サルコペニアは加齢が基盤となり,栄養や生活習慣,慢性疾患の影響により筋肉量・筋力が減少している状態で,その結果,QOLの低下,介護や死亡のリスクが増加します.
今回はサルコペニアのリスクを高め要因について,先行研究を踏まえて紹介します.
サルコペニアの要因を知ることは,地域や施設における予防活動や健康推進活動にも役立ちます.
また,病院で入院されている患者さんの治療プランの作成に役立てることができます.
このテーマはこんな人におすすめ
- サルコペニアのリスク因子について知りたい人
- 病院や地域施設でサルコペニアの予防や治療をしたい人
- 高齢者と関わる機会が多い人
サルコペニアの原因分類
サルコペニアを引き起こす原因は,一次性と二次性に分類されます.
加齢による退行変性以外の原因が明らかでない場合は,一次性(加齢性).
1つ以上の原因が明らかな場合は二次性といいます.
多くの場合,サルコペニアの原因は複数の要因が重なり合っているため,一次性のことはほとんどなく二次性となります.
また,二次性の中でも”活動”,”栄養”,”慢性疾患”という要因がお互いに影響するため完全に原因を断定すつことは難しいです.
しかし,それぞれの要因が”どのように影響しているか”,”どれくらいのリスクか”を知っておくことで,どこに着目してアプローチを行うか,アプローチの優先順位はどれなのか,それらを決定する情報になります.
活動はどれくらいサルコペニアに関わるか
活動量が健康と関連していることは既に知られていますが,サルコペニアとも関係が深いです.
2017年Michal Stefflらの身体活動とサルコペニア発症のリスクに関するシステマティックレビューによると,
身体活動はサルコペニアとなる確率を低下させる(オッズ比OR=0.45).
男性ではオッズ比0.46,女性ではオッズ比0.65.
Clin Interv Aging. 2017. Relationship between sarcopenia and physical activity in older people: a systematic review and meta-analysis. Michal Steffl.
身体活動が活発な人では,そうでない人に比べて明らかにサルコペニア発症のリスクが低いことが分かりました.
また,身体活動の影響は男性に比べて女性の方が大きいことが分かりました.
集められた研究における身体活動の評価方法は,歩数を加速度計を用いて測定したり,IPAQというアンケートで行ったりと様々でした.
もう一つ,活動に関して面白い報告があったので紹介させて頂きます.
Leigh Breen, et al. 2013. Two weeks of reduced activity decreases leg lean mass and induces “anabolic resistance” of myofibrillar protein synthesis in healthy elderly. J Clin Endocrinol Metab. 「2週間の活動低下は,健康な高齢者の下肢除脂肪量を減らし,筋原線維タンパク質合成の同化の抵抗を誘発する」という論文です.
対象者は1日>3500歩の活動的な66~75歳(男性5名,女性5名)の地域高齢者.
14日間,1日当たりの歩数を<1500歩となるように身体活動を制限した時の,体組成と身体機能を比較した研究です.
結果として,14日間の活動制限により,下肢骨格筋量と除脂肪体重は約3.9%減少したが,上肢や体幹に有意差を認めなかった.また,膝伸展筋力やSPPBなどの身体機能に有意差を認めなかった.
たった2週間,活動を制限するだけで下肢の筋肉量が減少することが分かりました.
高齢者が入院するだけ,体調を崩して寝込むだけでも体には変化が生じる可能性があります.
サルコペニアを予防するために必要な身体活動に関しては,”1週間に150分以上の中等度の運動”や”1日の歩数”,”3METs以上の運動”などがありますが,詳しくはサルコペニアの治療の時に書かせて頂きます.
栄養はどれくらいサルコペニアに関わるか
低栄養はサルコペニアとなるリスクを高める要因の一つです.
Maurits F. J. Vandewoudeらは,栄養失調サルコペニア症候群(Malnutrition-Sarcopenia Syndrome: MSS)を提唱しました.
多くの患者では,栄養失調とサルコペニアは並行して存在し,筋肉量,筋力および身体機能の低下に加え,栄養摂取量の減少,体重の減少により臨床症状が現れる.これを栄養失調サルコペニア症候群(Malnutrition-Sarcopenia Syndrome: MSS)として,臨床症候群として提案した.
