静的ストレッチは臨床でも頻繁に実施するプログラムの一つです。
関節可動域拡大を図るために用いられることもありますが、
静的ストレッチで可動域を拡大するためには、何秒くらい伸ばすの?
痛いほど伸ばすストレッチって効果があるの?
など、疑問があります。
静的ストレッチに関するエビデンスを知ることで、より有効なプログラムの実施や患者さんへの説明に役立ちます。
この記事では、静的ストレッチによる関節可動域拡大の効果について、論文をもとにまとめています。
以下、この記事の結論です。
- 静的ストレッチは健常者の関節可動域拡大に有効
- 疾患による関節拘縮には関節可動域拡大の効果がない可能性
- 1回の静的ストレッチ時間は30秒が適切
- 高強度の静的ストレッチで関節可動域拡大の効果が大きい可能性
静的ストレッチは関節可動域拡大に有効か
静的ストレッチによって関節可動域は拡大できるか、論文をもとにまとめています。
以下、結論です。
- 健常者において静的ストレッチは柔軟性向上や可動域拡大に効果がある
- 神経疾患,非神経疾患の関節拘縮に対して静的ストレッチは効果がない(可能性)
Bryantらは、18~50歳の健常者を対象に、
静的ストレッチによる関節可動域拡大の効果を調査した系統的レビューを報告しています。1)
その結果、
レビューに抽出された18研究すべて、静的ストレッチは関節可動域を拡大に有効
ことを明らかにしています。
ストレッチにより関節可動域が拡大する機序として、
- ストレッチによる耐性の増加
- 筋腱単位の受動的剛性の低下
- 筋腱の弾性変化
- 反射活動の低下
が関わっていると述べています。
また、Arntzらは健常成人の柔軟性に対する静的ストレッチ効果を調査したメタ解析による系統的レビューを報告しています。2)
結果として、
静的ストレッチは柔軟性の向上(SMD 0.96,95%CI 0.70~1.22)に有効
と報告しています。
SMD:標準偏差として介入効果を表す
SMD< 0.4:小さい効果,0.4~0.7:中等度の効果,SMD> 0.7:大きい効果
ちなみに、Arntzらの調査でのストレッチプログラムは、
- 運動あたりのストレッチ時間:30秒(2~300秒)
- 1セッションの平均反復回数:4回(1~30回)
- 1週間のストレッチ頻度:3回
- 介入期間:6週間(2~24週)
でした。
系統的レビューやメタ解析の結果から、
健常者を対象に静的ストレッチは関節可動域や柔軟性の向上に有効であることが示されています。
一方で、健常者ではなく脳卒中後の痙縮がある患者を対象に、
ストレッチ効果を検討した系統的レビューとメタ解析の報告もあります。3)
結果として、
ストレッチによる可動域拡大の効果は認めなかった(SMD 0.01, 95%CI -0.57~0.60)
と述べられています。
また、Harveyらはストレッチにより神経疾患と非神経疾患の患者を対象に、
関節可動域が改善するかを調査した系統的レビューを報告しています。4)
その結果、
- 神経疾患のストレッチ効果は 2°
- 非神経疾患のストレッチ効果は 1°
ストレッチによる関節可動域の拡大効果は5°未満であり、臨床的な有用性はないと述べています。
Gomez-CuaresmaらとHarveyらの報告から、
疾患による関節拘縮はストレッチでは改善しないようです。
しかし、個別で研究をみると
疾患による関節拘縮においても、関節可動域の拡大を報告している研究もあります。
また、中村雅俊先生のストレッチの効果に関しする概説では、5)
臨床現場では、関節可動域に対して治療が功を奏さないこともあるが、関節可動域改善が生じている症例と出会う機会も少なくない。
今後はどのような症例で治療効果が生じるか、否かについて検討が進むことを期待している。
中村雅俊.ストレッチングアップデートーストレッチングで“予防できるもの”と“予防出来ないもの”ー.理学療法の歩み.2022.
