【保存版】TKA術後筋力の回復エビデンスと臨床Tips|1ヶ月・3ヶ月・角度別の落とし穴を全解説

評価

「手術は無事に終わったのに、大腿四頭筋に全然力が入らない……」

「3ヶ月経っても術前よりも力が入らないって言われたけど、筋力回復の予後がわからない」

「自動SLRは楽にできるのに、立ち上がりや階段では膝が安定しない」

全人工膝膝関節置換術(total knee arthroplasty: TKA)の後、リハビリでこんな経験はないですか?

今回は、そんな悩みに役立つTKA術後の筋力回復のエビデンスと臨床でのポイントを紹介します。

結論
  • 術後1ヶ月:術前の膝伸展筋力の50~60%も低下、神経性要因(AMI)も原因の一つ
  • 術後3ヶ月:膝伸展筋力は術前よりも低い
  • 膝関節屈曲90°での膝伸展筋力は低下しやすく回復も遅い

エビデンスレベルの高い論文から臨床での活用についても解説します。

患者さんに説明するための筋力回復の予後予測や根拠のあるリハビリメニューの選択に役立つ内容です。

ちなみに、TKA術後の膝関節屈曲可動域の予後予測については別記事で解説しています。

【術後1ヶ月の絶望】なぜ筋力は「60%」も消えるのか? — 単なる萎縮ではない「AMI」の正体

TKA術後では膝関節伸展筋力は大きく低下します。

手術直後だけでなく、術後1ヶ月でも大腿四頭筋の最大筋力は、

術前よりも約50~60%も低下しているという報告もあります1,2)。

この筋力低下には、疼痛や炎症反応の影響もありますが、神経性の因子である関節原性筋抑制が重要です。

関節原性抑制(Arthrogenous Muscle Inhibition:AMI)
  • 変形性関節症や外傷などによって、神経的に筋収縮が抑制される現象
  • 原因:疼痛、腫脹、炎症、関節角度、手術侵襲、関節受容器の退行変性、変形性関節症など

AMIは術後筋力に影響する重要な要因の一つです。

大腿四頭筋の筋力低下に神経性の影響について、メタ解析による文献の系統的レビューによるエビデンスレベルの高い報告があります3)。

術後1~1ヶ月半における大腿四頭筋力の相対変化の39%は随意筋活動(R2=0.39、p=0.015)

術後1ヶ月程度は神経性に筋力が発揮しにくい状態です。

患者さんにも「手術の影響で神経が働きにくい状態なんですよ」と伝えてると、不安が和らぐ方も多くいます。

予後を説明に取り入れてみましょう。

山田の臨床Tips

1.負荷ではなく回数で神経を促通

  • 術後数日:痛みや炎症も強い時期なので、パテラセッティングなどの軽負荷での筋収縮練習や可能な範囲での膝関節屈曲伸展の自動運動もしくは自動介助運動から開始する。
  • 注意:あくまでの筋に収縮を入れることが目的なので、痛みがない範囲で実施します。
  • 術後1週以内:リハビリ時間以外でも筋収縮頻度の機会が増えるように、立ち上がりなどの基本動作や歩行能力の向上による離床、ベッド周囲からのADL動作練習を進める。
  • 具体例:リハビリ時の歩行練習だけでなく、Pトイレの使用や車椅子移乗、端座位での食事など病棟ADLに着目
  • 注意:入院中にADLを上げる際は、病棟スタッフと相談して安全管理には注意しましょう。
  • 術後1~2週以降:疼痛や腫脹などの炎症反応が落ち着いてきたのを確認して、膝関節の運動を増やす。
  • 目安:自重レベルの負荷から開始して、反復運動を20回×2セットが余裕になるのを目安に負荷を少しずつ増やします
  • 注意:運動後や翌日に疼痛や腫れが増悪することがあれば、負荷を減らすか経過をみるようにしています。

2.リハビリ時間の調整と生活から変える他職種との連携

  • 術後は疼痛によって筋収縮が難しく、リハビリや病棟生活も消極的になりやすい原因です。
  • ADL動作や収縮練習が辛くなるレベルの痛みであれば、鎮痛剤に着目しましょう。
  • 具体例:リハビリ時(運動時)に疼痛が強いのであれば、リハビリ介入のタイミングを鎮痛の使用した1時間程度後などに変更する。
  • 具体例:痛みの状態を医師や薬剤師、看護師に共有して、鎮痛剤の量や種類の変更が可能か相談する。

3.膝関節への介入が難しい時は別の視点を取り入れる

  • 術後早期に膝関節の運動が難しい場合は、股関節などの患部外トレーニングに視点を向けます。
  • 変形性膝関節症は股関節周囲筋の筋力が低下している4)ため、歩行やADL能力の獲得に向けて筋力強化練習を実施します。
  • 具体例:側臥位での股関節外転運動、腹臥位での股関節伸展運動など
  • 変形性膝関節症は特に股関節外転筋力が重要です。興味がある方は別記事にて解説しています。

「いつ術前の筋力を超える?」自信を持って予後予測を伝えるための回復タイムライン

もう手術して3ヶ月経つのになのに、まだ足の力が弱いの…

外来で患者さんにこう言われ、返答に詰まった経験はありませんか?

