COPD患者さんに、6分間歩行テストをするのは患者さんの身体負担が大きく、時間的にも難しい。
COPDの予後を検討する5回立ち上がりテストのカットオフ値は?
身体機能はCOPD患者の予後と関係していると報告はいくつかあり、
リハビリでの身体機能測定はゴールドスタンダードです。
特に6分間歩行テストは重要であり、以下の報告があります。
- 6分間歩行テストがCOPD患者の死亡率と関連している1)
- 6分間歩行テスト<350mは死亡率が増加2)
しかし、6分間歩行テストは患者さんへの負担が大きく、検査時間が長いというデメリットもあります。
そのため、6分間歩行テスト以外の評価方法があれば、患者さんや臨床での負担が少ないと感じる人も多いです。
この記事では、5回立ち上がりテストを用いたCOPD患者の予後予測について、論文をベースに解説します。
この記事の結論は以下の通りです。
- COPD患者の死亡リスク増加の予測は5回立ち上がりテスト16秒以上
- COPD患者の増悪リスク増加の予測は5回立ち上がりテスト13秒以上
- 5回立ち上がりテストによるメリット:患者さんの負担が少ない・短時間・どこでも実施可能
5回立ち上がりテストに関する他の記事はこちらをご参照ください。
COPD患者に5回立ち上がりテストをする4つのメリット
予後予測に有用
“COPD患者の死亡リスク増加の予測は5回立ち上がりテスト16秒以上“
“COPD患者の増悪リスク増加の予測は5回立ち上がりテスト13秒以上“
5回立ち上がりテストはCOPD患者の死亡やCOPD増悪と関連しています。
COPD患者の死亡リスクを予測する身体機能を調査した研究3)では、
5年間の死亡率と5回立ち上がりテストは関連(ハザード比1.04/秒)しており、
5回立ち上がりテストが1秒遅くなると死亡リスクが1.04倍高まると報告しています。
この研究では、死亡を予測する5回立ち上がりテストのカットオフ値は15.98秒でした。
そのため、
5回立ち上がりテスト>16秒は死亡リスク増加の可能性
があります。
ちなみに、死亡率が増加する6分間歩行テスト<350mを判定する5回立ち上がりテストは13秒であると報告4)があります。
5回立ち上がりテスト>13秒は死亡リスクの増加に関わる可能性
5回立ち上がりテストはCOPDの死亡率だけでなく、COPD総悪との関係も報告されています。
1年以内のCOPD患者の増悪を予測する身体機能評価を調査5)したところ、
6分間歩行テスト>350mと5回立ち上がりテストスコア2点以下がCOPD増悪と関わっていました。
立ち上がりテストのスコアは、SPPBで用いられるスコアリングです。
2点以下とは、13.7秒以上です。
つまり、5回立ち上がりテスト13.7秒以上はCOPD増悪を予測できます。
ここまでの話で、5回立ち上がりテストのみで死亡リスクや増悪リスクを確定するつもりはありません。
必ず危険というわけではなく、「リスクが高い状態かも…」と考えるきっかけにしています。
リスクがある!ということを把握するだけで、アプローチやリスク管理は大きく異なります。
疲労度が少ない
5回立ち上がりテストは疲労度の少ない身体機能評価です。
5回立ち上がりテストと30秒立ち上がりテストを比較した研究6)では、
90%以上の人が5回立ち上がりテストの方が「疲れない」と回答し、患者さんへの負担の少なさを報告しています。
5回立ち上がりテストと6分間歩行テストの負担を比較した研究は見つからなかったので、
6分間歩行テストよりも負担が少ないと明言はできないですが、
自分の経験としては、5回立ち上がりテストの方が疲労の訴えは少なく、少ない休憩時間で次のプログラムに移れます。
5回立ち上がりテストは患者さんへの負担が比較的少ないテストだと思います。
短い時間で実施できる
5回立ち上がりテストの3つ目のメリットは、時間が短く済ませるということです。
6分間歩行テストが6分かかるのに対して、(休憩や説明時間を入れると10分くらい)
5回立ち上がりテストでは準備や説明も含めて1~2分で実施することができます。
臨床でこの時間の差は、実際の時間的負担よりも、検査者や患者さんの意欲へ影響すると思います。
6分間歩行テストは気が重く感じても、5回立ち上がりテストならちょっとやってみるかという気になるという人もいないでしょうか。
広い空間がなくても実施できる
4つめのメリットは、どこでも実施可能ということです。
例えば、6分間歩行テストはガイドライン上では、「30mの平坦な直線」が必要になります。
大病院ではリハビリ室周辺にスペースを作ることも可能ですが、一般病院やクリニックでは30mの直線はほとんどないです。
その点、5回立ち上がりテストでは、椅子が置けるスペースがあれば実施可能です。
リハビリ室だけでなく、病室や訪問リハビリ時にお家でも実施できる点も5回立ち上がりテストのメリットになります。
参考資料
- Pinto-Plata V.M.,et al. The 6-min walk distance: Change over time and value as a predictor of survival in severe COPD. Eur. Respir. J. 2004.
- Spruit M.A., et al. Predicting outcomes from 6-Minute walk distance in chronic obstructive pulmonary disease. J. Am. Med. Dir. Assoc. 2012.
- Francesc Medina-Mirapeix, et al. Prognostic value of the five-repetition sit-to-stand test for mortality in people with chronic obstructive pulmonary disease. Ann Phys Rehabil Med. 2021.
- Roberto Bernabeu-Mora, et al. The accuracy with which the 5 times sit-to-stand test, versus gait speed, can identify poor exercise tolerance in patients with COPD: A cross-sectional study. Medicine (Baltimore). 2016.
- Francesc Medina-Mirapeix, et al. The five-repetition sit-to-stand test is a predictive factor of severe exacerbations in COPD. Ther Adv Chronic Dis. 2021.
- Qin Zhang, et al. A comparative study of the five-repetition sit-to-stand test and the 30-second sit-to-stand test to assess exercise tolerance in COPD patients. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018.
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