と述べています。
健常者ではストレッチ効果が明らかですが、
疾患による関節拘縮に対してはストレッチが有効ではない可能性がある。
しかし、全く効果がないと結論づけることも難しいため、今後の調査報告に注目ですね。
静的ストレッチで関節可動域拡大の効果を高める要因
ここでは、
ストレッチによる関節可動域拡大の効果に関わる要因について紹介します。
以下、結論です。
静的ストレッチによる柔軟性向上の効果に関わる因子は
- 1セッションの反復回数
- 1セッションのストレッチ時間
- 合計ストレッチ時間
Arntzらによって報告されたメタ解析による系統的レビューでは、
41研究、1178名のデータから柔軟性向上の効果に関わるストレッチの因子を検討しています。2)
その結果、
- セッション当たりの反復回数(β=0.094, p=0.016)
- セッション当たりのストレッチ時間(β=0.090, p=0.026)
- 合計ストレッチ時間(β=0.078, p=0.034)
が柔軟性の向上と関わっていました。
柔軟性向上の効果を得るためには、ストレッチの時間を長くすることが示唆されています。
しかし、ストレッチによる関節可動域の拡大効果を調査したKonradらのメタ解析による系統的レビューでは、6)
- ストレッチの手技:静的ストレッチとPNFストレッチは動的ストレッチに比べ可動域が拡大しやすい(ES=-0.93, p=0.012)
- 性別:女性は男性より可動域が拡大しやすい(ES=-1.08, p=0.036)
- 総ストレッチ時間:可動域拡大効果と有意な関連は認めなかった (R²=-0.03, p=0.73)
- 週当たりのストレッチ頻度:可動域拡大効果と有意な関連は認めなかった (R²=-0.02, p=0.42)
ストレッチによる可動域拡大効果に関わる要因として、ストレッチの手技や性別は関連を認めました。
しかし、ストレッチの量や頻度は可動域拡大には重要ではない可能性を述べています。
この結果はArntzらとは、逆の結果です。
この理由として、Konradらの調査対象は、動的ストレッチやPNFストレッチを含めた全般的なストレッチが対象。
そのため、静的ストレッチのみを対象としたArntzらの報告とは異なっていたと考えられます。
合計ストレッチ時間を増やすことが静的ストレッチによる関節可動域の拡大効果に重要であることは、
他の研究でも報告されています。
1週間の合計ストレッチ時間と可動域拡大効果の関係について、7)
- 1週間の合計ストレッチ時間が5分未満に比べ、5~10分、10分以上では有意にROMの拡大を認めた(p<0.05)
- 1週間のストレッチ時間が5~10分と比べ、10分以上では有意な差は認めなかった
1週間の合計ストレッチ時間は、少なくとも5分以上を目安に実施することを推奨。
また、同研究内でストレッチの介入頻度についても、
- 週2回や週3回と比べ週6回ではROMの変化に有意な差を認めた(p<0.05)
- 週5回と週6回、週7回では有意な差は認めなかった
1週間のストレッチ介入の頻度に関して、1週間のうち少なくとも5日以上が、ROM向上を促進するために有益である可能性を述べています。
あくまで一つの目安ですが、臨床プログラムの作成や患者さんの自主トレ指導にも役立つ情報です。
静的ストレッチにおいて関節可動域拡大のためには、
ストレッチの頻度や時間、合計のストレッチ時間が重要ですね。
静的ストレッチの最適時間は30秒
ストレッチ時間について、なんとなく20~30秒としている人も多いのではないでしょうか。
ここでは関節可動域拡大のため、静的ストレッチを1セット何秒実施するのがよいか、いくつかの論文をもとにまとめます。
以下、結論です。
- 関節可動域拡大に有効な静的ストレッチの時間は30秒以上
- 60秒以上のストレッチでは神経的や筋パフォーマンス的な悪影響が生じる可能性
Mousstafaらは、60~65歳のハムストリングスが硬いと判断された100名を対象にストレッチ時間とROMの効果をRCTにて調査しています。8)
100名を対照群・ストレッチ15秒群・ストレッチ30秒群・ストレッチ60秒群の4グループにランダムに振り分けて、ROM変化を比較。
その結果、
- 対照群と比べ、ストレッチ30秒群と60秒群は有意にROMが拡大した
- ストレッチ60秒群のみ“頂点間振幅”は顕著な減少を認めた
頂点間振幅とは、最も高い電位と最も低い電位の幅を指します。
