【転倒アプローチ】運動効果の解説とプログラム紹介・環境を含めた多要素介入の効果【転倒予防】

運動療法
スポンサーリンク

転倒しやすい高齢者には、なにをしたら効果的なの?

転倒を予防することは、リハビリの重要な役割です。

転倒アプローチのエビデンスを理解して、効果的な転倒予防を行いましょう。

この記事では、高齢者の転倒予防プログラムについて論文をもとにまとめています。

この記事の結論は、以下の通りです。

  • 地域高齢者への運動介入によって転倒率は20~40%減少
  • 介護施設高齢者への運動介入で転倒率は32%減少するが、継続した運動が必要な可能性
  • 運動プログラムは週3回以上、運動強度を上げながらのトレーニングが重要
  • 運動プログラムはバランストレーニングを中心に筋力強化トレーニングや有酸素運動など複数種類の運動で行う
  • 運動を含めた多要素の介入は転倒率10~25%減少
  • 多要素介入の内容は、運動療法、薬物療法、薬の見直し、手術、排尿排便管理、栄養療法、環境支援、社会支援、患者教育など
  • 環境への介入によって転倒率は26%減少
この記事を読むメリット
  • 転倒予防に対する運動介入や多要素介入の効果がわかる
  • 転倒予防に必要な具体的な運動プログラムや多要素介入の内容がわかる

別の記事では転倒リスクの判定に役立つ評価を紹介しています。

こちらも合わせて参考になれば幸いです。

転倒対策の世界的アルゴリズム

転倒の対策は、アルゴリズムによって評価とアプローチが紹介されています。

「高齢者の転倒予防と管理に関する世界的ガイドライン」のアルゴリズムが代表的です。

アルゴリズムでは転倒リスクを、低・中・高リスクの3カテゴリーに層別化することで、地域在住の高齢者向けの転倒リスク検出と管理に役立ちます。

アルゴリズムのスタートは「1年ごとの健康診断」「転倒か転倒関連受傷による病院受診」です。

転倒リスク評価のポイントは3種類。

  • 過去12ヶ月の転倒歴
  • 転倒の重症度
  • 歩行やバランス機能の低下

転倒に関連した問診や身体機能評価によって判断していきましょう。

はい/いいえの判定によって転倒リスクを3つのカテゴリーに分けられます。

  • 低リスク:「まったくリスクがない」という意味ではないため、高齢者には一次予防を目標。低リスクでは毎年評価をするべきである。
  • 中リスク:筋力とバランスの運動介入によって転倒予防効果が得られる。二次予防によるリスク因子の改善を目標。
  • 高リスク:身体機能面だけでなく、多要素による転倒リスク評価を実施する必要がある。二次予防と治療が目標。高リスクでは個別対応型の介入が必要。

カテゴリー別にアプローチは、以下の通りです。

  • 低リスク:転倒予防に関する教育、運動実施に関するアドバイス
  • 中リスク:転倒予防に関する教育、個別に対応したバランスや歩行・筋力トレーニング
  • 高リスク:多要素的な転倒リスク評価、個別に対応した介入30~90日間のフォローアップ

転倒予防プログラムを検討する際に活かせることが多いため、アルゴリズムも知っておきましょう。

転倒予防に有効な運動介入

転倒予防に有効な運動プログラムについて、エビデンスや効果量、具体的な運動内容について紹介します。

運動介入のエビデンス紹介

転倒予防に対する運動プログラムのエビデンスについて、

地域高齢者を対象とした転倒予防のための運動プログラムはエビデンスレベル1Aとしています1)。

エビデンスレベル1A:科学的根拠が高く、行うことを推奨

エビデンスレベル1B:科学的根拠が十分でないことを理解したうえで行うことを推奨

具体的な運動プログラムは以下の通りです。

  • バランスに関する機能的な運動(座位、立位など)が含まれる
  • 個別化
  • 少なくとも12週間にわたり強度を上げながら行う
  • 週3回以上のセッションを提供する
  • 効果を高めるには長期の継続が必要

