疫学-下肢アライメント3次元測定システム開発の背景-.理学療法学.2007.
- KashitaroHyodo, et al. Hip, knee, and ankle kinematics during activities of daily living: a cross-sectional study. Braz J Phys Ther. 2017.
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