
猫背や巻き肩って、どんな状態?原因は?

上位交差症候群ってなに?
姿勢や筋肉の状態をチェックする評価方法は?
猫背や巻き肩は上位交差症候群と呼ばれる、筋のアンバランスによって引き起こされる姿勢の異常です。
首や肩の痛みだけでなく、胸郭出口症候群や、肩関節の機能障害など運動器疾患の原因になります。
この記事では、“猫背・巻き肩”のメカニズムや評価方法について、論文を基にしたエビデンスを解説します。
- 猫背・巻き肩は、上位交差症候群による頭部前傾位+肩甲骨挙上外転位の不良姿勢のこと
- 上位交差症候群とは、僧帽筋上部・肩甲挙筋・大胸筋の緊張と頸屈筋群(深層)・僧帽筋中部や下部・前鋸筋の筋力低下によって筋のバランスが崩れた状態
- 猫背・巻き肩は、頭蓋脊椎角(CVA)、FSA、壁頭部距離 (OWD)で数値化できる
この記事を読むことで、猫背や巻き肩といった不良姿勢の病態や評価方法が理解できます。
猫背・巻き肩=上位交差症候群を解説
猫背や巻き肩の姿勢は、筋肉のバランスが崩れている上位交差症候群の状態です。
スマホやパソコンなどの姿勢が長時間続くことで、筋肉のバランスが崩れます。
猫背や巻き肩は、機能障害や運動器疾患を引き起こす危険な状態です。

上位交差症候群における筋の状態
頸部~肩甲帯周囲(頸部・肩関節・肩甲骨)に生じる筋のアンバランスのこと
特徴①:後頭下筋群・僧帽筋上部・肩甲挙筋・大胸筋・胸鎖乳突筋・斜角筋が過緊張
特徴②:頸屈筋群(深層)・僧帽筋中部や下部・前鋸筋・菱形筋が筋力低下

上位交差症候群では、筋の均衡が崩れ、
過緊張の筋と筋力低下の筋が、体でクロスした位置関係で出現します。
過緊張の筋は伸張性が低下しやすく、逆に、筋力低下しやすい筋は縮みにくい状態です。
その結果、疼痛や筋力低下に伴う機能不全を引き起こします。
ちなみに、頸部~肩甲骨周囲の筋アンバランスを“上位交差症候群”と呼びますが、
体幹~下肢の筋アンバランスを“下位交差症候群”と呼びます。

筋のバランス状態は、少しのきっかけで簡単に崩れます。
- 習慣的な姿勢異常や運動パターン異常によって、特定の筋の過用や誤用から筋のアンバランスが発生
- 過緊張した筋の短縮と拮抗筋の筋力低下が生じ、さらに異常姿勢や運動パターンの異常が引き起こされる負のスパイラルになる

筋のアンバランスを理解することは、治療に重要です。
過緊張の筋はストレッチやリラクゼーションをして緊張を適正にし、
筋力低下した筋は筋収縮練習や筋力トレーニングにより強化することで運動異常パターンを改善します。
上位交差症候群による不良姿勢:猫背と巻き肩の正体
猫背や巻き肩は、上位交差症候群による特徴的な不良姿勢です。
頭部前傾姿勢 (FHP: forward head posture) 上部頸椎の伸展+下部頸椎の屈曲位となり、頭部が重心線より過度に前方に位置する姿勢
丸肩姿勢 (RSP: round shoulder posture) 肩甲骨が挙上や外転となり、肩峰が重力線より前方に位置、肩関節が内旋に位置する姿勢