の要素が重要であると紹介されています。

”バランスに関する機能的な運動”の特徴は以下の通りです。

  • 立ち上がり運動など、重心の上下移動が含まれる運動
  • 狭い支持基底面での姿勢保持練習
  • さまざまな方法や速度の重心移動を含む、歩行やステップ運動
  • 二重課題での歩行練習

課題の難易度を調整して運動プログラムを設定したいですね。

ちなみに、太極拳や漸増的な筋力強化トレーニングを含めることは、エビデンスレベルはB1です。

筋力トレーニングも積極的に含めた方がよいですね。

他の転倒に対するアプローチのエビデンスを紹介します。

WHOが発表「高齢者のための統合ケア(ICOPE):高齢者の内在的能力の低下を管理するための地域レベルでの介入ガイドライン」にある転倒防策のエビデンスでは、2)

転倒リスクのある高齢者に対して

  • バランス,筋力強化,柔軟性,機能トレーニングなどを含む複合型の運動を推奨 (エビデンスレベル:中等度,推奨:強)
  • 専門家の判断に従い,転倒の原因となる環境的な危険因子を取り除くため住宅改修を推奨 (エビデンスレベル:中等度,推奨:強)
  • 服用薬の見直し,不要あるいは有害な服薬中止を推奨 (エビデンスレベル:低,推奨:条件次第)

複合運動や住宅改修はエビデンスがある介入となっています。

服用薬に関しては、調整について専門的な意見を参考に、調整には注意が必要です。

運動介入は転倒率を減少させる

運動介入は転倒予防には主要なアプローチの一つです。

ここでは、運動が転倒予防にどのくらい効果があるか紹介します。

以下、結論です。

  • 地域高齢者は運動により転倒率は23%減少
  • バランストレーニングを含めた複数種類の運動により転倒率は34%減少
  • 高難度バランストレーニング+週3時間以上の運動は転倒率が39%減少

*転倒率:期間中の延べ人数に対する発生した転倒の割合

2019年のコクランレビューにてSherringtonらは、 地域高齢者を対象とした転倒予防における運動効果を報告しています。3)

結果は以下の通りです。

運動介入は対照群と比較すると

  • 運動により転倒率は23%減少(RaR 0.77, 95%CI 0.71~0.83) 高いエビデンス
  • 運動により1回以上の転倒を経験する人数が15%減少(RR 0.85, 95%CI 0.81~0.89) 高いエビデンス

運動は、繰り返す転倒と初回の転倒の両方を防ぐために有効であることが示されています。

この調査は108のRCT研究が含まれ、23,407名の地域高齢者が対象となっており、エビデンスレベルの高い研究です。

また、Sherringtonらは、運動様式の違いによる転倒予防効果も報告しています。3)

対照群と比較した結果は、以下の通りです。

  • バランスや機能トレーニング:転倒率22%減少(RaR 0.76, 95%CI 0.70~0.81)、高いエビデンスレベル
  • 複数種類の運動:転倒率34%減少(RaR 0.66, 95%CI 0.50~0.88)、中等度のエビデンスレベル

*複数種類の運動は、バランスや機能トレーニング、筋力強化トレーニングが含まれた。

  • 筋力強化トレーニングやウォーキング:転倒率を減少させるかは不明

複数種類の運動は、転倒の予防効果がエビデンスをもって報告されています。

特に複数種類の運動は転倒予防の効果が高い可能性がある。

そして、筋力強化トレーニングやウォーキングのみでは、転倒予防の効果があるか不明です。

全く効果がないとは思いませんが、転倒予防を目的に運動するなら、バランストレーニングを含めた様々な運動が有効であると判断できます。

他にも転倒予防に対する運動強度と運動時間を調査した報告もあります。

Sherringtonらは2017年に高齢者の転倒予防の運動について系統的レビューとメタ解析を実施しています。4)

  • 中~高強度バランストレーニングを含む運動プログラムでは転倒率の減少と有意な関連は認めなかった
  • 高強度バランストレーニングを含む運動プログラムは転倒率が21%減少(IRR 0.79, 95%CI 0.71~0.88, p<0.001)
  • 週2時間以上の運動では転倒率の減少と有意な関連は認めなかった
  • 週3時間以上の運動は転倒率が30%減少(IRR 0.70, 95%CI 0.82~0.99, p<0.001)
  • 高難度バランストレーニング+週3時間以上の運動転倒率が39%も減少(IRR 0.61, 95%CI 0.53~0.72, p<0.001)

