TKAの後は、いつまで筋力が弱いの?
TKA術後の膝伸展筋力はどんな風に回復するの?
全人工膝膝関節置換術(total knee arthroplasty: TKA)の後、膝伸展筋力は著しく低下し、その後に筋力は回復します。
膝伸展筋力の回復は、移動能力やADL能力にも関わるため予後予測にも役立つ重要な要素です。
この記事では、TKA術後における膝伸展筋力の回復経過について解説します。
結論は以下の通りです。
- TKA術後の膝伸展筋力はほぼ直線的に回復する
- TKA術後1~3か月の膝伸展筋力は術前よりも有意に低い
- TKA術後の膝伸展筋力は6ヶ月以降に術前レベルよりも筋力が向上する
TKA術後の膝関節屈曲可動域の予後予測もまとめています。
TKA術後1~3ヶ月の膝伸展筋力は術前より有意に低い
ここでは術前と比べたTKA術後の膝関節伸展筋力が、いつまで低いのか解説します。
結論は以下の通りです。
TKA術後の膝伸展筋力において1~3ヶ月は術前の膝伸展筋力よりも有意に低い
大西らは、TKA術前後の身体機能回復を1年という期間で調査しています1)。
その結果、膝伸展筋力は術後4週までは術前より低いことが明らかとなりました。
また、BadeらもTKA術の膝伸展筋力を術後6ヶ月まで追跡調査しています2)。
その結果、膝伸展筋力は術前と比べ、術後1ヶ月まで術前より低いとしています。
大西らやBadeらの報告では、術後1ヶ月では術前より有意に低く、術後3ヶ月程度で術前レベルの筋力まで回復する可能性がありそうです。
ちなみに、Miznerらは術後30日前後での筋力低下の割合を調査しています3)。
その結果、大腿四頭筋の等尺性収縮は術前と比べ、60%も有意に低下していると報告しました。
TKA術後の筋力回復については、系統的レビューとメタ解析によるエビデンスレベルの高い報告もあります。
Paravlicらは、10研究、合計289名を対象にTKA術後の大腿四頭筋の筋力回復を調査しました4)。
その結果は以下の通りです。
- TKA術後から大腿四頭筋の筋力は直線的に回復する
- 術前筋力と比べ、術後3か月でも有意に低い
また、Paravlicらは2022年にも17研究,832名を対象にしたTKA術後の筋力回復をメタ解析にて報告しています5)。
その結果は以下の通りでした。
- 膝伸展筋力は術後3日は最も筋力が低い可能性がある
- 膝伸展筋力は術後3ヶ月でも術前より有意に低い
系統的レビューとメタ解析の結果からは、術後3ヶ月では術前筋力よりも有意に低いことが明らかとなっています。
TKAは術後早期に退院をするケースも多くあります。
退院した後でも筋力は術前よりも低く、術後のトレーニングが重要です。
術後3ヶ月は、自主トレーニングや外来などのフォローアップが必要かもしれません。
TKA術後における膝伸展筋力の回復には6か月以上
ここでは、膝伸展筋力はいつから術前レベルまで回復するか解説します。
結論は以下の通りです。
TKA術後の膝伸展筋力は6ヶ月以降に術前レベルより筋力が向上する
TKA術後の筋力変化を調査では、術後3か月で術前レベルまで回復したと述べられていました1)2)。
また、TKA術後の膝伸展筋力を調査したメタ解析では、術後6ヶ月で術前と同レベルになると報告されています3)。
TKA術後3~6ヶ月で膝伸展筋力は術前レベルと有意差がないという報告が多いようです。
しかし、2022年に発表されたParavlicらの系統的レビューとメタ解析の報告では、以下の内容が述べていました。
(変動効果をみると)TKA術後6ヶ月でも完全に回復しなかった。
(先行研究では)手術後6ヶ月経っても術前のレベルに達しなかったと報告があり、メタ分析アプローチに基づく我々の調査結果でも同様の傾向が示された。
Armin H Paravlic, et al. The Time Course of Quadriceps Strength Recovery After Total Knee Arthroplasty Is Influenced by Body Mass Index, Sex, and Age of Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med. 2022.
TKA術後6ヶ月でも膝伸展筋力が完全に完全に回復しない可能性があるようです。
年齢や性別、その他の健康状態、トレーニング状況によっては、筋力の回復に6ヶ月を超える期間が必要かもしれません。
筋力の向上は長期的に考える必要があることを抑えておきましょう。
高齢者の筋力トレーニングについては別の記事で解説しています。
ちなみにですが、
眞田らは、TKA術後の患者を対象に、膝の屈曲角度を変えて膝伸展筋力の推移を調査しました。
その結果は以下の通りです。
- 膝30°屈曲位では術後3週で術前と有意差ない
- 膝60°屈曲位・90°屈曲位では術後3週では術前より有意に低い
- 膝60°屈曲位は術後12ヶ月で術前より有意に高いが,膝90°屈曲では術後12ヶ月でも術前と有意差ない
つまり、膝屈曲角度が大きい肢位では膝伸展筋力の回復が遅いかもしれません。
臨床経験でも、立ち上がり動作や階段昇降など膝屈曲位で筋力が不十分な患者さんをみたことはないでしょうか。
TKA術後の膝伸展筋力の回復には、膝屈曲角度に着目することも重要かもしれません。
まとめ
TKA術後の筋力変化について論文をもとに紹介しました。
TKA術後の筋力回復の過程を知ることで、予後予測や自主トレーニング指導にも有用です。
- TKA術後3ヶ月の膝伸展筋力は術前よりも有意に低い
- TKA後の膝伸展筋力が術前レベルより向上するには6か月かかる
- 膝屈曲角度が大きい肢位では膝伸展筋力の回復が遅い可能性がある
参考資料
- 大西邦博,他.人工膝関節全置換術患者に対する術後1年までの身体機能回復の推移.理学療法学.2019.
- Michael J. Bade, et al. Outcomes Before and After Total Knee Arthroplasty Compared to Healthy Adults. J Orthop Sports Phys Ther. 2010.
- Ryan L Mizner, et al. Early Quadriceps Strength Loss After Total Knee Arthroplasty The Contributions of Muscle Atrophy and Failure of Voluntary Muscle Activation. J Bone Joint Surg Am. 2005.
- Armin H Paravlic, et al. Neurostructural correlates of strength decrease following total knee arthroplasty: A systematic review of the literature with meta-analysis. Bosn J Basic Med Sci. 2020.
- Armin H Paravlic, et al. The Time Course of Quadriceps Strength Recovery After Total Knee Arthroplasty Is Influenced by Body Mass Index, Sex, and Age of Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med. 2022.
- 眞田祐太郎,他.人工膝関節全置換術後患者における大腿四頭筋およびハムストリングスの膝関節角度別等尺性筋力の推移.理学療法学.2017.
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