上位交差症候群の姿勢は、forward head posture・round shoulder postureと表現されます。
筋のバランスが崩れることで、
過緊張の筋が頭頚部や肩甲骨を引っ張り、
拮抗筋の筋力低下によって中間位に保てず、
頭部や肩峰が過度に前方へ位置する姿勢が猫背・巻き肩と呼ばれる姿勢の正体です。
後頭下と頸椎の移行部や頸椎胸椎の移行部にストレスがかかる状態であり、
頸部や肩甲骨周囲筋も緊張や血流障害により疼痛や疲労感、機能障害など出現します。
筋骨格系への負担と機能障害
上位交差症候群による不良姿勢や筋のアンバランスは、
筋骨格系へのストレスを増加させます。
肩甲骨の運動不全:肩甲骨内転や外旋の喪失により、肩関節の不安定性、背側上部の疼痛、挙上動作で疲労が生じる
頸椎前弯症:頸椎の過剰な前弯によって、頸部痛や頸椎原性頭痛を引き起こす
胸郭出口症候群:斜角筋の柔軟性低下により、上肢の痺れや疼痛などを引き起こす
肩峰下インピンジメント:肩峰下のスペースが狭小化して、肩関節の疼痛や筋力低下、回旋筋腱板の損傷や滑液包炎が生じる
頸椎原性頭痛:慢性的な頭部の前方姿勢が原因で発生し、後頭部から、こめかみ~前方に広がる頭痛

頸椎や周辺組織のストレス、頸部~肩甲骨の位置異常が原因となって、
さまざまな運動器疾患を引き起こす場合があります。
頸原性頭痛
頸椎のストレスや頸椎疾患によって頸神経から誘発される頭痛を、頸原性頭痛と呼びます。
- 他の病気が原因で起こる頭痛
- 疼痛部位は、片側性で頸部、後頭部~前頭部へ放散する痛み
- 頸部の不良姿勢(頭部前頭位)や頸部運動、指圧によって頭痛が誘発される


頸部痛を訴えて来院した頭部前傾位姿勢の患者では、54%の人で頸原性頭痛が発生しており、
頭部前傾姿勢は頸原性頭痛を引き起こしやすいことが報告されいています。

しかし、頭痛には種類があり、
頸部に由来する頸原性頭痛かを鑑別することは治療選択に重要です。
頸原性頭痛の鑑別には、頸椎屈曲-回旋テスト(FRT)と頸部屈曲筋力が有効であると系統的レビューとメタ解析で報告されています。
頸原性頭痛は片頭痛に比べ、頸椎屈曲-回旋テスト(FRT)の可動域が有意に低下(平均差 17.67°、95%CI 13.69~21.65)
頸原性頭痛は片頭痛に比べ、頸部屈曲筋力(N)が有意に低下(平均差 23.81N、95%CI 8.78~38.85)

FRTと頸部屈曲筋力は、頸原性頭痛と片頭痛の鑑別に有効であることがエビデンスから示されています。
頸部屈曲-回旋テスト (FRT: Flexion-Rotation Test)
頸部屈曲-回旋テストは、主に上部頸椎(C1・2椎間)の可動性や機能障害を評価する徒手検査で、頸原性頭痛の判定補助や治療効果を評価する指標
測定:背臥位にて頸椎を他動的に最大屈曲位させ、頸部の左右回旋可動域(°)を測定
判定:頸原性頭痛を判定するカットオフ値30°、
頸原性頭痛の目安は①抵抗を伴うROM制限、②疼痛側と非疼痛側で10°差、③疼痛誘発
検査精度:頸原性頭痛の感度 70~91.3%、特異度 70~92%、陽性尤度比LR+は2.33~10、陰性尤度比LR-は0.09~0.43

頸原性頭痛の判断や治療効果の評価にFRTを活用しましょう。
上位交差症候群の原因はライフスタイルによる不良姿勢
上位交差症候群は、長期間の不良姿勢が主な原因です。
特に、下を向く反復作業や家事仕事、長時間作業がある職業では、
上位交差症候群を引き起こしやすくなります。
- スマートフォン
- パソコン
スマートフォンやパソコンについて、以下の報告があります。
- スマートフォンの長時間使用(1日4時間以上)は、頭部前傾位・肩甲骨の挙上や外転などの不良姿勢につながる
- 長時間のパソコン作業と肩甲骨の運動異常は関係している
- パソコンの使用時間と頸部・背部・肩の痛みは関係しており、1日7時間以上の人は痛みが強い