高難度バランストレーニングを含めた運動プログラム週3時間以上の運動が転倒予防に有効でした。

高難度のバランストレーニングや長時間トレーニングは難しい点も多くありますが、

運動プログラムを検討する際には、難易度と時間を含めることは重要ですね。

また運動による転倒予防効果は、介護施設の報告もあります。

Dyerらは、系統的レビューとメタ解析から、介護施設における運動の転倒予防効果を調査しました。

結果は以下の通りです。

  • 介入終了時は、転倒率を32%減少 (RaR 0.68, 95%CI 0.49~0.95)
  • 介入終了時は、転倒リスクを26%減少 (RR0.84, 95%CI 0.72~0.98)
  • 介入終了後の追跡調査では、転倒率は有意な減少を認めなかった
  • 介入終了後の追跡調査では、転倒リスクは有意な減少を認めなかった

介護施設での運動による転倒予防効果は、中等度のエビデンスで有効性が示されました。

ただし、追跡調査では、転倒予防の効果がないため、介護施設では転倒予防のために運動を継続することが重要なようです。

運動介入は、地域高齢者や介護施設高齢者の転倒予防に重要であることが、高いエビデンスで示されています。

転倒予防のアプローチとして、運動効果のエビデンスを知っておきましょう。

どんな運動がよいか運動プログラムを紹介

ここでは、転倒予防のためにどのような運動プログラムが良いのか。

論文をもとに具体的な例を紹介します。

以下、結論です。

  • 転倒予防運動の推奨事項:レベルの高いバランス運動に挑戦する、週3時間の運動筋力強化トレーニングを含めることもある
  • 在宅で実施可能な自主運動も転倒予防に有効

Sherringtonらの系統的レビューとメタ解析によると、転倒予防に関する推奨事項を紹介します。3)

  1. 運動プログラムはバランス能力の高いレベルに挑戦する
  2. 毎週少なくとも3時間の運動
  3. 運動は継続的に実施する必要がある
  4. バランストレーニングに加えて筋力トレーニングを行う場合がある
  5. 指導側は対処するべき転倒リスク因子について説明する

高難度のバランストレーニングや週3時間以上の運動を推奨しており、

必要に応じて筋力強化トレーニングを実施することが重要なようですね。

バランス能力の高いレベルの課題について、以下のように紹介されています。

  • 支持基底面を減らす ex)閉脚立位→タンデム立位→片足立位
  • 立位での重心を制御する ex)上肢のリーチ動作、一側から対側への重心移動、その場で回る運動
  • 上肢を使わず(もしくは上肢の支持を減らして)立ち上がる運動

個人的には、立ち上がり動作練習はおススメです。

立ち上がりは、座位から立位へ支持基底面が狭くなり、同時に重心の制御も必要となるため難易度の高いバランス課題になります。

立ち上がり動作は、下肢の筋力も必要であり、生活でも重要な動作のため、積極的に取り入れたいトレーニングの一つですね。

続いて、実際のトレーニング内容を研究から紹介します。

Sadjapongらは、地域高齢者の身体機能向上に対する多要素の運動プログラムを報告した調査です。5)

調査で実施した運動介入は、以下のプログラムでした。

  • 内容:有酸素運動・バランストレーニング・筋力強化トレーニング
  • 時間と頻度:1回1時間、週3日、12週間
  • 強度:参加者の能力に合わせて中等度~高強度まで徐々に強度を上げて実施

アメリカのスポーツ医学会(ACSM)ガイドラインに従い運動処方をした

運動介入の結果、バランス項目(Berg balance scaleとTUG)については以下の結果でした。

  • トレーニングの実施群は対照群よりも有意に上昇を認めた
  • 運動開始前よりもトレーニング終了時や終了後12週間後も有意に上昇を認めた

複合トレーニングは高齢者のバランス能力向上を図れることが示されています。

自宅でのトレーニング効果についても、2019年のJAMAにて報告されています。

Liu-Ambrosの転倒ハイリスクな地域高齢者に対する在宅運動の効果に関する研究です。6)