結論から言うと、TKAの手術後3ヶ月で術後より筋力が弱いのは普通です。

ここでは、TKA術後の筋力変化と術後筋力はいつ超えるのかエビデンスを解説します。

TKA術後の筋力回復のスケジュールを理解し、予後予測や患者さんへの説明に役立てましょう。

エビデンスの高い2論文からみる、TKA術後の膝伸展筋力の回復過程は以下の通りです3,5)。

TKA術後の筋力回復
  • 術後3ヶ月術前よりも筋力が低い
  • 術後6ヶ月:術前レベルよりも筋力が高い
  • 術後12ヶ月以降:術前よりも有意に筋力が高い

膝関節の伸展筋力は、TKA術後3ヶ月では術前レベルまで回復せず、術後6ヶ月で術前レベルに達します

この経過を理解して、患者さんに予後予測を説明しましょう。

術後3ヶ月で術前よりも筋力が低いのは、リハビリが悪かったり、患者さんの努力が足りないのではなく、一般的な回復経過です。

山田の臨床Tips

1.患者さんへの説明

  • 術後の経過が長いと順調に良くなっているのか不安になる患者さんも多いため回復の予後予測を説明しましょう。
  • 声かけ例:「手術後3ヶ月では筋力は十分には回復しない人が多いですよ。半年から1年くらいかけて筋力は戻ってくるので運動を続けていきましょう。」
  • 予後の説明は患者の不安をやわらげ、リハビリのモチベーションを維持するためにも重要です。

2.自主練習の指導

  • 術後3ヶ月では退院しており、リハビリ介入の頻度は減ります。
  • しかし、退院後も筋力低下は残存しているため、介入時以外での筋力トレーニングを増やすために自主練習を指導することが重要です。
  • 具体例:スクワット10~20回×2セット、フロントレンジ10回×2セット
  • 注意:自宅での運動では負荷量が小さくなりやすいため、負荷量を多くしたトレーニングを提案します。
  • 注意:運動の負荷が増えると関節の負担も増えやすいため、回数や運動の範囲を設定に注意しましょう。
  • 高齢者の筋力強化のポイントが知りたい人は、別記事にて解説しています。

立ち上がりや階段で負けない膝を作る!角度別データから見る「筋力回復の落とし穴」

「MMTでは4以上なのに立ち上がり動作時で膝が伸展しにくい。」

「自動SLR運動は楽々できるのに、階段では膝が支えられない。」

膝伸展筋力と実際の動作でのギャップに悩んだ経験はありませんか。

実は、膝関節は屈曲角度によって膝伸展筋力は異なり

TKA術後も膝関節の屈曲角度によって筋力の回復経過は異なります

ここでは、膝屈曲角度と膝伸展筋力の回復を解説し、どのようにアプローチするのか紹介します。

筋力は関節までの距離と筋張力の積で表され、筋張力は“筋線維の張力-長さ関係”によって変化します6)。

簡単にいうと、“同じ関節でも角度によって発揮できる筋力は異なる”

そのため、立ち上がり動作開始時や階段昇降動作などの膝関節屈曲90°以上の運動は、膝関節伸展筋力の発揮が苦手です。

また、TKA術後の膝関節伸展筋力について以下のように述べられています7,8)。

  • 膝関節屈曲90°での膝伸展筋力は低下しやすく回復も遅い
  • 術後3ヶ月の階段昇降動作は、膝関節屈曲60°以上の深い屈曲角度による膝伸展筋力が重要

立ち上がり動作や階段昇降動作を安定させるため、深い膝関節屈曲角度での膝伸展筋力をトレーニングしましょう。

山田の臨床Tips

1.膝関節角度を意識した筋力トレーニング

  • 膝関節屈曲60°以上での膝伸展筋力を発揮する練習が重要です。
  • 屈曲角度60°程度から開始し、少しずつ屈曲角度を増やしましょう。
  • 具体例:キッキング練習、両脚or片脚ブリッジ運動など
  • 注意:深屈曲位で運動すると、創部の伸張感や腫脹による疼痛関節内圧の増加による膝蓋大腿関節の疼痛が出現するリスクがあります。創部や腫脹、疼痛に注意して浅い角度から開始しましょう。