下を見て作業をすると、頭部前傾位や肩甲骨の挙上・外転位の不良姿勢になります。
その姿勢が続くと、筋のバランスが崩れて上位交差症候群を引き起こし、
さらに不良姿勢が悪化するサイクルになります。
スマートフォンやパソコンを使用する際は、頭部前傾や肩甲骨の挙上外転姿勢に注意しましょう。
評価:頸部周囲筋の筋緊張と筋機能(伸張テスト・頸部屈曲の運動パターンテスト)
上位交差症候群の病態である、過緊張と筋機能を評価する方法を解説します。
過緊張を評価する”筋の伸張テスト”
筋緊張を判断する伸張テストは、治療の選択や効果判定に役立つ重要な評価です。
後頭下筋群・僧帽筋上部線維・肩甲挙筋・大胸筋・胸鎖乳突筋・斜角筋群
過緊張は、筋を伸張させる際のエンドフィールや左右差から判断します。
- 僧帽筋上部線維:背臥位で患者の頭部を受動的に屈曲+対側側屈+同側回旋させ、肩甲骨を遠位へ押す
- 肩甲挙筋:背臥位で患者の頭部を受動的に屈曲+対側側屈・回旋させ、肩甲骨を遠位へ押す
- 斜角筋 前部:背臥位で患者の頭部を受動的に同側に回旋+対側に側屈させ,肩甲骨を遠位へ押す
- 斜角筋 中部: 頭部を受動的に回旋中間位+対側に側屈
- 斜角筋 後部: 頭部を受動的に対側に回旋+対側に側屈
- 大胸筋 肋骨部:背臥位で肩関節150°外転+外旋10~15°位で水平伸展させる
- 大胸筋 胸骨部: 肩関節90°外転+外旋30°+肘屈曲90°位で水平伸展
- 大胸筋 鎖骨部と小胸筋:肩関節60°外転位で水平伸展
標準:左右差がなく弾力のあるend feel
過緊張:突然,しっかりとした抵抗感~固い抵抗感
過緊張している筋は、リラクゼーションやストレッチによる緊張のコントロールが必要になります。
頸部周囲筋の筋力や協調性を評価する”頸部屈曲の運動パターンテスト”
頸部周囲筋の筋力や機能は、頸部屈曲の動作評価から判断できます。
目的:頸部筋群(頭長筋・頸長筋・胸鎖乳突筋・後頭下筋群)の協調性をみる
方法:背臥位にて、ゆっくりと頭を上げ、顎を胸につけるように指示する
- 異常所見①:下顎が上がる(最初の10°以内で下顎が上がる)
- 原因:後頭下筋群や胸鎖乳突筋の過緊張、頸部深屈筋群や腹筋群の筋力低下
- 異常所見②:屈曲可動域の減少
- 原因:後頭下筋群の過緊張、頸部深屈筋群の筋力低下、頸椎椎間関節の機能不全
- 異常所見③:肋骨の挙上
- 原因:胸鎖乳突筋や斜角筋の過緊張、腹筋群の筋力低下
- 異常所見④:頭部のふるえ
- 原因:頸部深屈筋群の筋力低下、下部頸椎の不安定性