対象は、転倒リスクの高い70歳以上の地域高齢者344名(平均81.6±6.1歳、女性67%)。

在宅運動群と通常ケア群を172名ずつランダムに振り分け(RCT)比較した結果は、以下の通りです。

  • 在宅運動群は通常ケア群よりも36%も転倒率が減少した(IRR 0.64, p<0.009)
  • 推定転倒発生率は、通常ケア群で1人当たり2.1回/年の転倒に対して、在宅運動群は1.4回/年
  • 12ヶ月間の実施後TUGとSPPBは在宅運動群と通常ケア群ともに有意な変化は認めなかった

転倒ハイリスク高齢者における在宅運動の実施は、身体機能は有意に向上しないが、

転倒発生を大幅に減少させることが明らかとなりました。

この調査の興味深い点として、

「TUGやSPPBが向上していないにも関わらず転倒発生率が減少している」ことです。

他の研究やメタ解析においても、高齢者では身体機能の変化だけが運動の効果ではない可能性も示されています

ちなみに、Liu-Ambroseの調査での運動プログラム内容は以下の通りでした。

  • バランストレーニング:膝の屈伸、後方歩き、方向転換、横歩き、タンデム立位、団で無歩行、片脚立位保持、踵歩行、つま先歩行、踵とつま先での後方歩行、立ち座り
  • 筋力トレーニング:膝伸展筋、膝屈曲筋、股外転筋、足底屈筋、足背屈筋

バランストレーニングを中心に筋力強化トレーニングも含めており、理学療法士から週3回の運動と週2回の30分程度のウォーキングを指導されています。

自宅でのトレーニングを継続できる工夫は必要ですが、在宅での運動指導をする際の参考になればと思います。

転倒予防に有効な多要素介入

多要素介入とは、運動介入を含めて、環境設定や薬などの色々な要素を取り入れた介入です。

転倒は身体機能だけでなく、薬の影響や環境因子など多くの要因が関わっています。

そのため、転倒予防のためには多要素の介入は重要。

ここでは転倒予防に関する多要素介入のエビデンスや効果、具体例について紹介します。

以下、結論です。

転倒リスクの高い地域高齢者に対する多要素介入はエビデンスレベル1B

転倒に関する多要素介入のエビデンスは、「高齢者の転倒予防と管理に関する世界的ガイドライン」でも紹介されています。1)

転倒リスクの高いと特定された地域高齢者に対して、多専門職、多要素の転倒リスク評価に基づき複数領域で介入を提供する(グレード1B)

地域在住高齢者の多要素介入は少なくとも以下が含まれるべきである:筋力とバランス練習、投薬の見直し、起立性低血圧や心血管疾患の管理、基礎疾患の急性および慢性疾患の管理、視力や聴力の最適化、足の問題への対処と適切な履物の選択、ビタミンDの補給、栄養の最適化、失禁管理、転倒恐怖感に対処する介入、患者教育、環境の改善(補助器具など)。

Manuel Montero-Odasso, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022.

多要素介入は、高いエビデンスレベルで必要性が提示されています。

運動介入はもちろん重要ですが、他の要因に対しても目を向けることが必要です。

介入内容をみると、項目は多く、投薬管理や栄養サポートなど専門的な領域もあるため、多職種で関わることが示されています。

リハビリが中心で関われる分野と、薬剤師や栄養士など他職種に協力してもらう内容を分けてアプローチを考える必要がありそうです。

多要素介入は転倒率を減少させる

多要素介入の転倒予防効果について、いくつかの報告を紹介します。

以下、結論です。

  • 多要素介入により転倒率は10~25%も減少
  • 多要素介入は1回以上の転倒や再転倒のリスク軽減にも有効

2018年にコクランから、地域高齢者における多要素介入の転倒予防効果が報告されました。7)