頂点間振幅の減少は、最大筋収縮能の低下と解釈できるかもしれません。
Mousstafaらは、
ストレッチ時間30秒と60秒で関節可動域は有意に拡大するが、60秒のストレッチでは神経的な悪影響が生じる可能性がある。
そのため、ストレッチの最適な時間は30秒であると結論づけています。
また別の報告で、Mansooriらは
慢性筋筋膜性疼痛症候群と診断された100名に対して、
僧帽筋上部線維と肩甲挙筋のストレッチを実施し時間による影響をRCTにて調査しています。9)
この調査では、100名を25名ずつ、対照群・ストレッチ15秒群・ストレッチ30秒群・ストレッチ60秒群の4つにランダムに振り分けて比較。
結果として、
- 対象群やストレッチ15秒群よりも、ストレッチ30秒と60秒は疼痛の減少と圧痛閾値の上昇を認めた
- ストレッチ60秒のみ神経生理学的パラメータの悪影響を認めた
関節可動域をアウトカムとはしていませんが、
ストレッチ効果が15秒よりも、30秒や60秒ストレッチで高い効果が得られること。
そして、60秒ストレッチでは神経的な悪影響が生じる可能性を述べています。
長時間の伸張時間における神経機能障害について、以下のような考察がされています。
神経機能障害を引き起こす可能性のある主な機械的メカニズムの1つは、神経根および脊髄組織における縦方向の張力の増加がある。
また、脊髄への継続的なストレスは髄膜複合体への血流に直接影響を与え、神経伝達プロセスを減速または障害する可能性があることも他研究から報告されている。
Sameeha S Mansoori, et al. Optimal duration of stretching exercise in patients with chronic myofascial pain syndrome: A randomized controlled trial. J Rehabil Med. 2021.
長時間のストレッチなどで神経組織は機械的ストレスによって、神経根の内腔断面積や血液供給が減少、それに伴う神経伝達障害が生じると考えられます。
長時間のストレッチに関して、2012年に筋パフォーマンスと静的ストレッチについて系統的レビューが報告されています。10)
106研究を対象にした調査から、ストレッチ時間が長くなると筋パフォーマンスが減少した。
- ストレッチ時間30秒未満や30-45秒では、最大筋力や筋パワー、筋パフォーマンスに関する平均変化割合が有意な減少は認めなかった
- ストレッチ時間ごとの筋パフォーマンスが減少したという研究報告の割合は、ストレッチ時間30秒~30-45秒で少ないが、60-120秒で急激に増えた
つまり、45秒未満での静的ストレッチでは、筋パフォーマンスの低下は統計的に示さない。
そして、ストレッチ時間60秒以上では筋パフォーマンスに関連する有害事象が生じるリスクが高まることを報告しています。
1回のストレッチ時間を60秒未満にすることでパフォーマンスの低下なくストレッチが可能でありますね。
以上の研究をみると、
ストレッチ時間は30秒が可動域の拡大効果が見込め、神経的なデメリットもなく、最も適していると判断できます。
60秒以上の長時間のストレッチでは、神経的デメリットや筋パフォーマンスの低下が生じる可能性があるため注意が必要です。
ただし、長時間のストレッチをすることで可動域拡大効果が高まるという報告もあるため、
スポーツなどパフォーマンスが重視される場面でないならば、60秒以上のストレッチも有効な可能性があります。
高強度のストレッチは可動域が拡大する可能性がある
静的ストレッチ強度について、
従来は「痛みのない範囲」が推奨されており、痛みのあるストレッチには否定的な意見があります。
「痛くなるほどストレッチをしても効果がない。」
「痛みがあると防御収縮によって筋が伸びない。」
など聞いたことありませんか。
しかし、静的ストレッチを高強度で実施して、関節可動域の拡大効果が高いとする研究も多いです。
ここでは、高強度のストレッチと関節可動域拡大の効果について、論文をもとにまとめます。
以下、結論です。
- 痛みが出現する高強度ストレッチの方が可動域拡大に有効な可能性がある
- 系統的レビューやメタ解析では高強度ストレッチの決定的な有効性は不明
- 強度設定120%ROMの高強度ストレッチで有効性を示すものが多い
Konradらは、77研究を含めたメタ解析による系統的レビューの結果として、6)