J Aging Res. 2012. Malnutrition-Sarcopenia Syndrome: Is This the Future of Nutrition Screening and Assessment for Older Adults? Maurits F. J. Vandewoude.
MSSは,栄養失調と加齢に伴う除脂肪体重,体力および身体機能の低下が互いに影響し合って,加速的に健康の悪化を引き起こします.
具体的には再入院率や死亡率の増加,QOLの低下,医療費の増加など引き起こし,患者個人にも社会的にも悪影響を与えます.
よって,栄養失調とサルコペニアの両面から介入を行う必要があります.
MSSは特に病院や施設などの臨床現場や地域の高齢者に多く存在するため,スクリーニングを定期的に行うことが推奨されています.
詳しい評価方法は別の記事で書かせて頂きますが,上の5つの基準の少なくとも4つが存在する場合,MSSのリスクが高いと考えた方が良いです.
健康な人でも加齢に伴い,低栄養を引き起こしやすいことが知られています.
MSSでもわかるように,低栄養とサルコペニアはお互いが影響し加速的に健康への悪影響を引き起こします.
栄養面に重点を置いた介入が有効であることも多くあります.
疾患はどれくらいサルコペニアに関わるか
病気がある人はサルコペニアになりやすいことが分かっています.
Jacob Pacificoらは,63記事のシステマティックレビューとメタアナリシスによりサルコペニアが心血管疾患,認知症,糖尿病,呼吸器疾患と関連することを明らかにしました.
63記事における対象者は17206名(平均年齢65.3±1.6歳,女性49.9%)と対照群22375名(平均年齢54.6±16.2歳,女性53.8%)でした.
心血管疾患のみ疾患なし群がないため,オッズ比を調査できませんでしたが,認知症,糖尿病,呼吸器疾患はオッズ比2以上でした.
この結果からも,心血管疾患,認知症,糖尿病,呼吸器疾患がある人は,サルコペニアになるリスクが高いというわかります.
病院や施設では既往歴がある人はよりサルコペニアのリスクが高いと考え,注意や介入が必要です.
同様に,慢性疾患を有する人は悪液質(カへキシア)の影響を受けサルコペニアのリスクが高まります.
悪液質(カへキシア)とは,
基礎疾患によって引き起こされ,脂肪量の減少の有無に関わらず骨格筋量の減少を特徴とする複合的代謝異常の症候群である.食思不振,炎症,インスリン抵抗性,筋タンパク崩壊の増加が関連している.
Evans WJ, et al:Cachexia: a new definition. Clinical Nutrition 2008;27:793-799.
悪液質の原因疾患は,がん,慢性感染症,膠原病,慢性心不全,慢性腎不全,慢性呼吸不全,慢性肝不全などがあり,主に慢性疾患が多いです.
悪液質は複合的代謝症候群であり,原疾患により引き起こされる,炎症やインスリン抵抗性,性ホルモン異常などにより脂肪組織の減少,筋肉量の減少が生じます.
その結果,体重減少,筋力や身体機能低下を引き起こしサルコペニアに繋がります.
ちなみに,悪液質の評価基準は以下の通りです.
高齢になるほど,様々な病気を経験したり,病気と付き合って生活をしている場合が多いです.
サルコペニアを引き起こす既往歴があるのか,悪液質を引き起こす慢性疾患やがん疾患などがあるのか,あらかじめ評価しておくことで治療や予防に役立てることができます.
しっかりと既往歴や併存疾患に注意して関わっていきましょう.
まとめ
- サルコペニアの原因には,加齢による一次性,活動や栄養,疾患の影響を受ける二次性がある.
- 身体活動を行うことでサルコペニアを予防できる(オッズ比0.45).
- 栄養失調サルコペニア症候群という考えがあり,低栄養とサルコペニアはお互いが影響し加速的に健康への悪影響を引き起こす.
- 病気があるとサルコペニアになりやすく,特に慢性心不全などの慢性疾患がある人は注意が必要である.
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