対象は地域高齢者による調査62研究、19,935名。年齢中央値77歳(62~85歳)。

通常ケア群と比較した結果、

  • 多要素介入により転倒率は26%減少(RR 0.74, 95%CI 0.60~0.91, 中等度のエビデンス)
  • 多要素介入により1回以上の転倒経験人数は18%減少(RR 0.82, 95%CI 0.74~0.90, 中等度のエビデンス)

多要素介入は通常ケアを行うよりも転倒率や転倒経験者数を減少させる効果があることが示されています。

また、多要素介入に関する別の調査では41研究、およそ2万人を対象とした系統的レビューとメタ解析の研究があります。8)

多要素介入を対照群と比べた結果は、以下の通りです。

  • 転倒率は21%減少(RaR 0.79, 95%CI 0.70~0.88, 低いエビデンス)
  • 1回以上の転倒リスク5%減少(RR 0.95, 95%CI 0.90~1.00, 中等度のエビデンス)
  • 再転倒リスク12%減少(RR 0.88, 95%CI 0.78~1.00, 中等度のエビデンス)
  • 転倒に関連した外傷や入院を必要とする転倒、健康関連QOLとは有意な差は認めなかった

多要素介入は転倒率を大きく減少させ、1回以上の転倒リスクや再転倒リスクを減少させる効果が示されています。

一方で、転倒が起因する外傷や入院、健康関連QOLは有意差がなく、多要素介入は効果がない可能性がある。

ただし、有意差を認めなかった項目に関しては研究の数がまだ少ないこともあるため、明確な結論はでていないようです。

また、Dautzenbergらは系統的レビューとメタ解析から、

多要素介入は転倒率13%減少(RR 0.87, 95%CI 0.80~0.95)

とも報告しています。9)

転倒率や1回以上の転倒リスクに関しては、

系統的レビューやメタ解析などの高いエビデンスレベルで、多要素介入が有効であることが示されています。

多要素介入と単一介入はどちらが有効か

ここでは、多要素介入と他の介入では、どちらが転倒予防に効果があるのか検証した論文を紹介します。

以下、結論です。

  • 補助具などの支援,環境評価と調整,患者教育,転倒リスク評価などの単一介入は転倒率減少の効果は認めない
  • 運動介入の単一介入は転倒率を減少させる
  • 多要素介入と単一運動介入の転倒予防効果は同程度

Dautzenbergらは、系統的レビューとメタ解析から転倒予防の単一介入と多要素介入を比較しています。9)

結果として、

  • 単一介入の中で、補助具の支援、環境設定、患者教育などは有意な転倒率の減少を認めなかった
  • 単一介入では、運動介入のみ転倒率が有意に減少した(RR 0.79, 95%CI 0,73~0.86)
  • 多要素介入は転倒率の減少と有意に関連した(RR 0.87, 95%CI 0.80~0.95)

運動介入は単一介入の中で唯一、転倒率減少に関連を示しました。
また、転倒予防効果は、運動介入と多要素介入で同程度でした。

多要素介入と運動介入はともに重要ですが、運動が難しい場合や即効性を期待する場合は多要素介入が適しているかもしれません。

また、Hopewellらの多要素介入と運動介入を比較した結果は、8)

多要素介入と運動介入の転倒予防効果は

  • 転倒率に有意差なし(RR 0.92, 95%CI 0.77~1.10)
  • 1回以上の転倒経験人数に有意差なし(RR 0.93, 95%CI 0.78~1.10)

多要素介入と運動介入では、転倒率と転倒者数の減少に有意な差がないため、

転倒予防効果は同程度であることが示されています。

紹介した2つの研究は、系統的レビューとメタ解析であり対象も大規模データです。

統計学的に転倒率をみると、運動介入も多要素介入も転倒予防は同程度の効果である可能性があります。

ただし「運動介入をすれば多要素介入をしなくてよい」ということはなく

身体機能面にアプローチをする運動介入はもちろん重要だが、身体機能以外のアプローチの重要です。

高齢者では運動により早急に身体機能の改善が図れないことが多く、運動を含めた多要素の介入が大切であると考えられます。

多要素介入の具体的なプログラム

転倒予防に対する多要素介入の有用性を紹介してきました。

ここでは、多要素介入の具体的な内容についてまとめます。

以下、多要素介入の内容です。

運動療法、薬物療法、薬の見直し、手術、排尿排便管理、栄養療法、環境支援、社会支援、患者教育、転倒リスク評価

HopewellらとDautzenbergらの系統的レビューとメタ解析では、地域高齢者に対する多要素介入を紹介しています。8)9)