高強度ストレッチと低強度ストレッチで可動域拡大の効果に差はなかった(ES -0.95, 95%CI -1.13~-0.78, p 0.54)
と報告しています。
つまり、ストレッチは高強度でも低強度でも得られる可動域拡大の効果は同程度。
ただし、Konradらの調査は、静的ストレッチに限らず、動的ストレッチやPNFストレッチなども含めているため、静的ストレッチのみの結果ではない可能性が考えられます。
ストレッチ強度に関する別の報告を紹介します。
Bryantらの異なる高強度の静的ストレッチ効果を調査した系統的レビューでは、1)
16研究のうち
高強度の静的ストレッチが可動域に有効であると報告したものは8研究
高強度ストレッチに利点はないとしたのは8研究
不快感や痛みのレベルを超えた高強度ストレッチは可動域拡大に有効な可能性がある。
それと同時に、一貫性がないため今後の検証が必要であり、具体的なストレッチ強度も示せないと述べられています。
メタ解析を含めた系統的レビューでは、高強度のストレッチが有効かもしれませんが、結論はでていないようです。
高強度ストレッチの研究を個別にみると、
高強度ストレッチの有効性を述べている研究がいくつもあります。
Fukayaらの調査では、高強度-短時間ストレッチと低強度-長時間ストレッチの効果を比較しています。11)
その結果、
足底屈筋に対して、高強度-短時間(強度120%で100秒)ストレッチした方が低強度-長時間(強度50%で240秒)ストレッチよりも、
- 足背屈ROMが有意に拡大した(p<0.05)
- 腓腹筋内側のせん断弾性率が有意に減少した(p<0.05)
ストレッチ強度は、ストレッチ前の痛みがでる直前の関節角度を100%と定義。
高強度-短時間ストレッチの方が、可動域拡大や筋の柔軟性向上に有効である可能性を示しています。
また、Takeuchiらは、異なる静的ストレッチ強度と持続時間の影響を調査しています。12)
ストレッチ部位はハムストリングスで、測定ROMはSLRです。
ストレッチの設定は、
- 高強度(120%POD)ストレッチ50秒×3セット
- 中強度(100%POD)ストレッチ60秒×3セット
- 低強度(80%POD)ストレッチ75秒×3セット
の3パターンとして、ランダム化クロスオーバー試験で実施しています。
ストレッチ強度は、ストレッチ前の関節角度を100%として設定。
その結果、
- 膝伸展ROMについて、120%PODは80%PODや100%PODよりも有意に高かった(p<0.01)
- ハムストリングスの筋腱単位の硬さについて、120%PODは80%PODや100%PODよりも有意に高かった(p<0.01)
高強度ストレッチは、低強度や中強度と比べてROM拡大と筋腱単位の硬さの低下に高い効果を示します。
さらに、Nakamuraらは異なる3つの強度(120%・100%・80%)のストレッチで大腿四頭筋への影響を調査しています。13)
ストレッチ強度の設定は、ストレッチ前の関節角度を100%として設定しています。
その結果、
- 可動域は強度100%と強度120%で有意な増加を認めた(p<0.01)が、強度80%ではストレッチによる可動域拡大は認めなかった(p=0.85)
- ストレッチ強度80%よりも120%でROMが有意に高かった(p<0.01)が、強度100%と120%では有意な差を認めなかった(p=0.43)
低強度ストレッチに対して、中強度や高強度の方が可動域拡大の効果が高いことを示しています。
紹介した研究は、健常者を対象とした調査です。
いずれも低強度の静的ストレッチに比べ、高強度で関節可動域拡大の効果が大きいことを示しています。
疼痛などを考慮した上で、
高強度の静的ストレッチを実施することは関節可動域拡大のために有益である可能性があるかもですね。
高強度のストレッチが可動域拡大に有効な理由として、
高強度ストレッチ後のROM変化の増加は、H反射活動の低下に起因する可能性がある。
反射活動の減少はストレッチ強度に比例するため、ストレッチ強度が高いほど反射活動の減少が大きくなり、その結果としてROMがさらに増加する可能性がある。
Joseph Bryant, et al. The Effects of Static Stretching Intensity on Range of Motion and Strength: A Systematic Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2023.