2.負荷量を減らした特異性の原則に基づく筋力トレーニング

  • 動作に反映させる筋力トレーニングは”特異性の原則”に従うのが重要です。
  • 特異性の原則とは、簡単に言うと「動作に近い運動で筋肉を鍛える」
  • 具体例: 立ち上がり動作 座面を45cm程度から、立ち上がり運動を開始。両手をベッドにつく→太ももにつく→腕を組むの順で負荷を上げる。腕組で10回の反復運動が楽にできるようになったら5cm座面を下げて、両手をベッドから再度開始する。
  • 具体例:階段昇降動作 昇段動作と降段動作に分けて実施する。段差10~20cmから開始。両手に手すり把持→術側と対側に手すり把持→術側と同側に手すり把持の順で負荷を上げる。
  • 注意:立ち上がり動作や階段昇降動作は関節への負荷が高いため、実施時や実施後の疼痛や炎症反応がないか確認しましょう。
  • 注意:階段昇降動作では、膝への負担が特に大きいため、高い段差を用いたトレーニングは慎重に検討します。日常生活でも手すりなどの支持物は積極的に使用するように指導しましょう。

【まとめ】TKA術後の筋力回復に合わせたリハビリポイント

ここまで、TKA術後の筋力回復と臨床でのアプローチについて解説しました。

重要ポイントのおさらい

  1. 術後1ヶ月は50~60%程度も筋力が低下:疼痛や炎症だけでなく、神経性要因であるAMIが関与しているため軽負荷高頻度の筋収縮練習が必要
  2. 術後3ヶ月では術前筋力まで回復しなくても普通:回復期間の予後を説明して、不安の軽減やモチベーションを保ち、自主練習を積極的に指導
  3. 膝関節屈曲90°での膝伸展筋力は低下しやすく回復も遅い:立ち上がりや階段昇降動作で重要な深い屈曲角度での膝伸展筋力は低下しやすいため、特異性の原則に沿って集中的にアプローチする

明日から使えるTKA術後筋力に関わる5ポイント

  1. 術後早期は神経による筋の抑制が働く(AMI)ため、低負荷・高頻度で筋に収縮を入れる目的でトレーニングをする
  2. 術後は痛みも必ず筋力に影響するため、必要に応じて鎮痛剤の種類や使用タイミングを相談する
  3. 術後3ヶ月では術前よりも筋力が弱い状態は一般的であり、エビデンスに基づいた回復の予後予測を患者さんへ説明する
  4. 膝関節屈曲90°は膝伸展筋力が低下しやすく、回復も遅延する。膝関節を深い屈曲位での筋力トレーニングを積極的に取り入れることで、立ち上がりや階段昇降動作がスムーズになる
  5. 疼痛や腫れの増悪の評価は運動時だけでなく、翌日もチェックする。増悪が疑われる場合は①CKCをOKCへ変更、②膝の可動域範囲を狭くして運動する、③膝に荷重がかかる運動を減らす

TKAは新人が経験しやすい疾患ですが、教科書的に上手くいかない場合も多くあります。

術後の筋力回復を理解し、日々の臨床に活用しましょう。

参考資料

  1. Ryan L Mizner, et al. Early Quadriceps Strength Loss After Total Knee Arthroplasty The Contributions of Muscle Atrophy and Failure of Voluntary Muscle Activation. J Bone Joint Surg Am. 2005.
  2. Jennifer E Stevens-Lapsley, et al. Quadriceps and hamstrings muscle dysfunction after total knee arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2010.
  3. Armin H Paravlic, et al. Neurostructural correlates of strength decrease following total knee arthroplasty: A systematic review of the literature with meta-analysis. Bosn J Basic Med Sci. 2020.
  4. Hinman RS:Hip muscle weakness in individuals with medial knee osteoarthritis. Arthritis Care Res(Hoboken)2010.
  5. Armin H Paravlic, et al. The Time Course of Quadriceps Strength Recovery After Total Knee Arthroplasty Is Influenced by Body Mass Index, Sex, and Age of Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med. 2022.
  6. 市橋則明.筋力トレーニングの基礎知識ー筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズムー.京都大学医療技術短期大学部紀要別冊健康人間学.1997.
  7. 眞田祐太郎,他.人工膝関節全置換術後患者における大腿四頭筋およびハムストリングスの膝関節角度別等尺性筋力の推移.理学療法学.2017.
  8. 眞田祐太朗,他.身体機能の推移から考える人工膝関節全置換術における標準的リハビリテーション.日本職業・災害医学会会誌.2019.

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