いずれも、身体機能向上やサポートのため、運動介入や栄養療法、視聴覚機能などの補助具の提供。

転倒の原因を排除するための薬物管理や手術、排尿排便管理、環境や社会の支援が挙げられています。

また、多要素介入の一つである環境への介入について、以下のような論文が示されています。

Clemsonらは、コクランレビューにより、地域在住の高齢者に対する環境介入(支援技術、住宅改修、患者教育など)による転倒予防の効果を調査しました。

その結果は以下の通りです。

  • 環境への介入によって転倒率は26%減少(RaR 0.74, 95%CI 0.61~0.91)
  • 環境への介入によって転倒リスクは11%減少(RR 0.89, 95%CI 0.82~0.97)
  • 転倒リスクが高い集団では、転倒率は38%減少(RaR 0.62, 95%CI )
  • 転倒リスクを考慮しない集団では、転倒率の減少は認めなかった(RaR 0.74, 95%CI 0.96~1.16)

環境への介入によって、転倒予防の効果があることが示されました。

ただし、環境への介入は転倒ハイリスクの人には効果があるようですが、転倒リスクが低い人では、効果がない可能性も考えられます。

転倒に対するアプローチは、さまざまな面からアプローチが重要なようです。

環境への介入を含めた、多要素介入を意識しましょう。

まとめ

今回、地域高齢者に対する転倒予防のアプローチについてエビデンスをもとにまとめました。

  • アルゴリズムによる、「転倒歴」「転倒の重症度」「歩行やバランス機能の低下」から転倒リスクを判定する
  • 地域高齢者を対象とした転倒予防のための運動プログラムはエビデンスレベル1A
  • 運動プログラムはバランストレーニングを中心に筋力強化トレーニングや有酸素運動など複数の運動が重要
  • 運動プログラムは、少なくとも12週間以上、週3回以上、運動強度をあげながら実施することが転倒予防に重要
  • 地域高齢者における運動介入は転倒率を20~40%程度減少
  • 介護施設高齢者における運動介入は転倒率を32%減少
  • 地域高齢者における転倒予防のための多要素介入はエビデンスレベル1B
  • 地域高齢者における多要素介入は転倒率10~25%程度減少
  • 多要素介入の内容は、運動療法、薬物療法、薬の見直し、手術、排尿排便管理、栄養療法、環境支援、社会支援、患者教育がある
  • 環境への介入は転倒率を26%減少

臨床や地域活動における参考になれば幸いです。

参考資料

  1. Manuel Montero-Odasso, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022.
  2. World Health Organization. Integrated care for older people: guidelines on communitylevel interventions to manage declines in intrinsic capacity. 2017. World Health. Organization.
  3. Catherine Sherrington, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2019.
  4. Catherine Sherrington, et al. Exercise to prevent falls in older adults: an updated systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2017.
  5. Uratcha Sadjapong, et al. Multicomponent Exercise Program Reduces Frailty and Inflammatory Biomarkers and Improves Physical Performance in Community-Dwelling Older Adults: A Randomized Controlled Trial. Int J Environ Res Public Health. 2020.
  6. Teresa Liu-Ambrose, et al. Effect of a Home-Based Exercise Program on Subsequent Falls Among Community-Dwelling High-Risk Older Adults After a Fall: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019.
  7. Sally Hopewell, et al. Multifactorial and multiple component interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2018.
  8. Sally Hopewell, et al. Multifactorial interventions for preventing falls in older people living in the community: a systematic review and meta-analysis of 41 trials and almost 20000 participants. Br J Sports Med. 2020.
  9. Lauren Dautzenberg, et al. Interventions for preventing falls and fall-related fractures in community-dwelling older adults: A systematic review and network meta-analysis. J Am Geriatr Soc. 2021.

コメント

タイトルとURLをコピーしました