としています。
その他にも、静的ストレッチ強度が高いほど、伸張終了前の負荷に耐える能力の増加(伸張耐性の増加)したためROMが増加するとの報告や
柔軟性の指標の一つである筋のstiffnessの変化は、伸張強度と相関関係にあり、強度が高いことでstiffnessが低下するとの報告がある。
高強度の伸長より、神経、筋への影響が大きくなることが起因しているようです。
高強度の静的ストレッチは関節可動域拡大に有効な可能性があります。
ただし、ストレッチ強度と炎症反応に関するBPHEらの報告では、最大可動域の90%を超えるストレッチでは急激に炎症所見を認めるとあります。14)
この調査では、
ストレッチによる炎症反応も許容範囲の可能性もあり、臨床への影響について結論はでていません。
高強度の静的ストレッチが臨床的に有効か否か、さらに調査が必要だと考えられます。
静的ストレッチにより筋構造は変化するのか
ストレッチによって本当に筋が伸びることがあるのか、疑問に思ったことはないでしょうか。
「静的ストレッチが筋の構造にどのような影響を与えるか」、メタ解析による系統的レビューが報告されているため紹介します。
以下、結論です。
- 非ストレッチ群と比べストレッチ群は安静時の筋束の長さがわずかに増加
- 筋束の角度や筋の厚さは変化を認めなかった
- 短時間の伸長よりも長時間の伸長で筋束の長さが増加
- 低い強度より高い強度で筋束の長さが増加した
Panidiらは2023年に静的ストレッチが筋構造に与える影響をメタ解析による系統的レビューから調査しています。15)
対象は19研究、健常成人467名(21.6±1.6歳)です。
その結果、
- 安静時の筋束の長さは対照群よりがわずかに増加(SMD 0.17, 95%CI 0.001~0.33, p 0.042)
- ストレッチ中の筋束の長さはわずかに増加(SMD 0.39, 95%CI 0.05~0.74, p 0.026)
- 羽状角は変化を認めなかった(SMD 0.08, 95%CI -0.07~0.22, p 0.30)
- 筋の厚さは変化を認めなかった(SMD 0.11, 95%CI -0.05~0.28, p 0.18)
*SMDは標準偏差として介入効果を示します。
SMD< 0.4:小さい効果。0.4~0.7:中等度の効果。SMD> 0.7:大きい効果。
*羽状角:羽状筋における筋の作用軸と筋線維の走行のなす角。
静的ストレッチによる筋構造の変化として、筋束の長さが増加することが示されています。
ただし、羽状角や筋の厚さに関しては影響がないようです。
また、Panidiらは、サブ解析として、ストレッチの合計伸張時間と強度の影響についても報告しています。
結果として、
- 長い伸張時間で筋束の長さは増加した(SMD 0.29, 95%CI 0.09~0.49, p 0.004)
- 短い伸張時間で変化を認めなかった(SMD -0.06, 95%CI -0.30~0.17, p 0.60)
- 高い伸張強度で筋束の長さは増加した(SMD 0.28, 95%CI 0.08~0.47, p 0.006)
- 低い伸張強度で変化を認めなかった(SMD -0.05, 95%CI -0.28~0.20, p 0.72)
サブ解析の結果から、
長いストレッチ時間と高いストレッチ強度では筋束の長さが増加していますが、
短いストレッチ時間と低いストレッチ強度では筋構造の変化は認めませんでした。
筋構造の変化には合計の伸張時間と強度が影響していることが示されています。
ただし、ストレッチによる筋束の長さが増加する効果は、SMDの値は小さく、効果がわずかである可能性が考えられます。
しかし、
筋束の長さは、サルコメア数を反映しており、筋の最大可動域に影響するとされている。
安静時における筋束の長さの増加はSMD0.17と小さな変化であったが、スポーツやリハビリなど臨床現場では、筋束の長さは些細な変化でも重要な可能性がある。
Ioli Panidi, et al. Muscle Architecture Adaptations to Static Stretching Training: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sports Med Open. 2023.