後頭下筋群や胸鎖乳突筋の過緊張、頸部深屈筋群の筋力低下は、
特に上位交差症候群で重要な所見です。
短時間で実施できるので、臨床でも活用してみましょう。
評価:猫背・巻き肩の不良姿勢を数値でみる(CVA・FSA・OWD)
頭部や肩峰の位置を角度(°)や距離(cm)で測定することで、姿勢を数値化できます。
重症度や効果判定にも有用なので、臨床でも活用してみましょう。
頭部の前傾姿勢を評価する”CVA (頭蓋脊椎角 craniovertebral angle)”
C7棘突起-耳珠を結ぶ線とC7棘突起を通る水平線のなす角(°)
- 測定:前を見て5回足踏みをした後、通常の楽な立位姿勢をとるよう指示
- 指標: CVAが小さいほど頭部前傾位を示す、CVA < 50°で頭部前傾位の目安
- 効果判定:CVAの臨床的に意味のある最小変化量(MCID)は1.40°
- 信頼性:CVAによる頭頚部姿勢評価の信頼性は高い(検者内信頼性ICC 0.66、検者間信頼性ICC 0.87)

頭蓋頸椎角CVAは、頭部前傾位の指標としてスタンダードな評価の一つです。
FHA (forward head angle)
頭蓋頸椎角と、同じ指標で頭部前傾位を示す指標としてFHAがあります。
C7棘突起-耳珠を結ぶ線とC7棘突起を通る垂直線のなす角(°)
CVAが水平線とのなす角に対して、FHAは垂直線とのなす角です。
CVAとFHAを明確に分けていない研究もありますが、
日本人を対象としたクラスター分析の報告があるため紹介します。
指標:FHAが大きいほど頭部前傾位を示す、FHA ≥ 45°で頭部前傾位の目安
参考値:日本の健康成人(平均21.9歳)を対象とした調査
- 理想的アライメント:FHA 33.1±4.5°
- 肩甲骨外転・前方傾斜群:35.0±4.5°
- 胸椎後弯・前方頭位・肩甲骨下方回旋群:38.7±4.1°
頭部の前傾姿勢を数値で評価し、治療効果の判定や患者さんへのフォードバックに役立てましょう。
肩甲骨の外転姿勢を評価する”FSA (forward shoulder angle)”
C7棘突起-肩峰(上腕骨の中点)を結ぶ線とC7棘突起を通る垂線のなす角(°)
- 測定:前を見て5回足踏みをした後、通常の楽な立位姿勢をとるよう指示
- 指標: FSAが大きいほど肩甲骨外転位(肩峰が前方へ移動)を示す、FSA ≥ 52°で肩甲骨外転位 (巻き肩)の目安
- 効果判定:臨床的に意味のある最小変化量(MCID)は1.34°
- ・信頼性:FSAによる頭頚部姿勢評価の信頼性は高い(検者内信頼性ICC 0.78、検者間信頼性ICC 0.96)

肩甲骨の前方移動を数値化することで、巻き肩の変化を評価できます。
胸椎後弯姿勢を評価するOWD (壁頭部距離 occiput-to-wall distance)
壁頭部距離 (OWD)は、後弯姿勢(猫背)を数値化する評価です。
メジャーと壁があれば、短時間で簡単にできます。
- 測定:①踵を壁つけて真っすぐ立つように指示をする、②後頭骨隆起から壁までの距離(cm)を測定する
- 指標:OWD>0~4cm軽度後弯姿勢,OWD>4cm重度後弯姿勢、OWD>2cmで不良姿勢
- 信頼性:OWDの信頼性は高い(検者内信頼性ICC 0.99,検者間信頼性ICC 0.93)、最小可検変化量(MDC)は1.2cm

短時間で簡単に評価できるため、患者さんの負担は少なく、臨床でも活用しやすいです。
まとめ
猫背や巻き肩といった不良姿勢は、上位交差症候群という明確な筋のアンバランス(過緊張筋と弱化筋の破綻)によって引き起こされる病態です。
長時間のスマートフォンやパソコン作業といったライフスタイルがこの負のスパイラルを加速させ、機能障害や運動器疾患を引き起こすリスクとなります。
臨床では、筋緊張や機能評価だけでなく、CVAやFHA、FSA、OWDといった定量的な評価を用いて正確にアライメントを把握することが重要です。
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