と考察されていました。
筋束の長さの増加がどの程度パフォーマンスに影響するかは不明ですが、
ストレッチが筋構造に及ぼす変化も今後の調査が楽しみな分野です。
まとめ
- 健常者を対象とした静的ストレッチは関節可動域拡大や柔軟性向上の効果がある
- 疾患による関節拘縮を対象とした静的ストレッチは関節可動域拡大の効果はない可能性
- ストレッチによる関節可動域拡大効果には、ストレッチ時間、頻度、合計ストレッチ時間が重要
- 1回の最適な静的ストレッチ時間は30秒
- 60秒以上の長い静的ストレッチは筋パフォーマンスの低下を引き起こす
- 痛みを感じる高強度の静的ストレッチは関節可動域拡大の効果が高い可能性
- 静的ストレッチにより筋構造として筋束の長さが増加する
結論がでていない要素もありますが、静的ストレッチに関する科学的根拠の一つになれば幸いです。
参考資料
- Joseph Bryant, et al. The Effects of Static Stretching Intensity on Range of Motion and Strength: A Systematic Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2023.
- Fabian Arntz, et al. Chronic Effects of Static Stretching Exercises on Muscle Strength and Power in Healthy Individuals Across the Lifespan: A Systematic Review with Multi-level Meta-analysis. Sports Med. 2023.
- Laura Gomez-Cuaresma, et al. Effectiveness of Stretching in Post-Stroke Spasticity and Range of Motion: Systematic Review and Meta-Analysis. J Pers Med. 2021.
- Lisa A Harvey, et al. Stretch for the treatment and prevention of contracture: an abridged republication of a Cochrane Systematic Review. J Physiother. 2017.
- 中村雅俊.ストレッチングアップデートーストレッチングで“予防できるもの”と“予防出来ないもの”ー.理学療法の歩み.2022.
- Andreas Konrad, et al. Chronic effects of stretching on range of motion with consideration of potential moderating variables: A systematic review with meta-analysis. J Sport Health Sci. 2023.
- Ewan Thomas, et al. The Relation Between Stretching Typology and Stretching Duration: The Effects on Range of Motion. Int J Sports Med. 2018.
- Ibrahim M Moustafa, et al. Optimal duration of stretching of the hamstring muscle group in older adults: a randomized controlled trial. Eur J Phys Rehabil Med. 2021.
- Sameeha S Mansoori, et al. Optimal duration of stretching exercise in patients with chronic myofascial pain syndrome: A randomized controlled trial. J Rehabil Med. 2021.
- Anthony D Kay, et al. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med Sci Sports Exerc. 2012.
- Taizan Fukaya, et al. Effects of Static Stretching With High-Intensity and Short-Duration or Low-Intensity and Long-Duration on Range of Motion and Muscle Stiffness. Front Physiol. 2020.
- Kosuke Takeuchi, et al. Acute Effects of Different Intensity and Duration of Static Stretching on the Muscle-Tendon Unit Stiffness of the Hamstrings. J Sports Sci Med. 2022.
- Masatoshi Nakamura, et al. The Comparison of Different Stretching Intensities on the Range of Motion and Muscle Stiffness of the Quadriceps Muscles. Front Physiol. 2021.
- Nikos Apostolopoulos BPHE, et al. Stretch Intensity vs. Inflammation: A Dose-dependent Association? International Journal of Kinesiology & Sports Science. 2015.
- Ioli Panidi, et al. Muscle Architecture Adaptations to Static Stretching Training: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sports Med Open. 2023.
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